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21 馬鹿にしてッ!
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「ああ、シェリーは初めて会ったんだね、キャロライン嬢だ。キャロライン、こちらはシェリー・レミーテ侯爵令嬢だよ」
オスカーに言われ、キャロラインは一歩前ででて綺麗な跪礼をする。
「キャロラインと申します。以後お見知りおきを」
体がブレることもなく、深々と礼をされシェリーはその雰囲気に押された。上げた目の力強さはまるで猛獣のようだと背筋に冷たいものが走る気がした。それでも言う事を言わねば、侯爵令嬢として、オスカーの婚約者として。その一心がシェリーの背中を押す。
「よろしくお願いしますわね、キャロラインさん。ところでそのドレスはオスカー様がお贈りになったとか?」
少し嗜める様に、オスカーを見上げるシェリー。何故自分にそのドレスを贈らなかったのかと。ミシェールと義理の姉妹になるのはシェリーだ。だからミシェールとお揃いになるなら自分の方が相応しいのではと、そんな意味を込めて。
「私がお兄様にお願いしましたのよ」
思わぬ方向から擁護の声が飛んできて、シェリーは驚いた。
「私がキャロラインとお揃いのドレスが欲しいと言ったからなの。ふふ、可愛いでしょう?」
無邪気に笑うミシェールの言葉は、額面は無邪気だが内容はとんでもない。しかし、完璧な王女と実績のあるミシェールを誰も非難はできない。
「いつもわがままを言わない妹の願いだ。構わないだろう?」
「そ、そうでございましたか」
そこまで言われてしまっては、シェリーもそれ以上追求することができなかった。本当なら何様のつもりなのかと、キャロラインに詰め寄りたいところなのだが、オスカーとミシェール二人がかりでキャロラインを守っているように見える。
「美しいドレスをお贈りいただきありがとうございます。オスカー様」
キャロラインは礼をオスカーに言い
「良く似合っているよ、本当に贈り甲斐があると言うものだ」
と、シェリーには見せたこともない笑顔でキャロラインに微笑みかける。
「っ!」
とっさに言葉は飲み込んだが、シェリーは怒りで叫びそうだった。オスカーはシェリーにあんな顔で微笑まない。オスカーはシェリーのドレス姿を褒めたことはない。
「お兄様、キャロラインはこちらの型のドレスをあまり持っていないのですわ。もう少し贈ってくださる?」
「ああ、もう何着か見繕おうか。キャロライン嬢、また私にドレスを贈らせてくれるね?」
「ありがとうございます、オスカー様。嬉しいですわ」
三人の目に、シェリーは映ってはいない。オスカーとミシェール、そしてキャロラインという素性も知れぬ女の間にシェリーが入る隙間が存在しないのだ。
馬鹿にして……ッ!
シェリーは叫びたかった。なんでそんな女を!しかし、夜会の最中、そんな事は出来ない。
「……ッ失礼致します」
絞りだすようにそういうと、シェリーはくるりと踵を返した。次はどんなドレスにしようかと盛り上がる三人から声を掛けられることもなかった。
そしてこの事件は貴族たちの間に波のように浸透していく。
オスカー殿下と婚約者のシェリー・レミーテ侯爵令嬢の不仲。
キャロラインという美しい令嬢のこと。
王女ミシェールのお気に入りだというキャロライン。
そのキャロラインをオスカー殿下はいたく気に入っていると言う事。
「これは婚約者の交代もありえますかね……?」
「元々、オスカー殿下とシェリー嬢はあまり良い関係ではありませんでしたからな」
「キャロライン嬢とは何者ですかの……」
「隣国の王太子の婚約者であったそうですが、どうも破棄をされたらしく」
「傷物……おっと、何か理由が?」
「その王太子に問題があるようで……」
「とばっちり、ですか?」
「ええ、それでもなお、王太子の名誉の為に自ら傷を負い、こちらの国に……」
「なんという献身……」
「隣国とはいえ王太子妃の教育はお済の方で?」
「ええ、何の問題もなく。こちらに来てから間もないのに、わが国のマナーにも精通されており……」
ざわざわ、ざわざわ。貴族たちの噂はどんどん広がる。概ねキャロラインには好意的に。オスカーとミシェールが思った通りに浸透していった。
オスカーに言われ、キャロラインは一歩前ででて綺麗な跪礼をする。
「キャロラインと申します。以後お見知りおきを」
体がブレることもなく、深々と礼をされシェリーはその雰囲気に押された。上げた目の力強さはまるで猛獣のようだと背筋に冷たいものが走る気がした。それでも言う事を言わねば、侯爵令嬢として、オスカーの婚約者として。その一心がシェリーの背中を押す。
「よろしくお願いしますわね、キャロラインさん。ところでそのドレスはオスカー様がお贈りになったとか?」
少し嗜める様に、オスカーを見上げるシェリー。何故自分にそのドレスを贈らなかったのかと。ミシェールと義理の姉妹になるのはシェリーだ。だからミシェールとお揃いになるなら自分の方が相応しいのではと、そんな意味を込めて。
「私がお兄様にお願いしましたのよ」
思わぬ方向から擁護の声が飛んできて、シェリーは驚いた。
「私がキャロラインとお揃いのドレスが欲しいと言ったからなの。ふふ、可愛いでしょう?」
無邪気に笑うミシェールの言葉は、額面は無邪気だが内容はとんでもない。しかし、完璧な王女と実績のあるミシェールを誰も非難はできない。
「いつもわがままを言わない妹の願いだ。構わないだろう?」
「そ、そうでございましたか」
そこまで言われてしまっては、シェリーもそれ以上追求することができなかった。本当なら何様のつもりなのかと、キャロラインに詰め寄りたいところなのだが、オスカーとミシェール二人がかりでキャロラインを守っているように見える。
「美しいドレスをお贈りいただきありがとうございます。オスカー様」
キャロラインは礼をオスカーに言い
「良く似合っているよ、本当に贈り甲斐があると言うものだ」
と、シェリーには見せたこともない笑顔でキャロラインに微笑みかける。
「っ!」
とっさに言葉は飲み込んだが、シェリーは怒りで叫びそうだった。オスカーはシェリーにあんな顔で微笑まない。オスカーはシェリーのドレス姿を褒めたことはない。
「お兄様、キャロラインはこちらの型のドレスをあまり持っていないのですわ。もう少し贈ってくださる?」
「ああ、もう何着か見繕おうか。キャロライン嬢、また私にドレスを贈らせてくれるね?」
「ありがとうございます、オスカー様。嬉しいですわ」
三人の目に、シェリーは映ってはいない。オスカーとミシェール、そしてキャロラインという素性も知れぬ女の間にシェリーが入る隙間が存在しないのだ。
馬鹿にして……ッ!
シェリーは叫びたかった。なんでそんな女を!しかし、夜会の最中、そんな事は出来ない。
「……ッ失礼致します」
絞りだすようにそういうと、シェリーはくるりと踵を返した。次はどんなドレスにしようかと盛り上がる三人から声を掛けられることもなかった。
そしてこの事件は貴族たちの間に波のように浸透していく。
オスカー殿下と婚約者のシェリー・レミーテ侯爵令嬢の不仲。
キャロラインという美しい令嬢のこと。
王女ミシェールのお気に入りだというキャロライン。
そのキャロラインをオスカー殿下はいたく気に入っていると言う事。
「これは婚約者の交代もありえますかね……?」
「元々、オスカー殿下とシェリー嬢はあまり良い関係ではありませんでしたからな」
「キャロライン嬢とは何者ですかの……」
「隣国の王太子の婚約者であったそうですが、どうも破棄をされたらしく」
「傷物……おっと、何か理由が?」
「その王太子に問題があるようで……」
「とばっちり、ですか?」
「ええ、それでもなお、王太子の名誉の為に自ら傷を負い、こちらの国に……」
「なんという献身……」
「隣国とはいえ王太子妃の教育はお済の方で?」
「ええ、何の問題もなく。こちらに来てから間もないのに、わが国のマナーにも精通されており……」
ざわざわ、ざわざわ。貴族たちの噂はどんどん広がる。概ねキャロラインには好意的に。オスカーとミシェールが思った通りに浸透していった。
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