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9 愛情たっぷりだから独り占めしたい

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「これは美味しいですね……ブラウンバイソン……いえ、ブラックバイソンでしょうか?」
「わぁ、流石殿下! 当たりです」
「そんな高級肉、一体どうしたんですか?」
「たまたま手に入りました!」

 リンと素材集めに行った時本当にたまたま入手したんだ。いやぁ、取っておいて良かった、美味しいお肉!

「しかも良く煮込まれていて、スパイスの味わいも深い……あれ程の短時間でこんなに柔らかく煮えるものなんですか?」

 うんうん、スプーンでほろっと崩れるスネ肉はとろとろの筋の部分と相まって本当に美味しー!

「そこは殿下。兄ちゃんの鍛冶師の見せ所っていうか、ダッチオーブンっていうか圧力鍋っていうか」
「そうなんですよ、蓋が取れないようにして圧をかけて煮込めば短時間で美味しくなるんですが……殿下、騎士さん達はどこに? たくさん作ったんで、皆で食べられますよ?」

 あれ? おかししいな。森から戻って一緒に工房へ来ていた騎士さん達の姿が見えない。皆で食べられるように大きなお鍋でたくさん作ったのに。
 すると殿下は物凄く素敵な……ちょっと素敵すぎる王子様スマイルで爽やかに言い切った。

「彼らは村の食堂で食べるそうです」
「え、そうなんですか?」
「ええ、そうなんです」
「そうですか……たくさん作ったのに余っちゃうかなぁ」

 上手に出来たから皆にも食べて欲しかったんだけどな……ちょっと悲しいな。俺があんまりに残念そうな顔をしたせいか、殿下が慰めてくれた。

「大丈夫ですよ、凄く美味しいので私が一人で食べちゃうかもしれませんよ?」
「や! なにいってるんですか、こんなにいっぱい無理ですよ。それに殿下のスリムなお腹のどこに全部入るっていうんですか! あはは」
「ふふ、私だって一端の剣士ですから、すぐお腹が減るんですよ」

 えー! そうなのか、剣士凄いなー!俺が殿下の食欲に驚いている時、リンは何故か俺の顔をみて、更に殿下の顔を見て……となんか俺達の顔を交互に見ている、なにしてんだ?

「レンさんの愛情たっぷり料理ですからね。私が残さず全部頂きますよ、あなたの愛情をね」
「わー、嬉しいなー!」
「……」

 俺の料理を気に入ってくれて凄い嬉しい! リンはまだ俺達の顔を交互に見ている、なにしてんだ?

「どうしました? リンさん」
「ひょえっ! な、なんでも、ないでぇ……す!」

 殿下に声をかけられて、飛び上がってびっくりしてる……なんなんだ??

「あーえー……あっ! 何だか俺も村の食堂のおばちゃんの甘ーいアップルパイが無性に食べたくなった、いや! 今すぐ食べないと死んじゃう気がするからちょっと食べてくる!」
「はあ? 何言ってんだ。スネ肉シチューお前も好きだろ? 食ってから行けよ」
「いやっ駄目! 今すぐ食べないと死ぬ、死んでしまう!! なんか棍棒的な物に殴られて死んでしまう気がするから行ってくる! あ、シチューは残しておかなくていいから、兄ちゃんの愛情はあったかいうちに二人で食べちゃって、じゃ!」

 突然ガバッと立ち上がって走っていってしまった。なんなんだ、あいつ。なんか怖い物を見たような顔していっちゃった。

「今日のリンはいつも以上に変だ……」

 閉められた扉を呆然と見つめていたが、小さな笑い声で現実に戻れた。

「ふふ、面白い弟さんですね」
「すいません、変な奴で」
「いえいえ、気にしませんよ。レンさんの弟ですし……お料理をいただいても?」
「もちろんです! あっかいうちに食べましょう」

 要らないっていうならまあしょうがない。少し多い気もするけど、美味しいうちに食べないと損だ。自分達が使っている食卓テーブルに鍋を置き、一応上座を殿下におすすめする。殿下はなにやら上機嫌らしく、ニコニコしたまま席に着いてくれた。

「これであなたの愛情独り占めですね」
「あはは、そうかも?」
「嬉しいです」
「?」

 よく分からないけれど、二人でたっぷりのシチューを食べ始めた。少し気まずい時もあったけど、大体ニコニコ笑って話を聞いてくれていたので大丈夫だった。

「とても美味しかったです」
「そりゃ何より」

 かなりでかい鍋にあったはずのシチューは綺麗になくなっていた。

「本当に全部たべたんですね」
「ええ、美味しかったですから。できることなら毎日食べたいくらいです。リンさんが羨ましい」
「えっ! お城の料理の方が美味しいでしょう?」
「いえ、私はレンさんのお料理の方が好きです。それに今は魔王討伐の旅の途中です、食事を取れないことも良くあります」
「そういえばそうか」

 こうやって村に立ち寄ればきちんとした料理は食べられるけど、野宿とかもするんだろうしな……そういう時は無理だよな。

「ああ、旅での野営など辛い時、美味しい料理が食べられたらとても幸せでしょうね」

 殿下はチラッと壁に立てかけられている棍棒もどきをみる……も、もしかして俺が聖剣らしき物を棍棒もどきにしてしまったせいで旅が長引くのか!? お、俺はとんでもないのことを……!

「愛情たっぷりの美味しい料理を食べられたら健やかに旅ができる気がします」
「う、うううっ」

 俺は、俺は……俺のしでかしたことに責任を持たなければ!


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