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ワンコ的溺愛講座

21 続・重

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「リィン君、リィン君」

「なんです?陛下」

 フォークにブロッコリーを刺す、入れる わふわふ

「俺もね、前から言ってみたかった事あるんだ、良い?」

「嫌です」

「早!でも言うね!」

 フォークにブロッコリーを刺す、入れる わふわふ
 キューブワースには話を聞かない奴しかいません。シターンに早く帰りたい。

「リィン なんとかして」

「……」

「俺だってここまで予想が狂うとは思ってなかったんだよーー!わかるでしょう!」

フォークにブロッコリーを

「お肉も食べたいです…!」

 ソーセージを刺した私はとても慈悲深い。

「俺だって面倒ごとは誰かに投げたい!俺だってソレルと一緒の脳筋なのにぃー!」

「そう言われましても……」

 キューブワースで部下を育ててください。それしか言いようがありません。これ以上脳筋のお世話係は無理ですから。

 フォークには何も刺さずに、テーブルに戻す。もっとー!と言う声はひとまず無視しておく。

「しかし、紙とペン、そして封筒はお借りしたい。ここのポーションは不味すぎる」

「流石!何とかなるやつーー!」

 早速 ソランジェに手紙を書いて、もっと美味しいものを貰おう。代金はキューブワース払いで!

「最近のポーションの質の悪さには、ほんと困ってたんだ!流石、銀月の宰相!」

 聖女もいないのに、回復の頼みの綱のポーション類が低品質ってどういうことなの…。

 手紙を書くのに借りたペンが、何故か私の私物だったので、回収しておいた。 街の屋敷の方にあったペンだよね?どうして持ってるの?怖いわ。

 ワンコに十分食べさせて、部屋を出た。悠長な事はしていられないだろうが、せめてポーションの到着を待たなければ行けないだろう。
 いや、もう少し帝都までの距離はつめるべきだろうな…と、考えて頭を振った。
 それを考えるのは、私ではない。アルトだ。今の私はコーディ殿下のお世話係のただの冒険者だ。
 ただの冒険者なら、仕事は十分だろうし、隣でニコニコと笑いながら手を繋いでいる殿下がいるのだから、お世話係としての仕事もまっとうしたといえるのではないか?
 
 隣を見ると、スンスンと鼻を鳴らしてしかめっ面を作るコーディの顔が見えた。犬っぽい、いやむしろもう犬でいいんじゃないかな?
 コーディが犬で、犬がコーディ。

「この廊下は嫌な匂いがする。別に行こう」

 私の手を引き、廊下を引き返す前に前から歩いてきた人物の顔が見えた。

 あー…気まずい。

 カティス・ファディアン皇王陛下である。

 コーディ殿下はさっと私を抱き込んで隠そうとするが、いかんせん私も小さくはない。すっかりはみ出てしまう。

「……」

「……」

逃げた男と逃げられた男。さて、どんな会話をすれば良いものか。流石に見当もつかない。

「…体は、不調はないか?」

 あー…ああ、そうね。薬を毎日盛られてたんだっけ。

「滞りなく。変わりありません」

 その答えに なぜ?と言いたそうに目を見開いた。

「あれは私のことを良く知っているゆえに」

 スーパーマッド錬金術師ソランジェ先生にスタンディングオベーションであります!

 ぺったんこのお腹を見て

「くそっ、絶対いけると思ったのに」

 ソランジェの調合がなかったら、いけてたでしょうね。

「リィン君!そんな奴とおはなしなんてしないで!」

 まあまあ…そう言わないの。

「カティス・ファディアン皇王陛下は、本調子ではないとお聞きしました」

 下から覗き込むように尋ねる。

「そのような事はないが?」

「ならば何故ここにおられる?」

 コーディがポンコツだったから?それは違う。ファディアンの獅子王は轡を並べて戦う男であったか?
 独りで血の雨を降らす者ではなかったか?



 貴方から逃げた男が、冷笑を浮かべます。その程度では、私を飼えぬよと。

「成る程」

 圧が上がって、空気が空気が震える

「確かに、俺は腑抜けていたのかもしれんな」

 その覇気。辺り一面を焦がすような紅蓮の焔を纏う獅子よ。カティス・ファディアン皇王は強くて美しい。

 真っ直ぐに目があう。金茶の瞳は意志が強そうに、光を返す。この瞳を何度も間近で見たな、とふと思い出した。
 そういえば…なるべく記憶の隅に追いやっていたけれども。

 視線は外れない。あれだけ強烈なコトに及んだのだから…。

 視線は外れない。忘れて…。

 じっと真っ直ぐに、射抜く目。わ、す、れ…。

 負けるな、視線を逸らすな。駄目だ駄目だ…

 ここで!ここで…負けたら後が怖い、どんな負債を抱えることになるか、考えるだけで身震いする。

 誰にも気づかれないように、心と記憶をしまい込め!強すぎる視線に立ち向かえ!

 こちらをじっと見たまま、カティスの唇が薄く開いた。そして、ゆっくりと自身の上唇を舐める。赤い肉の色が見えて、勝敗が決した。思い出してしまった。

 あーーーー!マウンティング失敗ー!先に視線を落としてしまった私は泣きそうだ。怖い、怖いーー!負けたぁあああ!

「リィン君!カティスなんかみてちゃだめ!」

 殿下、遅いよ殿下。出来れば勝敗が決まる前に行って欲しかった!そしたらうやむやに出来たのに!
 もう私は彼の下だよ!うわーん!

「はいはい…」

 殿下の頭をなでなでする。そんな様子を見てもカティスはニヤリと満足そうに笑った。ヤバいやつです、余裕があるやつの顔です。勘違いしないで欲しいやつです!

「でも、殿下」

 そいつは俺の物だ、ドヤァってしている奴を牽制しなければなりません。弱者が常に強者に付き従うと思うな!ネズミだって猫を噛むのだ。

 さあ!立て立つんだ私のワンコよ!あのドヤりライオンに噛み付くのだ!私の代わりに!

「誰しも、英雄を好むものですよ?」

「リィンも?」

「それはもちろん」

 がーん!ショックを受けた顔になり、耳と尻尾がしなしなと垂れ下がって行く。ような気がする。実際には生えていないのだから。

「英雄って…?」

 カティスのこと…?生気すら失ったコーディ殿下はほぼ涙目で私にすがり付く。動物虐待は好きではないのですよ、こう見えても。
 しっかりと言いかせるように、言葉を紡ぐ。

「英雄は戦場で1番人を殺した者のことですよ」

 私は、自分の中で1番冷酷で、1番綺麗な笑みを浮かべた。
 

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