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31 大家のりおさん

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「ちょっと!朝比奈さん!ちょっと!困るんですけど!!」

 ドンドン!じーちゃんの部屋のドアが乱暴に叩かれる。誰かな??

「はいはい、今開けますよ、大家さん」

「大家さん?」

「誠子も入る時挨拶したじゃろ。このアパートの大家さんじゃよ。101号室に住んどる。しかし、わしになんのようじゃろか?」

 どっこいせ、掛け声をかけて立ち上がるが、動きは緩慢ではない。じーちゃんと呼ぶのはなんだか申し訳ないくらい機敏になっている。うむむ……。

 扉を開くと、やはり大家さんが怒った感じで立っていた。なんだか気になってちらりと見てしまう。
 ちなみに大家さんは若々しくもなく歳でもない、妙齢の女性。名前は柳川りおさんと言う。
 その柳川さんがじーちゃんに向かって怒り始めた。

「ちょっと!朝比奈さん、どういうおつもり?私はあなたが貧乏神だから、契約したんであって、突然福の神になられると困るんですよ!アパートの価値が上がっちゃうじゃないですか!目立ちたくないんですよ!」

「あ、はぁ。すいません。自分でもなんでこんな事になったか分からなくて……」

「ったく!困るんですよ!私は静かに暮らしたいのに!ってあら?みんな集まって何してるんですか?」

 りおさんと目があった。ペコリと頭を下げて

「鍋を……」

 と、言うとりおさんはニコニコと笑いながらじーちゃんの部屋にズカズカと入り込んで来た。りおさん、強い!

「あらー!すき焼き!美味しそうね!食べて良い??!」

「あはは、どうぞ。私もじーちゃんも牛肉の良さが分からなくて。クロは食べないし、大福も野菜の方が良いって言うし」

 じーちゃんちのテーブルの一角に元々いましたーってくらい自然にりおさんは入り込み

「あらー!良い肉ね!」とか

「美味しいけど、すぐ食べた方が柔らかいわ」

 色々アドバイスしてくれた。多分、まともなすき焼きを食べた事あるんだろうなー。

「あー美味しかった!この肉に免じて朝比奈さんの事は不問にします。でもあんまり目立った事しないでね?このアパート人間は誠子さんしか居ないんだから、気をつけて!」

 そこで私は飲んでいたジュースを吹き出しかけた。

「ぶっ?!ほ、ほんとですか?りおさん!」

「本当よー。別に大丈夫でしょ?でも住人は目立ちたくない人多いからね。ラッキーアパートとかって噂が立ってSNSにアップとかされたくないからねー。ざー君だっているのにさ」

 なんて事だ。このアパートは人間は私だけだったとは……とはいえ、住民とほとんど顔を合わせた事がないから、知らなくて当たり前か。

 会わないなら、人間でも、妖怪でも神様でもどうでも良いか?いいのか??



 
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