53 / 62
狐 オン ザ ライス
53
しおりを挟む
いくら探してもミーティアの行方は分からなかった。探知も何もかも発動しない。
ミーティアと言う最大戦力を失って、人族との戦いを続けると言う声も小さくなっていった。
元々ここまで拡大させるつもりはなかったのだ。管理が行き届いていないのは分かっていた。ただ、軍や民衆の声は無敗の魔王軍に撤退をさせなかっただけだ。
私が無理にでも手を引けば良かったのだが、確かに負けるはずのない戦いに少し酔っていた所もある。
しかし、それも終わりだ。滞っていた内政を強化せねばならない。手の届かぬ場所は人族に返還も考える。
寒いと思った。膝の上と、そして夜が。妃の宮へ通う気にはならなかった。ミーティアを連れて来てから、自分のベッドにあの子供を連れて来た。抱くようになってから、部屋を与えた。何かある時や、陣の強化などはその部屋で行った。
たまに気分で尋ねることもあった。
いつも嫌な顔で迎え、とろとろに溶けた声で啼いた。
好き。
大好き。
あの日の告白が衝撃過ぎて、耳に残っている。嫌な顔で迎え、嫌々抱かれていたミーティアの記憶があの日の告白と混じって、笑顔で迎え入れられ、願って甘い時を過ごしたのではないかと勘違いしそうになるくらいに。
「ティーア、お前は最後に」
何を言いたかった?私はあの言葉の続きが聞きたい。
近衛軍にミーティアの捜索を依頼した。渋い顔をされたが、隊長のスレイは
「承りました」
と、深々と頭を垂れた。軍部で捜索を続けているのは知っていたが、あちらからの報告は梨の礫だ。
人族との和平は進み、共同で学園の設立の話が進んでいた。ミーティアもとしの頃で言えば学生になってもおかしくない。
少し興味が湧いて来た。
やはり近衛は優秀で、副長のフリックは可能性を伝えて来た。
「銀の勇者が「歪みの壺」を破壊し、内部まで調査。ミーティア・ゼノアギアスの痕跡はなし」
銀の勇者…神に召喚されし、強き者。報告では魔族にも友好的と聞く。
「なお、勇者は可能性を指摘して来ました。ミーティア・ゼノアギアスは魔力の全てを歪みに取られ、代わりに聖剣を所持している可能性があると」
なんと、そんな事があるのか?2.3度瞬いた。
「全ての魔力を失ったミーティア・ゼノアギアスは今は普通の色の狐の獣人ではないか?と銀の勇者は言いました。もしくは聖剣の色を持った金かもしれないと。そして聖剣の護りを得て、生きていると」
「分かった。下がって良い」
フリックは恭しく礼をし、出て行く。なるほど、軍部は黒い狐を探しているのだろう。だから見つからないのだ。あの黒は私の与えた魔力で染まった色だ。魔力を失えば色が戻るかもしれない。
黄色、黄金色…ミーティアの生まれた時の色、白銀に空色の瞳に。
「生きている」
安堵した、殺してしまおうと思っていたのに、いざ居なくなると騒めき、生きていると思うと安堵した。何と傲慢なのだろうか。
「ティーア、それでも私は」
あの日の続きを。
ミーティアと言う最大戦力を失って、人族との戦いを続けると言う声も小さくなっていった。
元々ここまで拡大させるつもりはなかったのだ。管理が行き届いていないのは分かっていた。ただ、軍や民衆の声は無敗の魔王軍に撤退をさせなかっただけだ。
私が無理にでも手を引けば良かったのだが、確かに負けるはずのない戦いに少し酔っていた所もある。
しかし、それも終わりだ。滞っていた内政を強化せねばならない。手の届かぬ場所は人族に返還も考える。
寒いと思った。膝の上と、そして夜が。妃の宮へ通う気にはならなかった。ミーティアを連れて来てから、自分のベッドにあの子供を連れて来た。抱くようになってから、部屋を与えた。何かある時や、陣の強化などはその部屋で行った。
たまに気分で尋ねることもあった。
いつも嫌な顔で迎え、とろとろに溶けた声で啼いた。
好き。
大好き。
あの日の告白が衝撃過ぎて、耳に残っている。嫌な顔で迎え、嫌々抱かれていたミーティアの記憶があの日の告白と混じって、笑顔で迎え入れられ、願って甘い時を過ごしたのではないかと勘違いしそうになるくらいに。
「ティーア、お前は最後に」
何を言いたかった?私はあの言葉の続きが聞きたい。
近衛軍にミーティアの捜索を依頼した。渋い顔をされたが、隊長のスレイは
「承りました」
と、深々と頭を垂れた。軍部で捜索を続けているのは知っていたが、あちらからの報告は梨の礫だ。
人族との和平は進み、共同で学園の設立の話が進んでいた。ミーティアもとしの頃で言えば学生になってもおかしくない。
少し興味が湧いて来た。
やはり近衛は優秀で、副長のフリックは可能性を伝えて来た。
「銀の勇者が「歪みの壺」を破壊し、内部まで調査。ミーティア・ゼノアギアスの痕跡はなし」
銀の勇者…神に召喚されし、強き者。報告では魔族にも友好的と聞く。
「なお、勇者は可能性を指摘して来ました。ミーティア・ゼノアギアスは魔力の全てを歪みに取られ、代わりに聖剣を所持している可能性があると」
なんと、そんな事があるのか?2.3度瞬いた。
「全ての魔力を失ったミーティア・ゼノアギアスは今は普通の色の狐の獣人ではないか?と銀の勇者は言いました。もしくは聖剣の色を持った金かもしれないと。そして聖剣の護りを得て、生きていると」
「分かった。下がって良い」
フリックは恭しく礼をし、出て行く。なるほど、軍部は黒い狐を探しているのだろう。だから見つからないのだ。あの黒は私の与えた魔力で染まった色だ。魔力を失えば色が戻るかもしれない。
黄色、黄金色…ミーティアの生まれた時の色、白銀に空色の瞳に。
「生きている」
安堵した、殺してしまおうと思っていたのに、いざ居なくなると騒めき、生きていると思うと安堵した。何と傲慢なのだろうか。
「ティーア、それでも私は」
あの日の続きを。
1
お気に入りに追加
350
あなたにおすすめの小説
勇者の股間触ったらエライことになった
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。
町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。
オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
絶滅危惧種の俺様王子に婚約を突きつけられた小物ですが
古森きり
BL
前世、腐男子サラリーマンである俺、ホノカ・ルトソーは”女は王族だけ”という特殊な異世界『ゼブンス・デェ・フェ』に転生した。
女と結婚し、女と子どもを残せるのは伯爵家以上の男だけ。
平民と伯爵家以下の男は、同家格の男と結婚してうなじを噛まれた側が子宮を体内で生成して子どもを産むように進化する。
そんな常識を聞いた時は「は?」と宇宙猫になった。
いや、だって、そんなことある?
あぶれたモブの運命が過酷すぎん?
――言いたいことはたくさんあるが、どうせモブなので流れに身を任せようと思っていたところ王女殿下の誕生日お披露目パーティーで第二王子エルン殿下にキスされてしまい――!
BLoveさん、カクヨム、アルファポリス、小説家になろうに掲載。
配信ボタン切り忘れて…苦手だった歌い手に囲われました!?お、俺は彼女が欲しいかな!!
ふわりんしず。
BL
晒し系配信者が配信ボタンを切り忘れて
素の性格がリスナー全員にバレてしまう
しかも苦手な歌い手に外堀を埋められて…
■
□
■
歌い手配信者(中身は腹黒)
×
晒し系配信者(中身は不憫系男子)
保険でR15付けてます
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
【R18】満たされぬ俺の番はイケメン獣人だった
佐伯亜美
BL
この世界は獣人と人間が共生している。
それ以外は現実と大きな違いがない世界の片隅で起きたラブストーリー。
その見た目から女性に不自由することのない人生を歩んできた俺は、今日も満たされぬ心を埋めようと行きずりの恋に身を投じていた。
その帰り道、今月から部下となったイケメン狼族のシモンと出会う。
「なんで……嘘つくんですか?」
今まで誰にも話したことの無い俺の秘密を見透かしたように言うシモンと、俺は身体を重ねることになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる