上 下
36 / 49
護るべきもの

36 の う き ん 

しおりを挟む
 ついでに足の鎖も、カチリ、小さな音一つで外れる。鎖の音が鳴らないように慎重に取り扱う。

 私は元々アサシンである。盗賊の技能も修めてあるので、罠抜けは楽な仕事だ。ベッドのシーツを音を立てずに破ってロープ状に。長さは全く足りないだろうが、少しでも地上が近くなればいい。
 
 扉の外からマリーの足音が遠ざかる。
兵士が2名。怠そうに眠そうに立っている。そりゃ昨日までは目も覚ましていなかったし、今日目覚めたばかりで足元もふらふらしている。 
 何も出来るはずがない。当たり前だ。

 こっちだって手をあげるのさえ辛い。だが、明日までなど耐え切れるものか!もうあのクソ王子の顔は見たくない!

 準備は夜半過ぎまでかかったが、丁度時間だろう。さっさと脱出だ。

 椅子を持って扉の側、下の方にしゃがみ込む。伸ばしたシーツを引っ張って、鎖の音を立てる。

がしゃん!

「なんだ?何かあったか?」

ガチャガチャと、とびらの鍵を回す音がして、光が差し込む。
 兵士は間違いなくベッドを最初に確認する。だからしゃがみ込み、死角に入る。
足の親指をたてて、勢い良く喉を蹴り上げれば、ひゅっ!と音がして、声が詰まる。

「おい、どう…し…!」

 倒れ込む1人目の体の下から、素早く出て、もう1人の首を締める。すぐに落ちた。最初の兵士も締め落とす。
 2人の男を扉の中に引き込んで、扉をしめた。

 廊下は静かだ。

 片方から、ズボンをちょうだいする。何せ足が鎖で繋がれていたので下は履いてなかったのだ。スースーする。

「さて…」

 あまり力は入らないが、手をプラプラさせて窓に近づく。


「脳筋の筋力舐めんなよ…!」

 私はぐっと力を入れて、鉄格子を引っ張った。

「ぐ、ぬぬぬぬっ!」

 1週間使われていなかった体は鈍りまくっているが、ここでただおもちゃにされるのは趣味じゃない。

 精神を統一すれば…こんな鉄格子の一つや、ふたぁーつ!

「ふぅんっ!」

 バキ、バキバキバキっ!と音を立てて鉄格子は窓に止まっている留め具の方から壊れた。
 鉄格子自体は壊れないが、壁との留め具はそこまで耐えきれなかったようだ。

やったぜ、みたか、これが脳筋の力!

 置きっぱなしになっていた小さな椅子を壊し、椅子の足を持っていく。うん、人を殴るのにちょうど良さそうだ。

 さて、兵士たちはそのまま放って窓から大して長くないシーツを垂らす。仕事は雑だが、どうせすぐバレるのだから問題ない。
 するりと降りて、足りない分は飛ぶ。かなりの高さがあったが、怪我もなく着地は出来た。
 万全ならこの倍あっても平気なのだが、今はこれが精一杯。ぜいぜいと肩で息をしながら、以前入れられた牢へ進む。

 以前と同じ場所に兵士はいた。しかも牢の奥からどでかいいびきが聞こえてくる。

うん 

 躊躇いなく、ひゅっと飛び出して、力一杯、見張りの兵を殴る。見知った顔じゃなかった。良かった。

「エイミー!エイミー・セルブ‼︎」

 返事はない、爆睡中のようだ。

「エイミー、すごいいい男がいるぞ!」

「どこだ!」

 おはようオウガ。

「私、私」

「お前はアタシの趣味じゃない。すまんな!」

 オウガに振られた。

「出るぞ。大門は真っ直ぐ前。後は好きにしたら良い」

 兵士から奪った鍵束でエイミーの牢の鍵を開ける。

「アタシの部下は?」

「この奥にいるんじゃないのか?いる分は連れていくんだろう?」

 奥に進むとエイミーの部下達が何人かづつ閉じ込められている。順番に解放する。

「アタシの獲物は?」

「流石にみてないな」

「そうか…まあ、なんとかなるか!」

 君なら丸太でも戦えるよ。

「さて、私の出来ることはここまでだ。せいぜい暴れてくれよ」

「なるほど、その隙にお前は闇に紛れて逃げるのか?」

「そうさせてもらう」

「ここの王子に気に入られて、嫁にされそうなんだってな!」

 ここまで聞こえてるのか…頭が痛い。

「君を推薦しておいたよ」

「断るよ!あいつも趣味じゃない!」

 振られましたよ!クソ王子も!

 まあ、任せておけ!オウガは私の肩をポンと叩いた。

「くだらない罠にアタシを嵌めやがって…イライラがたまってんだ!おめーら行くぞ!城を燃やしてやるよ!」

「おう…姉さん、やったろうぜ!」

 ふぅー!すごいー!

 オウガはその辺の柱をバキっと折って、担いで行った。お城壊れちゃうかもな。ざまーみろだ!



 『オウガ』エイミー・セルブの大活躍により、帝都は混乱の渦に巻き込まれ、王城の一部は文字通り、破壊されて傾いた。

 ロウエル、傾けたよ!物理的にだけど!



 そして リィンと言う人物は姿を消した。

 






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

勇者よ、わしの尻より魔王を倒せ………「魔王なんかより陛下の尻だ!」

ミクリ21
BL
変態勇者に陛下は困ります。

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

学級委員長だったのにクラスのおまんこ係にされて人権がなくなりました

ごみでこくん
BL
クラスに一人おまんこ係を置くことが法律で義務化された世界線。真面目でプライドの高い学級委員長の高瀬くんが転校生の丹羽くんによっておまんこ係堕ちさせられてエッチな目に遭う主人公総受けラブコメディです。(愛はめちゃくちゃある) ※主人公総受け ※常識改変 ※♡喘ぎ、隠語、下品 ※なんでも許せる方向け pixivにて連載中。順次こちらに転載します。 pixivでは全11話(40万文字over)公開中。 表紙ロゴ:おいもさんよりいただきました。

イケメンエルフ達とのセックスライフの為に僕行きます!

霧乃ふー  短編
BL
ファンタジーな異世界に転生した僕。 そしてファンタジーの世界で定番のエルフがエロエロなエロフだなんて話を聞いた僕はエルフ達に会いに行くことにした。 森に行き出会ったエルフ達は僕を見つけると……♡

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

浮気性で流され体質の俺は異世界に召喚されてコロニーの母になる

いちみやりょう
BL
▲ただのエロ▲ 「あーあ、誰か1人に絞らなくてもいい世界に行きてーなー」 そう願った俺は雷に打たれて死んでなかば無理やり転生させられた。 その世界はイケメンな男しかいない。 「今、この国にいる子を孕むことができる種族はあなた一人なのです」 そう言って聞かない男に疲弊して俺は結局流された。 でも俺が願った『1人に絞らなくてもいい世界』ってのは絶対こう言うことじゃねぇ

生贄として捧げられたら人外にぐちゃぐちゃにされた

キルキ
BL
生贄になった主人公が、正体不明の何かにめちゃくちゃにされ挙げ句、いっぱい愛してもらう話。こんなタイトルですがハピエンです。 人外✕人間 ♡喘ぎな分、いつもより過激です。 以下注意 ♡喘ぎ/淫語/直腸責め/快楽墜ち/輪姦/異種姦/複数プレイ/フェラ/二輪挿し/無理矢理要素あり 2024/01/31追記  本作品はキルキのオリジナル小説です。

処理中です...