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28 あまキングと人攫い

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「家が農業一家で良かったわ」

 家畜もやっていたから、バターとか生クリームとか、小麦粉もいい所が手に入ったしね。ありがたありがた……。

「……ケーキ作りイベントって学園時代に召喚聖女のイベントであったような……?」

 でも、ケーキを用意出来なきゃ私の命消えるのだから危なかった訳なので仕方がないわ。聖女のイベントなんてお兄様の笑顔に比べたら「は?なにそれ」よ。
 お兄様、マリエルは貴方との約束は死んでも違えませんわ!

 そしてついに私は資金源を得たのよ!このケーキ、結構流行ったのよね!だ、だって推しはお兄様だけでは無いでしょう?王太子とか他のキングのお誕生日にせっせと持っていく訳じゃない?

 そしたら広がったって訳。ダイヤ家とクラブ家で共同出資したケーキ屋さんが今王都で空前絶後の大繁盛よ!うへへへ!白いクリームの上に真っ赤な苺!しかもウチが出資してないモグリのケーキ屋の苺とは訳が違う堂々たる苺の中の苺!「あまキング」よ!
 この世界に苺はあったんだけれど、どれも酸っぱいからジャムとかジュースとかが主流だったの所にこの生食の「あまキング」!しかも我がクラブ・ファームでしか作っていない優良品種!クラブ家うちの子飼いの農家だけで栽培しているからね。丸儲けよ!

「捗ります!捗ります!」

 これで毎月お兄様とレナードにはお布施を入れる事が出来るわ!

「マ、マリエル。そんな毎月新しい服を持って来なくても」

「マリエルの選んだ服はお嫌ですか?!」

「そ、そんな事ないよ!ありがとう、マリー」

 毎月素敵な衣装を着て貰ったり!あーー!たまりませんなー!分かるでしょう?推しに来てもらいたい服って世の中にバカみたいに溢れてるの……予算の都合上、まだ一ヵ月に1着しか贈れないのが悲しいわ。

「しかし、お布施(毎月行う軽い課金よ。こんなのジャブに過ぎませんわ)だけでも、かなり……他の推しにお布施もままならないなんて……まだまだだわ……」

 早く、早く新しい金策をしなくては!

 でもその前にやる事を思い出してしまったの……。推しの課金はコンパクトにするしかないわ……まあ、後でガッツリ行かせて貰いますけどね?

「狩の……時間よ」


♣️♣️ーー♣️♣️

 最近、貧民街で子供達が攫われると言う事件が多発している。馬車が勢いよく乗り付けてきて、10歳くらいの男子をさらって行くのだと言う。

「やめろ!離せうわーー!」

「こっちくんな!ぎゃーーー!」

 今日も子供達の悲鳴が上がるが、所詮貧民。誰も助けることなど無かった。しかも犯人はどうやら貴族で、しかもかなり高位の貴族であるようだ。貴族のする事を平民が口出しする事など出来ず、子供達は毎日攫われてゆく……。

「は、離してくれ!俺には弟達と病気の母さんがいるんだ!」

「あら?弟とお母様がなんとかなれば良いのかしら?」

「え……」

 子供達を攫って行く馬車から声がかかる。顔は出さないがどうやら子供のしかも女の子の声だった。

「あなたのねぐらに案内してちょうだい」

「し、しかし!お嬢様!」

「良いから、いって!」

 お嬢様、と呼ばれた少女らしき人は馬車を走らせ、捕まった少年のねぐらの側までやって来た。

「ちょっとお母様を私の見える所まで連れてきてちょうだい」

 捕まった少年は訳が分からなかったが言われた通り家にいる一度入り、母親を抱えて顔を見せた。

「行くわよ!キュア……」

 馬車から小さな手だけが伸び、青くて淡い光の球が咳き込む母親に吸い込まれて行く。

「体力も落ちてるし……」

 今度は緑の球がふわふわと流れてゆく。

「さて、多少だけどお金を置いて行くわ。しばらくは食べられるでしょう?」

「え……」

 少年は馬車に付き従っていた護衛が彼の母親にお金を渡すのを信じられない目で見る。

「ジョシュ……母さん立てるわ!しかも咳も止まってる!体も辛くない、動けるわ!」

「う、嘘だろ、母さん!」

 ジョシュ、と呼ばれた少年の母親は確かについさっきまで青い顔で死を待つばかりだったのに、今はハツラツとまでは行かないが、支えもなく一人で立てる。
 病は消え去っているように見えた。

「私は約束を守ったわよ、さあ行きましょう」

「っ」

 行きたくない、何をされるか分からない。貧民が連れ去られるなんてろくでもない仕事をさせられるか奴隷として売られるか。 
 でも母親の病は癒え、しかも金を受け取っている……なら自分の身売り代金だと腹を括る事が出来た。

「ど、どこへでも連れて行け!」

「ふふ、可愛がって差し上げるわ!」

 
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