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1 蓮と凛という双子の一生
しおりを挟む俺の名前は清野蓮。そして双子の弟の名前は凛という。俺達は多分一般的な家庭から見たらあまり幸せじゃない……不幸な方の生まれだと思う。
「ちくしょうっ! せっかく子供を産んだのにどうして迎えにこないのよ!アイツ」
俺達の母親の口癖みたいな物だった。俺達の母親はいわゆる未婚の母で、俺達の戸籍に父親はいない。
「普通子供ができたら認知すんのにあいつ、逃げやがった!」
どうやら母はどこかのお坊ちゃんを誘惑して一夜を共にし、俺達を妊娠したらしい。そして俺達を餌にその金持ちの坊ちゃんの家に金をせびりに行った。そしたら家の人に門前払いをくらい、坊ちゃんとやらには会わせて貰えなかった。そしてその坊ちゃんは海外へ生活の場を移し、きちんとした家柄のお嬢さんと結婚したらしい。もし、そのお嬢さんが子宝に授かれない人だったら俺達の生活も変わっていたかもしれない。でもお嬢さんは二男一女の子供達にも恵まれ、何不自由なく暮らしているそうだ。母のことはもう思い出すこともない。
だから母は荒れに荒れ、俺達を容赦なく打った。
「何であいつの子供を産んでやったのに私に会いにこないのよ!」
「……っ」
そんな時、俺と凛は抱き合って痛みに耐えるしかなかった。それでもまだ小さな時は良かった。そのお坊ちゃんとやらが来てくれる可能性があると母が信じていたからだ。俺達がいなくなったりしては困ると思ったんだろう、本当に最低限の世話をしてくれた。
しかし、俺達が小学生へ上がる頃、そのお坊ちゃんとやらが自分では手の届かない場所へ逃げてしまったと知った母は、俺達を無視し始めた。
何日も家に帰って来ない日が続き、気まぐれに帰って来ては弁当やらパンやらを置いてまたいなくなる。俺達は痩せていていつも汚い格好をしていたけれど、二人だから耐えられた。そして大人に母のことを聞かれると必ずこう答えた。
「家にいます。大丈夫です」
そういうようにキツく言われていたからだ。不幸にも児童相談所なら連絡があるわけでもなく、小学校の教師が首を突っ込んでくるわけでもなく、俺達は何とか中学生になり、少ないながらもアルバイトでお金を貰い生きてきた。何となく事情を察した近所の大人達も手を差し伸べてくれたりもした。
でもやっぱり凛がいたから生きてこれた。
「凛、調味料とって」
「はい、兄ちゃん」
踏み台に登ってよろよろと卵焼きを焼いて二人で食べたり、お湯を沸かしてカップ麺を分け合って食べたりして俺達は何とか成長した。
「今まで育てた恩を返しなさいよ!」
俺達が高校生になり、バイト代がかなり貰えるようになると、ひっきりなしに母が帰って来て金をむしり取るようになった。
「卒業したら就職しな! そして家に金を入れるんだよ」
俺達は言われるままに就職した。凛は勉強が得意で、成績もかなり良かったから、先生から大学を勧められていた。それでもその頃の俺達は母に逆らうことができす、母のいう通り進学はせずに就職した。
就職先はブラックな会社ですごく忙しそうだが、他の人達と触れ合うことができた……そして俺達の環境がかなり良くないと客観的に気がつくことができた。
「凛、家を出よう」
「うん、俺、兄ちゃんと二人なら大丈夫だよ」
俺達は秘密裏にお金を貯め、別の就職先をきめ母から逃れて遠くの街へ引っ越した。計画してから2年の年月が流れたけれど、二十歳で母の呪縛から逃れることができた。
高卒の訳ありな俺達はブラック寸前の会社にしか入れなかったがそれでも二人だから何とかなった。家賃や光熱費が半分で済むからだ。
そうして自分達で稼いだお金は全て自分で使っていいっていうのは初めての経験で、二人ではしゃぎまくった。
「これだよな!」
「うん! これだ!」
一回目の給料は住まいを整えるのに使った。二回目は欲しくて羨ましくて、子供の頃は紙に描いて切り抜いて遊んで、色々失望した……。
「ゲーム機!」
「うん!」
家電量販店により、一人一つづつ。そしてのんびり遊べて人気だというゲームを買ってウキウキと家に帰る。
「今日はコンビニ飯にしよう!」
「うん!」
夕飯を作る時間も勿体無い、帰り着くと同時に紙袋からゲーム機の箱を取り出して二人でニンマリする。無言でガサゴソと取り出し、新品のビニールを剥がす感動をひとしきり。面倒な設定も終わらせて、ワクワクしながら立ち上げる。
「あはは……」
「へへ……」
部屋の隅で二人で身を寄せ合って小さくなる必要はもうない。あまり広くないとはいえ、部屋の真ん中で両手両足を伸ばしながら寝転んでゲームをできるように俺達はとうとうなったのだ。
「魔王を倒すのが目的らしいね」
「でも好きなことしていいって書いてあるよ」
通信で繋がれる……最初の村とやらに弟と二人で立っていた。
「アバター、一緒じゃないか」
「うん、デフォルトのまま来ちゃった。兄ちゃんだってそうだろ? 俺達、ゲームでもそっくりだな」
「名前もまんまじゃないか!」
「兄ちゃんもね!」
レンとリンという茶色の髪で緑のキャラクターがいるのだ。
「俺、鍛冶屋さんになる」
「じゃあ俺はーこの薬師になろう」
そうやってやっと得た人並みの生活は長く続かなかった。
ある夜なったインターフォンの音。安いアパートだったせいでセキュリティなんて皆無に等しい。
「誰かな?」
「さあ?」
玄関に対応しに行った凛。扉を開けた瞬間からもう地獄だった。
「兄ちゃん、にげ、て」
「凛?」
扉を必死で押さえながら振り返る凛の腹には深々と包丁が突き刺さっていた。
「あんた達……あんた達まで逃げるってのぉ? 逃がさない、逃がさないわよぉーーっ」
「か、母さんっ!」
「あんたも死ねぇっ!」
「う、うわぁーーっ」
崩れ落ちる凛、襲いかかる母親。本気で抵抗すれば何とかなったかもしれない。でも俺はどうしても母親を思いっきり殴ることができなかった。
「やめてくれ、母さん! 俺達を放っておいて今更」
「黙れ黙れ黙れーっ」
そうして俺と凛はこの世を去った。ただ一つ良かったのは二人一緒に行けた事だった。一人なら寂しすぎたもんな。
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