上 下
106 / 121

107 ホラゲー!

しおりを挟む
 その日、地上に建っている修道院の窓から外をぼーっと眺めていたのはノースで、ソレを見た時にこう思ったらしい。

「ああ、越冬に失敗した熊が起き出しちゃったんだな。あいつらは凶暴だからなあ~」

 でもよく見ると熊じゃなかった。恐怖が全身を駆け巡り、一瞬硬直したのでドアにカギをかけるのが遅れたようだ、それが命取り。

「コパアアアアアア……」
「キャーーーーー!?」

 当然、後者の女の子みたいな悲鳴がノースのもので熊だと思ったのは魔物でも妖怪でもなくてスカーレット王女だったんだ……。

「男を出せ……オルフェアか……レイクリフがいるだろう……」
「ひ、ヒイイイ!いません、いません!いるわけがありませんんんんーー!」

 ノースは一応修道士の恰好をしていたし、どうもスカーレット王女の印象に残っていなかったらしく、元騎士だということがバレなかったらしい。

「何か……食べるものを出せ!」
「ひッ」

 縮み上がりながらも、このハウルフォーン修道院の設定を思い出したらしい。「極寒の一番厳しい修道院。何人も人死にが出る北の厳しい所」だから厳しく行ってもいいはずだと。

「た、食べるものもほとんどないのはお判りでしょう?この雪です、ここは閉ざされた地、乾いたパンが数個あるだけ」
「寄越せえええええ!!!」
「ヒイイイイイ!」

 何にも使っていない礼拝堂に何にも使っていない食堂。何せ私達は秘密の入り口から地下の街で快適に生活中だから上の建物は何も使う必要がない。でも一応と思って食堂に数個、固いパンを置いておいたのが良かったらしい。そのパンにそのままかぶりついているスカーレット王女を放置してノースは逃げ帰ってきた。

「たたたたたすけてえええええええ!上に、上にヤヴァイものが住み着きましたあああああ!」
「ヤヴァイもの?」

 流石に復唱した。そして話を聞くと本当にヤヴァイもので全員ゾッとした。

「え……あの赤女がオル団長とレイ殿を追って……この地まで……?」
「怖い……今年最大のホラー事件ですよ兄者……わ、私怖くて夜に一人でおトイレに行けないかも」
「マシェ、私が一緒に行ってあげましょうね」
「オル殿ぉ~~~~!」

 何でそこで抱き合ってるんだろ?でもそんな恐怖生物が頭上に住み着いているなんて確かに怖すぎる。

「怖い……」
「リュキ、大丈夫ですよ」
「レイ殿ぉ……」

 いやこれは抱き着きでもしなければ怖くておしっこちびっちゃう。

「と、とりあえずこの地下への扉へはあの巨体では近づけないと思いますが、もっと厳重な守りにしましょう」
「うん……あの修道院からここの地下へ降りてくる道は一つしかないから、そこさえバレなきゃ何とかなる」

 なるよね……?

「兄者、監視カメラが必要ではないですか?行動を監視しないと恐怖で寝れないかも」
「あー知ってる。そう言うタイプのホラゲーね、分かるよわかるー」

 分かるかぁ!!

「き、きっとココには何もないと分かればそのうち山の洞穴に帰って行きますよ、ね?」
「一応、アレは人間ではなかったっけ」
「熊と一緒にするな!熊が可哀想だろう!熊はもっと可愛いぞ!」
「確かに!」

 我々は新しいホラーゲームの扉を開けてしまったようだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神獣の僕、ついに人化できることがバレました。

猫いちご
BL
神獣フェンリルのハクです! 片思いの皇子に人化できるとバレました! 突然思いついた作品なので軽い気持ちで読んでくださると幸いです。 好評だった場合、番外編やエロエロを書こうかなと考えています! 本編二話完結。以降番外編。

転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】

リトルグラス
BL
 人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。  転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。  しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。  ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す── ***  第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20) **

純情将軍は第八王子を所望します

七瀬京
BL
隣国との戦で活躍した将軍・アーセールは、戦功の報償として(手違いで)第八王子・ルーウェを所望した。 かつて、アーセールはルーウェの言葉で救われており、ずっと、ルーウェの言葉を護符のようにして過ごしてきた。 一度、話がしたかっただけ……。 けれど、虐げられて育ったルーウェは、アーセールのことなど覚えて居らず、婚礼の夜、酷く怯えて居た……。 純情将軍×虐げられ王子の癒し愛

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

戸森鈴子 tomori rinco
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました

厘/りん
BL
 ナルン王国の下町に暮らす ルカ。 この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。 ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。 国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。 ☆英雄騎士 現在28歳    ルカ 現在18歳 ☆第11回BL小説大賞 21位   皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。    

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

ひとりぼっち獣人が最強貴族に拾われる話

かし子
BL
貴族が絶対的な力を持つ世界で、平民以下の「獣人」として生きていた子。友達は路地裏で拾った虎のぬいぐるみだけ。人に見つかればすぐに殺されてしまうから日々隠れながら生きる獣人はある夜、貴族に拾われる。 「やっと見つけた。」 サクッと読める王道物語です。 (今のところBL未満) よければぜひ! 【12/9まで毎日更新】→12/10まで延長

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです

野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。 あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは?? お菓子無双を夢見る主人公です。 ******** 小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。 基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。 ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ 本編完結しました〜

処理中です...