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19 マダムのドレス
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「ミシェール様、お呼びでしょうか」
「ええ、わたくしったら今日はキャロラインに会いに来たようなものですもの」
ふふ、と美しく微笑むミシェールの横に立つキャロラインに、人々の視線は集まる。
「ちょっと!もしかしてミシェール様とお揃いのドレスでは?」
「えっ……うそっ!ミシェール様のドレスと言えばあの予約も取れないマダム・グラッサのドレスですわよね?」
「……あの傷物令嬢の方が少しグレードが抑えられているけど……色違いのお揃いだわ」
白地にレースが美しい品のいいドレスをミシェールはまとっていて、同じレース、同じ生地でキャロラインのドレスも出来ている。勿論、噂通りマダム・グラッサの店にミシェールとオスカーは制作をねじ込んだ。
「あらあら!お坊ちゃまとお嬢様がわたくしに無理を言うのは珍しいですわね。お二人のたってのお願いならわたくしも無碍にはできませんわ」
「ありがとう、マダム・グラッサ。次の夜会でわたくしと揃いのものにしてもらいたくて」
「まあまあ!ミシェールお嬢様はそこまでおっしゃる方とは?」
マダムの店にキャロラインは案内され、事細かに採寸をされる。
「あら、いい素体をお持ちですわね。ふふ、ミシェールお嬢様よりお胸が大きくて。出る所はでて、引っ込むところは引っ込み。これは作り甲斐がありそうですわ」
「て、照れてしまいますわ。マダム」
「ほほほ、良いのですよ、お針子と言う者は素敵なお嬢様に素敵なドレスを着ていただくのを至上の喜びとしているのですから。素敵な一対をおつくりしますわ」
「ありがとうございます、マダム・グラッサ。私もとても楽しみですわ」
新しいドレスは女性なら心が弾むもの。キャロラインも嬉しそうに笑う。
「マダム、キャロラインのドレスの差し色は瑠璃色にしてくれ」
そう注文を付けるオスカーにマダムは少し難しい顔をしてから
「良いのですか?」
と聞き返し、その場にいた三人は静かに頷いた。
「……分かりました」
マダムは何も言わず、注文通りの素晴らしいドレスを作成してくれた。瑠璃色、オスカーの瞳と同じ色を入れる事。それは社交界を波立たせることになるだろう。そして、このドレスはオスカーからキャロラインに贈られること。
オスカー殿下は婚約者より、キャロラインに気がある。
そう明言していると言っても過言ではない事をしようとしていることに、マダムは小さくため息をつくしかなかった。
そのマダム・グラッサ渾身のドレスを過不足なく身にまとい、キャロラインは美しく微笑んだ。その心の内は
『キタコレキタコレキタコレーーー!』
で、あったとしても。怒りの眉を吊り上げながら、赤い顔で正面からやってくる令嬢との対決を「ワクテカ」しながら待っていたとしてもだ。
「ええ、わたくしったら今日はキャロラインに会いに来たようなものですもの」
ふふ、と美しく微笑むミシェールの横に立つキャロラインに、人々の視線は集まる。
「ちょっと!もしかしてミシェール様とお揃いのドレスでは?」
「えっ……うそっ!ミシェール様のドレスと言えばあの予約も取れないマダム・グラッサのドレスですわよね?」
「……あの傷物令嬢の方が少しグレードが抑えられているけど……色違いのお揃いだわ」
白地にレースが美しい品のいいドレスをミシェールはまとっていて、同じレース、同じ生地でキャロラインのドレスも出来ている。勿論、噂通りマダム・グラッサの店にミシェールとオスカーは制作をねじ込んだ。
「あらあら!お坊ちゃまとお嬢様がわたくしに無理を言うのは珍しいですわね。お二人のたってのお願いならわたくしも無碍にはできませんわ」
「ありがとう、マダム・グラッサ。次の夜会でわたくしと揃いのものにしてもらいたくて」
「まあまあ!ミシェールお嬢様はそこまでおっしゃる方とは?」
マダムの店にキャロラインは案内され、事細かに採寸をされる。
「あら、いい素体をお持ちですわね。ふふ、ミシェールお嬢様よりお胸が大きくて。出る所はでて、引っ込むところは引っ込み。これは作り甲斐がありそうですわ」
「て、照れてしまいますわ。マダム」
「ほほほ、良いのですよ、お針子と言う者は素敵なお嬢様に素敵なドレスを着ていただくのを至上の喜びとしているのですから。素敵な一対をおつくりしますわ」
「ありがとうございます、マダム・グラッサ。私もとても楽しみですわ」
新しいドレスは女性なら心が弾むもの。キャロラインも嬉しそうに笑う。
「マダム、キャロラインのドレスの差し色は瑠璃色にしてくれ」
そう注文を付けるオスカーにマダムは少し難しい顔をしてから
「良いのですか?」
と聞き返し、その場にいた三人は静かに頷いた。
「……分かりました」
マダムは何も言わず、注文通りの素晴らしいドレスを作成してくれた。瑠璃色、オスカーの瞳と同じ色を入れる事。それは社交界を波立たせることになるだろう。そして、このドレスはオスカーからキャロラインに贈られること。
オスカー殿下は婚約者より、キャロラインに気がある。
そう明言していると言っても過言ではない事をしようとしていることに、マダムは小さくため息をつくしかなかった。
そのマダム・グラッサ渾身のドレスを過不足なく身にまとい、キャロラインは美しく微笑んだ。その心の内は
『キタコレキタコレキタコレーーー!』
で、あったとしても。怒りの眉を吊り上げながら、赤い顔で正面からやってくる令嬢との対決を「ワクテカ」しながら待っていたとしてもだ。
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