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バトル★ジャンキーズ

27 暴れん坊聖女

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 それは突然だった。

「リンパパぁーーー!」

「ふご!」

 ワンコ的成人男子が突然突撃してくると、私の骨は折れます。

 聖女的ギリ成人女性が突然突撃してきても、私の骨は…ギリギリ耐えた!

「り、リュリュ!」

「そおだよぉ!リンパパぁーー!!今日も美人だねぇ!可愛いねぇ!」

 ぐりぐりすりすり!このうざったい愛情表現過剰な少女を引き剥がすことは非常に難しい。

「赤竜が来てるのですか?」

「ティーフェ、暴れたいって」

「うわぁ」

 リュリュが飛んできた方向を見ると赤毛の馬に乗った男が、右手を挙げている。

 市街戦に向けて、地形の確認にでた私は襲われた。シターンの仲間に。
  
 赤竜・ティーフェはシターン最強の槍。リュリュ・ファランはシターンのおてんば聖女。
 リュリュとティーフェはお互い惹かれ合い、気ままな旅に出ていた。と、言うより平和になったシターンではティーフェは暮らせなかった。
 ティーフェも戦いなしには生きられないタイプの人間だ。私はため息をつく。

「ティーフェ、アルトの所行って下さい。あなたクラスの実力者が、許可なくうろうろしているのは問題だ。私もすぐに行きます」

「リュリュ、あとでな」

「あい!ティー!」

 背中にリュリュをくっ付けたまま、私も戻り始める。私は徒歩なのに…ティーフェの馬で一緒に行けば良いのに…。

「リンパパの背中は久しぶりーすりすりしちゃう」

「やめなさい」

 リュリュは不思議な子だった。たまたま立ち寄った村で私の前に立ち塞がり

「あたしは使える子だから、連れて行きなさい!」

 と、無視しても、強引に足にくっついて離れなかった。どうしようもなく連れて帰ると、すぐ勉強を始め、あっという間に神聖魔法を会得、聖女の力まで手に入れた。

「だから、あたしは使える子だって言ったでしょ!」

 鼻息も荒く、ドヤ顔でいばりくさった時はケーキを山ほどご馳走してやったものだ。天賦の才はあったものの、リュリュは努力して力を開花させたのだから。

 しかし、国を興した時によく分からない理由をつけて、私の養女にねじ込んできたのはどうなんだろうか…。ともかく、リュリュは必要以上に私を慕っている。

「匂い嗅いじゃう!すーはーすーはー!む!異臭!」

「だから、やめなさいって」

「こ、これはコーディの匂いか!むむむ、娘として一言物申さねば!」

 しまった!この娘のストッパー役を先にアルトの元に送ってしまった!私、最大の失策!急いで戻ろう!

 途中で私を迎えに来たコーディ殿下と合流してしまい、私は全てを諦めた。

「ぎょわーー、コーディ!久しぶりなの!所でリンパパと付き合ってるの?」

「わー!リュリュちゃん!今日も元気だねぇ!そうだよ!僕はリィン君とラブラブしてるんだよ!」

「ラブラブの割に、パパの背中からコーディの匂いがあんまりしないよ?え、もしかして…コーディ、ヘタレ?」

「わあああーーー!」

「頑張ってよー!コーディなら、私のパパにしてあげてもいいよ!」

「リュリュ!好き!」

「でしょーでしょー!」

 どこか遠くでやってくれ。
そこまでしても、リュリュを背中から下ろせないのは、長年のくせのようなもの。
 自衛の手段すらほとんど持たない聖女は、安全な城で怪我人を治すくらいで戦場には普通出ない。
 万が一敵に奪われたり、害されたりしたらとんでもない事だ。戦局は簡単にひっくり返される。
  
 しかし、シターンの聖女達は違った。愛するひとが戦場にいる。癒したい、あなたのそばに行きたいと、駄々をこねたのだ。それは盛大に。

「リィンが守ってくれれば行けるじゃん!ていうか、守りなさいよね!」
 
 幼馴染みに命令され、絶対に側から離れずにいることになった。面倒くさいから背負って歩くようになった。
 リィンの幼馴染みのティナのわがままにカティスは命を助けられたという過去がある。

 なので聖女を背負って走り回るのが、リィンの戦場での仕事だった。

「そこはーぐっと行ってがっ!とやって、ずべべべーん!なのよ!」

「ぐっと…」

「どっちにしろ、リンパパは押しに弱いんだから、ガッとやっちゃえば後はどうとでも…」

「えっ!どうと…でも…!」

 やめて、そこの2人やめてったらやめて。泣きたい。

 拠点への道すがらには、私の涙がたくさん落ちているだろう。



「アルトぉー来ちゃったー!」

「リュリュちゃーん!」

 リュリュは誰とでも仲良くする。垣根、敷居、権力、何もあったものではない。『赤竜』ティーフェのカタパルトに乗って、全てのものを飛び越えて行くのだ。

 着地先に回り込まねばならないのは、クッションを拝命した私なのですけれどもね…。

「私が来たからにはもぉ大丈夫!何度でも戦場に送り返してあげるよ!」

「さすがー!やったー!」

 バトルジャンキー以外から、恐怖の眼差しを浴びてもリュリュとアルトは楽しそうに、くるくる回っている。

おーい、緊張感ー。もうそろそろ帰って来てくださいー。

「アルト!私、カティスにも挨拶してくるねー!」

 リュリュは走り出す。どこにカティスがいるのかも知らないのに、私の手を引っ張って…。
 この仮拠点の中でもリュリュを1人にしておく事は出来ない。しかし、人の都合を全く聞かないのは、改善しないのか。

「カティスーー!」

 鼻と勘ですぐに見つける。匂いってそんなにする?しないよね?一部の人がおかしいだけだよね?

「リュリュか。良くきた」

「へへっ!もっと褒めていいのだよ?」

「相変わらずだな」

 リュリュの頭を手荒に撫で回す。髪の毛がボサボサになるのは気にならないのか、リュリュは楽しそうに笑う。

 屈託のない笑みは、昔の小さくて痩せっぽっちだった頃を思い出させて、懐かしく思うが、それよりカティスの目が痛い。

 コーディ殿下を盾にしてずっと逃げ回っているが、そろそろ限界なのだろう。なんとか逃げ道を作らなければ、物凄く面倒な事になりそうだ。帰りたい。

 リュリュはこてん、と小首を傾げて私とカティスを見る。この暴れん坊聖女は無駄に勘が良いから困る。

「カティス…叶うんだって」

「何が叶うんだ?」

 分からない、リュリュは答える。

「分からないけど!何か。そして、ずっと遠くなんだって」

 分からないけど、伝えなくちゃって思ったの。

「啓示か…?」

 分からない、リュリュは悲しそうに眉を寄せた。

「では、おかしな願いをしないようにしよう」

「そうして!」
 
 パッと顔を上げる。

「ティーフェが呼んでる気がする!私、行くね!」

 来る時も突然だが、帰る時も突然なリュリュに引きづられ、私はカティスから遠ざかる。

 カティスに対しての苦手意識が日に日に強くなるのがいただけない。
 ちらりと振り返ると唇の端だけで笑っているのが、更にいただけない。

私のため息はとても深い。


 
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