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21 暗雲が(王太子リース視点

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 前期の試験の補習も終え、私は新しい婚約者のマリリーを紹介するべく、彼女を伴って父上と母上の前に立っていた。
 隣には今日のために設えたふわふわと妖精のように可愛らしいマリリーが立っている。

「父上、母上。こちらが私の新しい婚約者のマリリー・ミルド子爵令嬢です」

「マリリーでぇす!よろしくお願いしますー!」

 マリリー、そこは何も言わずに美しく跪礼する様に何度も言ったのに、何故口を開くんだい?発言を許可されてないのに……!

「すみません父上。マリリーは緊張しているようで」

「えーマリリーはふつ「黙って!」」

 マリリーに注意を払っていて気付くのが遅れたが、二人とも笑いもせず、表情がない。まるで仮面のようだった……何故だろう。

「リース」

「何ですか、父上」

 重く、硬い声が上から降って来た。なんだ、なんかおかしい。

「リース、愚かな我が息子よ。嫡男と甘やかして置けばまさかこれ程の事を仕出かすとは、子々孫々に詫びをいれよ」

「は……?何を、何を言っておられるのですか?父上……私は、ただマリリーをお二人に……」

「お前は我が王家がヴェルデ家に借金をしておる事実、忘れた訳ではあるまいな?」

 しまった!完全に忘れていた。そうだ、我が王家はあのアルカンジェルのヴェルデ家に借金をしていた。

「も、勿論でございます。忘れてなどおりません。借金など返してしまえば良いでしょう?」

「お前とアルカンジェル嬢が婚約してから、ヴェルデ家の好意で利息は払わなくて良い事になっていたのは、勿論覚えておるな?それによりそこそこに返済も進んでいた事も」

 し、知らない。知らないぞ?いや、しかし婚約を結ぶ時、かなり複雑で色々な事をしたと聞かされていた。

「良いですか!リース。アルカンジェルを大切にするのです。愛と真心を持って接するのです!」

 何度も何度も言い聞かされた、よく覚えている。

「お前とアルカンジェル嬢の婚約が解消された場合、その原因がお前にある場合。納めるべきだった利息も返却するよう、しっかりと書かれておる。分かるか?リース。お前自身がアルカンジェル嬢に払うべき違約金も上乗せされ、我が家の借金は永遠に消えぬ!!」

「は……な、何故」

「返せる額より利息が上回れば、増える一方なのは当然であろう……借金を返す?この国を全て売り払ってもヴェルデ家に払う額に足りぬわ!」

 う、嘘だろう……?!なんで我が王家はそんなにヴェルデ家に借金を?!

「し、しかし!この婚約破棄はアルカンジェルがマリリーを虐めた事が原因ですから!」

 そうだ、私は、私は何も悪くない!

「お前が先にアルカンジェルを蔑ろにしたからであろう。お前からはいつも順調ですと聞かされておったし、アルカンジェルも堪えておったから気付くのが遅れた……。お前、いつからアルカンジェルのエスコートをしていない?最後にアルカンジェルに贈り物をしたのはいつだ?彼女の好みを知っておるか?」

「そ、それは……あ、アルカンジェルは赤いドレスが好きなので……贈ったのは……」

 学園に入ってすぐにマリリーと出会った。そこから一切アルカンジェルのエスコートもしていないし、贈り物もしていない。アルカンジェルに貢ぐくらいなら、マリリーに買ってやりたい。
 何を渡しても

「ありがとう……ございます。大切にいたします」

 と、あまり喜ばないアルカンジェルより

「うわーーー!素敵素敵ーー!素敵です!リースさまぁ!」

 と大声ではしゃぎ飛びついてくる無邪気なマリリーの方がよっぽど可愛らしいではないか。

「アルカンジェルは赤いドレスは嫌いだそうだ」

「そんなはずは」

 あいつはいつも真っ赤なドレスを着ていたぞ。いや、子供の頃は違ったな。いつからだ?赤い物を着始めたのは。

「赤のドレスは自分を奮い立たせる為、あの子に酷い仕打ちをしてしまいました」

 母上が扇で顔を覆って泣いている。何故だ、何故皆アルカンジェルの味方なんだ?!誰か……

「覆せない物は覆せん。リース、近々ある王子妃試験までは待ってやる。忘れるな」

「お、王子妃試験……?」

 私が聞き返すと母上は呆れたと言う表情の後に。

「夏と冬に王子妃に相応しいか試験を毎年行っておる事をお忘れに?アルカンジェルは毎年最優秀でしたから、あなたの王太子の座は揺るぎないものでした。アルカンジェルを捨ててその座、守れると良いわね」

「え」

 な、なんだそれ。完全に覚えていないぞ?

「まさか将来の国母を担う者に、マナーや教養が必要ないとは言いませんよね?王子妃試験、忘れる事などないように」

 父上と母上はそれだけ言うと出て行ってしまった。二人はマリリーに一言も声をかけないどころかそこにいないものとして扱った。見る事も無かったのだ。

「リースさまぁ?マリリー試験をうけるのですかぁ?嫌ですぅーー!」

 私の将来に暗い雲が立ち込めているのにやっと気がつき始めた。



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