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19 詰められているらしい

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「……粗方……いえ、一体残らずですね」
「そりゃこんなにいっぱい素材が向こうからやってきてくれたんです! 欠片に至るまで全部余さず頂いて帰ります」

 あー! これで何作ろうかなぁ~すっごく楽しみだなぁ。俺はアイテムボックスいっぱいに詰め込まれた禍々しくておどろおどろしい金属塊をみてにっこりした。

「呪われ系のポーション作る時専用の錬金窯作ってよ、兄ちゃん」
「お? 良いぜ。村に帰ったら腕によりをかけて作ってやるよ」
「やったー! 呪われ系って特殊だから素材が中々集まらなくて作れなかったんだ。でもさっきの苔といい、ここならいっぱい集まりそうだよ」
「そうだなー! 良かったな、殿下にくっ付いてきて」
「うん!」

 そうだよなー! やっぱり黒い素材は魔王城に限るよなぁ。俺達は石垣の崩れた魔王城をぐるっと見渡す。まだまだいろんな物が取れそうだ、ここは素材天国か?!

「兄ちゃん! 中に生えてる草を見て! これも魔力過多で歪曲して……おどろおどろしい。凄い、全部むしろう!」
「そうなのか? なんか黒いでっかい草にしか見えないけど、むしるか」
「わーい!」

「レン、ちょっとこちらへ」
「殿下、今ちょっと忙しいです」
「草むしりは……誰か手伝ってやって欲しい……レンはこちらへ」
「はーい」

 顔色が元に戻った騎士さん達が俺と草むしりを交代してくれたので、俺は殿下の横に走って行った。

「レン、怪我は?」
「多分ないです」
「それなら良かった」

 いつも笑顔の殿下は少し悲しそうな顔を見てしていた……でも俺、壊して良い鎧しか壊してないですよ、大丈夫ですよね?

「レン、あなたが変わった素材を見るとちょっと楽しくなっちゃうのは理解しています」
「……はい」
「でも、何も言わずに突然、敵に突っ込んで行くのはやめてほしいです」
「でもでも! あの程度なら全然平気ですよ! もっといっぱいいても大丈夫ですし」

 むしろ手応えがなかったかな、もっとデカくて強くて凄い素材が欲しいなぁ! って口に出そうと思ったら、殿下が物凄く悲しい顔をしていた……それを見たら俺もぎゅっと胸が痛くなる。俺、怒られるより悪いことしたんだな……。

「私はとても心配しました。あなたがこのまま帰らなかったらどうしようかととても生きた心地がしなかった……無事で良かった」
「殿下……」

 ゆっくりぎゅうっと抱き締められた。

「ごめんなさい、俺……考え無しでした……心配かけてすみません……もうしません」

 抱き締め返すけど、夜と違って硬い鎧の感覚しか分からない。でもいつもくっ付いて寝ている時の暖かさを思い出して、この人の優しさとか温もりに感謝して反省した。

「分かってくれれば良いんです」
「はい……」


「良いんですかねぇ、魔王城の中で抱き合う男二人」
「……良いんじゃないんですか?」
「でも兄ちゃんは男なので子供は産めませんよ」
「アランフィールド殿下は勇者として立った際に王太子の地位を弟君にお譲りになられております。必ず後継者を持たねばならない立場でもないので、まあ……大丈夫かと」
「あ、そうなんだ。それを聞いて安心しました……でも殿下、さっきまで突っ込んでく兄ちゃんをそんなに心配してなかったですよね?」
「そりゃあレンさんの勢いは怒涛でしたから、我々も安心して見ていましたね。まあ、驚きましたけど。そこら辺がアランフィールド殿下というお人ですね」
「兄ちゃんも一生気づかなそうだし、それはそれで幸せかなぁ」


「でも頑張りましたね。敵がいなくなって良かったです」
「えへへ、ありがとうございます」

 ぴったりくっついたままで、殿下に頭を撫でてもらって照れていた俺にはリン達が何を喋っていたかは気がつがなかった。

「おや? こんな所に傷が」
「え、痛くないですよ……あははくすぐったい」
「首の所も赤くなってますね?」
「そんな所攻撃なんてされてないです……やめて下さいよぉ~あは、あはは」
「舐めてあげましょうね? だって舐めておけば治るんでしょう?」
「いや、まあそうなんですけど。あひゃっうひひ」
「ふふ」

 確かにちょっとした怪我は舐めときゃ治るって殿下に言ったことがあるけど、それを覚えてるなんて律儀な良い人だなぁ。

「そんなことしてると俺も殿下のこと、くすぐっちゃいますよ」
「それなら、先程引っ掛けてしまった指先でも舐めて頂けませんか? 早く治って欲しいですし」
「え? あ、ひゃい……」

 あれ、なんで俺、殿下の指を咥えてるんだろ? まあ、いいか。いつもの事だし。



「兄ちゃん、首のその赤いのは今朝、殿下の部屋から出てきた時からついてましたよ……」
「ああやって知らず知らずに距離を詰められてるんですよね」
「近すぎて距離感おかしくなってるのに、気づいてないから……俺よりそういうの鈍感だからなぁ兄ちゃんってば」
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