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32 リンです!
しおりを挟む俺はリン。俺と兄ちゃんのレンはこの世界に来て楽しく暮らしていた。
「リン、調味料とって」
「ほーい」
「つって、なにこれ?」
「たぶん、コショウもどき!」
「……信じて良いんだろうな?」
「勿論!」
前の世界でもこうやって二人でご飯を作って食べてた。まだ小さかった俺達は踏み台に乗ってなんとかある物を炒めたり煮たりしてた。そうやって苦心して作ったものは焦げていたり生煮えだったり色々だったけど、二人で残さず食べたっけ。
「リン」
「ごめんって! この見た目でまさか甘いなんて思わなくて!」
この世界に来て兄ちゃんの料理は物凄く美味しくなった。ほっぺが落ちそう! なんて思うことが良くある。ただ、今日は俺がコショウだと思って渡した実が駄々甘くてクリームシチューがスイーツみたいな味になっちゃったけど。まあ、俺のせいだ。
「なんかアレンジしたらお菓子になりそうだな」
「わお! 楽しみ」
そんな楽しい日々が終わったのは村にキラキラしてた王子様ご一行がやって来て、王子様が兄ちゃんを熱い視線で見るようになってからだ。
あれ、王子様って男だよな? 兄ちゃんも男だぞ? いいのかな。
聖剣を棍棒的なナニカに変えてしまった責任感から俺達も王子様の魔王討伐の手助けになるかと、旅の仲間に加えて貰った。そんな時、王子様が兄ちゃんのいない所で俺にそっと声をかけて来た。珍しいな、旅に出てから兄ちゃんの横に常に張り付いてたのに。
「リンさん。レンさんには恋人、もしくは思い人はいますか?」
「いませんよ。いたら旅についてくるとはいわないですし」
「それは良かった。あなたには知っていて貰いたい。私はレンさんのことが好きです。ゆくゆくは私の妻として迎えたいと思っています。異論はありますか?」
「兄ちゃん男ですよ? 王子様も男ですよね」
「何か問題が?」
「……いえ、そう言い切るなら何にもないです。兄ちゃんを泣かせないで幸せにしてあげてくれるなら」
「お約束します」
俺は王子様を義兄と呼ぶ準備を整えた。そんで王子様と兄ちゃんが上手く行くように色々手助けをした。なんか兄ちゃんを騙してるような気もしたけど、全部兄ちゃんのためになるって信じてる。あの王子様は是が非でも世界をひっくり返したって自分の望みを叶えるタイプの人間だと直感したから。
そして、そんな俺にも気になる人ができた。
「魔王ー! 待てぇ!」
「リン! 少し落ち着け」
「落ち着けってナニを?! さあ、よだれでも鼻水でもいいから寄越せ!」
俺は魔王を魔王の私室とやらに追い詰めていた。魔王の色々なものは薬の材料になる。しかも既存の薬草と混ぜれば全く違う効果が期待できるなんて全部試したい!
そして俺は夢中になりすぎてすっかり忘れていたんだ。今まで、本当に危ない時は兄ちゃんが止めてくれていたんだ。その兄ちゃんは王子様に連れ去られている……だから、俺が近づいちゃあけない魔王の罠っていうか、薬の深みっていうか錬金の禁忌に足を踏み入れていたなんて。
ずいずいと魔王を追い詰めていたつもりだったのに、魔王ルーセウスは少し楽しそうに笑ったのを俺は見落とした。
「なあ、リン」
「何?」
「魔王の何かが欲しいんだな?」
「うん! なんでも欲しい!」
「私は血のように怪我をして痛むものは嫌だと拒否した。分かるな」
「分かる、納得した」
「ならば」
逃げ回っていた魔王ルーセウスはずいっと俺の方に踏み出した。
「ならば、精はどうだ?」
「へ?」
せ、精ってあのあそこから出る奴か!?
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