上 下
22 / 61
半魔神の残念聖女

22 ノノス村では

しおりを挟む
「不味い!こんなパン食えるかッ!」

「うるせーよ!俺の作るパンがまずいのは俺がよく知ってるよ!だからアリアに作らせてたんだろ!アリアはどこへ行ったんだよ!」

 やっと開いたパン屋の前で怒号が飛び交う。パン屋だっていきなり作れと言われて、パン生地を作り、蜘蛛の巣の張ったパン焼き窯を掃除し、なんとか形にして焼いたというのに。焼きたてを不味い!と言われては頭に来るのは当然だ!
 だが……食べなれた半魔神様の加護がふんわり乗った甘くてふわふわのアリアが作ったパンより不味いことはパン屋自身がよくわかっていた。

「だが、食ったんだから金は払え!」

「こんなまずいパンに金を払えるかよ!」

「ふざけるな!タダでパンができるわけねーだろ!」

「アリアにはほとんど金を払ってなかったじゃないか!」

「だからアリアは逃げたんじゃねえのか!?」

 そこまで口から出て、辺りは静まり返った。そうだ、おかしい話だ。パン屋でもないアリアがなんで毎朝早起きをしてパンを焼くのだ?そして、そのパンにまともな金額を払った村人はいない。儲からない、下手したらマイナスになるようなモノをなぜ、早起きして頑張って作る必要がある?

何一つない!

「……」

 村人はパン屋に金を払い、不味いパンを持ち帰る。パン屋も代金を受け取り店に戻った。


「アリア!朝飯!」

 村の子供たちが教会の扉を乱暴に開ける。

「早くしろよ!グズ!仕事始まっちゃうだろう!!……あれ?」

 教会というより小屋の中には当然アリアはおらず、何もない。アリアがとても大切に毎日磨いていた半魔神様の神像ももちろんない。

「アリアどこにいったんだ?」

「あいつがいなかったら俺たちの朝飯はどうなるの?」

「俺、かーちゃんの不味い飯食いたくねーよ」

「だよなーホント 母さんの飯はまずい」

「おーい!我慢して食ってやるから早く飯出せよ、アリア」

 答えるものは誰もいなかった。



「アリア!今日はポーションを100個よ!……あれ?」
 
 女神神殿の一番下の聖女リサが乱暴に教会の扉を開ける。もちろん誰もいないし、何もない。

「ホントだっさい小屋よね。女神神殿の美しさと比べたらここはホント小屋よ、小屋!アリア!早く出てきなさい!村人が欲しがってんのよ」

 しーん。

「アリアッ‼私を待たせるんじゃないわよ‼このグズっ!」

 バンっと唯一残されたテーブルを叩いても、古いわりに手入れが行き届いていてまだまだ使える床で地団駄を踏んでも、アリアは出てこない。それはそうだ、村にはいないのだから。

「え?どういうこと?ええ??じゃあポーションは誰が作るの??」

 リサはどうしようもなくなって、女神神殿に走って戻るしかなかった。



「アリア!今日の掃除はウチからよ!……あれ?」

「アリア!畑の手伝いはどうしたのっ……あれ?」

「アリア!昼飯がねーぞ!……あれ?」


 更に混乱は加速する。

「魔獣が出たぞ!お前の出番だ!アリア……あれ?」



「アリアはどうした!」

「いません……なぜか村にいないんです!」

「この緊急時にいないなんて何を考えてるんだ!あのグズでうすのろはっ!ええい!誰か行け!」

 男神神殿の聖者は大声を上げた。しかしその声に答えるものは誰もいない。

「聖者ニック!聖者サライ!早く魔獣を倒してくるのだ‼」

 名指しされたニックとサライはすくみ上り、しどろもどろに答える。

「ま、魔獣なんて……恐ろしいもの倒せません!」

「お前たち!それでも偉大なる男神様の聖者か‼恥を知れ!男神様はいついかなる時でも先頭に立ち、血路を開き勝利を導く勇ましき方!その神にお仕えする者が、恐ろしいなど!なんと不敬な!なんと恥知らずな!!」

 男神神殿の第一聖者のジュレイは声を張り上げた。

「な、ならば聖者ジュレイよ。あなたのお力をお示しください!」

「は?」

「そうです!ここで一番の神力があるとされるあなたなら、簡単に魔獣を屠り去ることができるはずです!そう!男神様のように!」

「そ、そのようなことは……」

 今まで勇ましかったジュレイの語尾はどんどん小さくなって消えそうだ。

「ジュレイ様!さあ、お願いします!」

 逆にニックとサライの声は大きくなる。

「いや、あの……その……」

 それもそのはず。勇敢でいかなる時も先頭に立ち、血路を開き勝利を導くはずの男神様の聖者たちは、一度も魔獣と戦ったことがなかったのであった。すべてアリアに押し付けて、偉そうに村の安全な所で文句ばかり言っていたのであるから。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

冒険者歴二十年のおっさん、モンスターに逆行魔法を使われ青年となり、まだ見ぬダンジョンの最高層へ、人生二度目の冒険を始める

忍原富臣
ファンタジー
おっさんがもう一度ダンジョンへと参ります!  その名はビオリス・シュヴァルツ。  目立たないように後方で大剣を振るい適当に過ごしている人間族のおっさん。だがしかし、一方ではギルドからの要請を受けて単独での討伐クエストを行うエリートの顔を持つ。  性格はやる気がなく、冒険者生活にも飽きが来ていた。  四十後半のおっさんには大剣が重いのだから仕方がない。  逆行魔法を使われ、十六歳へと変えられる。だが、不幸中の幸い……いや、おっさんからすればとんでもないプレゼントがあった。  経験も記憶もそのままなのである。  モンスターは攻撃をしても手応えのないビオリスの様子に一目散に逃げた。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

無能を装って廃嫡された最強賢者は新生活を満喫したい!

えながゆうき
ファンタジー
 五歳のときに妖精と出会った少年は、彼女から自分の置かれている立場が危ういことを告げられた。  このままではお母様と同じように殺されてしまう。  自分の行く末に絶望した少年に、妖精は一つの策を授けた。それは少年が持っている「子爵家の嫡男」という立場を捨てること。  その日から、少年はひそかに妖精から魔法を教えてもらいながら無能者を演じ続けた。  それから十年後、予定通りに廃嫡された少年は自分の夢に向かって歩き出す。  膨大な魔力を内包する少年は、妖精に教えてもらった、古い時代の魔法を武器に冒険者として生計を立てることにした。  だがしかし、魔法の知識はあっても、一般常識については乏しい二人。やや常識外れな魔法を使いながらも、周囲の人たちの支えによって名を上げていく。  そして彼らは「かつてこの世界で起こった危機」について知ることになる。それが少年の夢につながっているとは知らずに……。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

処理中です...