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8 良い事がある朝

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 朝に誰かが起こしてくれる。大抵はレミかレラだわ。

「お嬢様、おはようございます。今日もいい天気ですよ」

「おはよう、レラ。本当ね」

 お日様の光はあまり当たると良くないと言うけれど、レミとレラは朝一番にたっぷり浴びると良いと言う。
 
「まず、口を濯いて。お水をどうぞ」

「ありがとう」

 そして寝起きにお水を飲む。なんだか朝からスッキリする習慣だわ。レミとレラが始めた事だけど、最近は家の使用人は全員してるみたい。

「体操でもしましょうか!」

「ふふ、あのヘンテコ体操ね?」

「ウェストのくびれに良いんです!」

 巻き髪に時間が掛からなくなったので、空いた時間を体操に充てる。

「腕を前から上に上げてぇーー」

 レミレラ考案のヘンテコ体操は真面目にやると結構疲れるけれど、朝食前に踊るとご飯が美味しいのよね!

「おはよう」

「お、お父様?!おはようございます!」

 朝食の席にお父様がいらっしゃるなんて!初めてだわ!嬉しい!ドキドキして作法を忘れてしまいそう!

「すぐ行かねばならんが」

「あ、はい……お勤めご苦労様でございます」

 でも朝から挨拶出来ただけでも嬉しいわ。朝からフルーツたっぷりのパンプティングをいただく。うちの料理長は本当にお料理上手!

「ふ、古くて硬くなったパンがこんなに美味しく!レミレラは天才か?!」

「お嬢様には新しいパンで作って差し上げて?」

「お砂糖は少なめよ!フルーツいっぱいでね!」

 厨房にレミとレラも出入りしているから、新しいお料理が生まれて来るかも知れない。楽しみだわ。

 お父様はお茶だけをお召し上がりになるみたい。大丈夫かしら?

「朝食は一日の力の源です!しっかり食べてください!」

 それがレミの口癖だけど……?

「ぶっ?!なんだこれは!おい!」

 お父様が飲んでいた紅茶を吹き出しました。も、もしかして何も言わずに初めて差し上げましたの?!

「ミントティーでございます。ミントには目を覚まし、頭をスッキリさせる作用がございます」

 何食わぬ顔顔でレラが言うのが面白いわ!私も初めて飲んだ時は驚いた物です。

「このような物、飲めるかっ!」

 声を荒げるお父様ですが、ついわたくしは口を挟んでしまいました。

「不思議な味ですわよね。でも、スッキリ致しませんか?香りも爽やかですし、目もぱっちり開きますわ。わたくし、勉強で疲れを感じる時にいただきますのよ」

「お嬢様のはもっと濃いミントですね」

「あら?そうなの?ふふ。お父様も香りが爽やかで素敵ですわ」

 お父様は叩きつけかけたカップを元に戻します。そこにすかさずレラが新しいミントティーを注ぎました。

「このように香りの主張が少ない茶葉に合わせました。ミントの香りを楽しみつつ、お召し上がりください。書類が進みますよ」

「む、むむ……」

 難しい顔をしながら、お茶をいただくお父様。そう言う物だと分かれば難なくいただけるようです。

「このミント。割と何処にでも生えるハーブだそうです。庭師が言っておりました。でもわたくしはこのように使えるとは知りませんでした。……ただ知らなかったで、わたくし達はどれだけ多くの利を捨てて来たのでしょう」

 今、わたくしのサラダにはお花が載っています。これも食べられるのですよ、とレミが料理長にお願いして美しいサラダに仕立ててくれました。
 食べても美味しく、見た目にも美しいなんて素敵です。

「少し酸っぱいのは、お肌に良い証拠なんです」

 下町の知恵だと言います。わたくし達貴族は貴族だからと言って人の話を聞かずにいては良くないのです。

「利、か」

「ええ、わたくし達の肩に領民の生活がかかっているのでしょう?」

 わたくし達はただ贅沢をしていれば良いわけではありません。レミとレラはわたくしに教えてくれるのです。
 そんなわたくしの顔をお父様はじっと見つめておりました。も、もしかして頬に花びらでもついていたでしょうか??

「アルカンジェル。リース殿下と距離を置いて良い」

「?!畏まりました」

 お父様、お父様は私と殿下の不仲をお知りでしたのね。そしてわたくしの事を思って……。

 お父様はお茶を残して行ってしまいましたが、わたくしは嬉しくて涙が溢れました。

「お嬢様、冷たいタオルですわ。これから学園に向かいませんと」

「あ、ありがとう。レラ。でもお父様はわたくしの事を気にかけてくださっていたのね、わたくしは要らない子供ではないのね?」

「ええ、そうですとも。お嬢様は最高のヴェルデ公爵家令嬢、アルカンジェル様でございますよ」

 レミとレラの言った通りでした。お父様はわたくしを嫌ってなどいなかったのです。ああ!長年の心の痛みがすっと消えて行きました。
 昨日よりもっと胸を張って生きて行けそうですわ!

 レミとレラを信じてよかった!





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