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11 こんなはずでは(兄・ノルド視点

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 朝食はいつまで経っても来なかった。

「リック、ハーヴィお疲れー。見張りの交代だー」

「おーサンキュー。今日の飯何?」

 そんな声が扉の外から聞こえて来たから、私にも朝食が運ばれて来るはずなのに、メイドが扉をノックしないのだ。

「くそっ!おい!飯を持ってこい!」

 ダンダンと扉を叩くと、男達の舌打ちが聞こえた。

「チッ!うっせーな。一食くらい食わなくても死なねーよ」

「黙れ!使用人が!私は昨日の夜も食べてないんだ!早く朝食を持ってこいっ!」

 なんて気が利かないんだ!こいつらはクビだ!少し静かになってから、今度は女の声が聞こえた。

「人間、一日食べなくても死にはしませんよ」

 は?!何を言っているんだ!?このメイドは!

「ねえ、ジーク、ゴディ。ノルド様はとても反省した様子を作るために、顔色が悪くやつれた演技をするそうですわ。ノルド様の朝食をお下げした、そうよね?」

 な!何を言っているんだ?!このメイドは!!ジークとゴディは扉の外に立っている二人だろう!馬鹿な妄想はよせ!私はそんな事を一言も言っていない!!

「あー!レラさん!そうでしたぁ!俺たちそう言われてたんでしたぁ~」

 大根役者も逃げ出すほど酷い演技の声がする。

「そうでしたぁ~ついうっかり朝食を頼む所でしたぁ~」

「もう!おっちょこちょいねー!そんなんじゃ素振りもっと増やさないと駄目じゃない?」

「ひえ!500回で勘弁して下さいよぉ!」

「レラさん、鬼っすかぁー!」

 何を言ってるの!公爵家の護衛たるもの、木の棒でドラゴンくらい殴り殺せなくてどうしますか!という冗談にしても笑えない事を言いながら、声は遠ざかって行く。

「おい!お前ら!早く食い物を持ってこい!」

 扉越しに立っているだろう護衛共に声を掛けるが、帰ってくる答えは

「だいじょーぶだいじょーぶ、分かってますって。水さえ飲めば3日は人間持つんだそうですよ」

「トイレくらいは付き合ってあげますよ、ハハハ」

 嘘だろう!?あのレラとか言ったメイドの話を真に受けるのか!?

「お前ら!調子に乗るんじゃない!ここから出たら覚えておけ!」

 私はこの家の跡継ぎなんだぞ!?跡継ぎを邪険にしておいてただで済むと思うなよ!

「出れるといいっすねぇ?坊ちゃん」

 扉の外から聞こえてくる声の語る内容に、私は背筋が寒くなった。

「なんで謹慎なんかさせられてここに閉じ込められたンスか?やばい事したからでしょ?家じゅう皆知ってますよ?家じゅうどころか貴族達の間でかなり有名な醜聞ですからねえ。お嬢様が頑張って家の面子を保ってくれてますが、そんなヴェルデ家の面汚し、一生外に出さない方がいいって思いません?」

「な!?は?そ、そんな馬鹿な……」

 いやそんなはずは、この私が、そんな……このままこの部屋で一生を終える……?まさか、まさかそんなことが合っていいはずがない、許されるはずがない。

「良く考えてくださいねえ?坊ちゃん。無能ならまだしも、足を引っ張るお荷物なんか要らないんですよ?しかも今まで相当やらかしてきたアホで問題行動ばかり起こすお坊ちゃま。婚約者様からも切られたら何の価値もないですからねえ……?」

「ひ、嘘だ……まさか……」

「ご自分の胸に手を当てて、行動を振り返ってみてくださいな。何か情状酌量を汲める事、しました?してませんよねえ~」

 私のここ最近……殿下とマリリーと共に過ごし、勉強はほとんどせず……顔を合わせればアルカンジェルに文句を言い、社交界は出ていない。わ、私は……私は……!?

「自業自得~自分で蒔いた種はご自分で~」

 私はショックのあまり目の前がふっと暗くなり、その場に倒れたようだが誰も助け起こしてはくれなかったようだった。

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