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54 カエルには睡蓮を
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「す、すぐにナザールに帰るぞ!」
「は、はい!」
顔を真っ赤にして戻ってきたエルファードを御者と騎士は「まあそうだろうなあ」と顔には出さずに迎えた。捨てた女性に何を言いに来たのか、それもこんな祝いの席で。普通なら恥ずかしくて近づけもしないだろうに、あ、捨てた女性じゃない。このカエル王が捨てられたのかな?と、二人は想像したが気が重い帰路にため息をついた。
「急ぐのならば魔道トンネルを使いますか?」
「そんな金のかかる物は使わん!!」
そしてエルファードは尻尾を股の間に隠した負け犬の様にマルグ国を出て行った。
「え……?」
「当家での急なご宿泊はちょっと……」
「は?マルグへ行くときはあんなに歓迎してくれたではないか!」
「申し訳ございません、当家にも都合と言うものがございまして」
ピシャリと門を閉じられた。
「ど、どういうことだ?」
御者も騎士も何も言わない。全て打ち合わせ通りなのだから。
「ナザールからマルグへ向かう時はどこの貴族の家でも私を歓待したのに、何故?」
どこへ行ってもどの家でも過剰なほどエルファードをもてなしてくれた。他国で、貴族の名も知らないのに
「おお!ナザール王エルファード様ではございませぬか!どうぞどうぞ我が家でおくつろぎくださいませ!」
と、どの家も門を開け放って歓迎してくれた。あまりの歓迎ぶりに気を良くし、何日も泊まり込み、何日も贅沢な料理に舌鼓を打った。だからマルグへ着くのに三か月もかかったのだ。
「それが最初からの狙いだったからね」
エルファードがもし魔道トンネルでアイリーンの元へ来たならば、教皇が言った通り異議申し立ても出来た。そんなくだらない事に時間を取られたくないシュマイゼルと……オルフェウスの密約。こうして隣国貴族の協力の元、エルファードは貴重な時間を自らの手でつぶして行ったのだった。
「なんであんなに歓迎してくれるのか考えた事もなかったんだろうなあ」
「カエルだからねえ……」
損な役回りの御者と騎士だが、国へ帰れば相当の給料がもらえる。彼らも養うべき家族がいるのでカエルの世話を頑張ってしているのだ。
どこへ行ってももう足止めする必要がないエルファードは追い出される。
「帰れ!」
「くそっ!私は国王だぞ」
「こんな品のない王が本当にいるなんて信じられないよ!」
往路でやり過ぎたエルファードはどの家からも嫌われていた。頼まれ金を積まれてエルファードの世話をした貴族達だったが、まさかこんなに礼儀も知らない阿呆だとは思いもしなかった。もう絶対に無理と、全ての貴族に断られたのだった。
何とか街の宿に泊まり、エルファードがナザールに戻ったのは一ヵ月もかからなかった。往路三か月かかった事を考えると早い復路だったともいえる。
「クソっ帰ったぞ!!!全く誰もかれも私を誰だと思っているのだ!!」
エルファードが怒りを滲ませて、城へ戻っても誰もかれもが
「あーお帰りなさいませーエルファード様」
と、適当とも呼べる挨拶をし、バタバタと忙しそうに走り回っている。
「なんだ?様子がおかしいな」
エルファードは首を傾げたが、彼は何も気が付かない。
「おい、王が帰還したというのに何だ、お前達!!オルフェウス!オルフェウスはどこだ!」
「ああ、兄上お帰りなさい。どうでした?楽しめましたか?」
大量の書類とたくさんの人々に囲まれた王弟であったオルフェウスが兄に声をかける。
「あ?楽しめる訳がないだろう!」
「行きは楽しかったですよね?そういう風に手配しましたから」
「は……?お前は何を言って……」
そして更にエルファードは耳を疑った。
「オルフェウス王、この書類は」「こちらの案件はいかがいたしますか、オルフェウス王」「これは慣例通りでよろしいですね、オルフェウス王」
「オ、オルフェウス……王?お、お前、お前は王ではないだろう……?王は、私だ」
オルフェウスは大仰にため息をついた。
「はあ、何を仰るのですか兄上。王が長期間王座にいなければ城も経済も国も回りません。私は仕方がなしに代理の王として立ったのですよ」
「あ、え?だ、代理?代理の王か……そ、そうかご苦労だったな。もういいぞ。私は帰ってきたし……」
オルフェウスはもう一度大仰にため息をつく。
「はあ、何を仰るのですか兄上。王が何の理由もなく王座を3ヵ月以上も空けると王位を失うんですよ?ですから仕方がなく私が1ヵ月前に王位を引き継ぎましたよ。ああ、異議申し立て期間も過ぎておりますよ。ああ、忙しい。誰かのお陰でわが国の評判は最悪。孫やひ孫にすら叱られそうです。そしてこの仕事の量、倒れそうです」
「倒れては困りますぞ、オルフェウス王」「アイリーン様の残してくださったものでやっと回しているのに」「早く次の政策を打ちませんと」
「な、な、なにを、なにをいっているんだ……オルフェウス……!?」
ブルブルと震えるエルファードにもう一度ため息をついて見せる。
「マルグで、シュマイゼル王とアイリーン様にコテンパンにやられた後、魔道トンネルで帰って来たなら、異議申し立ても出来たでしょうに。残念でしたね?前王エルファード殿。貴方はもう王ではない」
「え?は……な、なにを……」
未だ状況を飲み込めず慌てふためくエルファードにオルフェウスは声もかけなかった。
「前王をかねてよりの離宮にお連れしろ」
「はっ」
オルフェウスに忠実な騎士達がきびきびと駆けつけて、項垂れるエルファードを連れてゆく。
「おかしいとは思わなかったのか……?」
その日からエルファードは王宮の敷地内にある深い離宮に閉じ込められ、生涯そこで過ごす事になった。離宮の庭には池があり、カエルが好きそうな睡蓮がたくさん植えられていたという。
「は、はい!」
顔を真っ赤にして戻ってきたエルファードを御者と騎士は「まあそうだろうなあ」と顔には出さずに迎えた。捨てた女性に何を言いに来たのか、それもこんな祝いの席で。普通なら恥ずかしくて近づけもしないだろうに、あ、捨てた女性じゃない。このカエル王が捨てられたのかな?と、二人は想像したが気が重い帰路にため息をついた。
「急ぐのならば魔道トンネルを使いますか?」
「そんな金のかかる物は使わん!!」
そしてエルファードは尻尾を股の間に隠した負け犬の様にマルグ国を出て行った。
「え……?」
「当家での急なご宿泊はちょっと……」
「は?マルグへ行くときはあんなに歓迎してくれたではないか!」
「申し訳ございません、当家にも都合と言うものがございまして」
ピシャリと門を閉じられた。
「ど、どういうことだ?」
御者も騎士も何も言わない。全て打ち合わせ通りなのだから。
「ナザールからマルグへ向かう時はどこの貴族の家でも私を歓待したのに、何故?」
どこへ行ってもどの家でも過剰なほどエルファードをもてなしてくれた。他国で、貴族の名も知らないのに
「おお!ナザール王エルファード様ではございませぬか!どうぞどうぞ我が家でおくつろぎくださいませ!」
と、どの家も門を開け放って歓迎してくれた。あまりの歓迎ぶりに気を良くし、何日も泊まり込み、何日も贅沢な料理に舌鼓を打った。だからマルグへ着くのに三か月もかかったのだ。
「それが最初からの狙いだったからね」
エルファードがもし魔道トンネルでアイリーンの元へ来たならば、教皇が言った通り異議申し立ても出来た。そんなくだらない事に時間を取られたくないシュマイゼルと……オルフェウスの密約。こうして隣国貴族の協力の元、エルファードは貴重な時間を自らの手でつぶして行ったのだった。
「なんであんなに歓迎してくれるのか考えた事もなかったんだろうなあ」
「カエルだからねえ……」
損な役回りの御者と騎士だが、国へ帰れば相当の給料がもらえる。彼らも養うべき家族がいるのでカエルの世話を頑張ってしているのだ。
どこへ行ってももう足止めする必要がないエルファードは追い出される。
「帰れ!」
「くそっ!私は国王だぞ」
「こんな品のない王が本当にいるなんて信じられないよ!」
往路でやり過ぎたエルファードはどの家からも嫌われていた。頼まれ金を積まれてエルファードの世話をした貴族達だったが、まさかこんなに礼儀も知らない阿呆だとは思いもしなかった。もう絶対に無理と、全ての貴族に断られたのだった。
何とか街の宿に泊まり、エルファードがナザールに戻ったのは一ヵ月もかからなかった。往路三か月かかった事を考えると早い復路だったともいえる。
「クソっ帰ったぞ!!!全く誰もかれも私を誰だと思っているのだ!!」
エルファードが怒りを滲ませて、城へ戻っても誰もかれもが
「あーお帰りなさいませーエルファード様」
と、適当とも呼べる挨拶をし、バタバタと忙しそうに走り回っている。
「なんだ?様子がおかしいな」
エルファードは首を傾げたが、彼は何も気が付かない。
「おい、王が帰還したというのに何だ、お前達!!オルフェウス!オルフェウスはどこだ!」
「ああ、兄上お帰りなさい。どうでした?楽しめましたか?」
大量の書類とたくさんの人々に囲まれた王弟であったオルフェウスが兄に声をかける。
「あ?楽しめる訳がないだろう!」
「行きは楽しかったですよね?そういう風に手配しましたから」
「は……?お前は何を言って……」
そして更にエルファードは耳を疑った。
「オルフェウス王、この書類は」「こちらの案件はいかがいたしますか、オルフェウス王」「これは慣例通りでよろしいですね、オルフェウス王」
「オ、オルフェウス……王?お、お前、お前は王ではないだろう……?王は、私だ」
オルフェウスは大仰にため息をついた。
「はあ、何を仰るのですか兄上。王が長期間王座にいなければ城も経済も国も回りません。私は仕方がなしに代理の王として立ったのですよ」
「あ、え?だ、代理?代理の王か……そ、そうかご苦労だったな。もういいぞ。私は帰ってきたし……」
オルフェウスはもう一度大仰にため息をつく。
「はあ、何を仰るのですか兄上。王が何の理由もなく王座を3ヵ月以上も空けると王位を失うんですよ?ですから仕方がなく私が1ヵ月前に王位を引き継ぎましたよ。ああ、異議申し立て期間も過ぎておりますよ。ああ、忙しい。誰かのお陰でわが国の評判は最悪。孫やひ孫にすら叱られそうです。そしてこの仕事の量、倒れそうです」
「倒れては困りますぞ、オルフェウス王」「アイリーン様の残してくださったものでやっと回しているのに」「早く次の政策を打ちませんと」
「な、な、なにを、なにをいっているんだ……オルフェウス……!?」
ブルブルと震えるエルファードにもう一度ため息をついて見せる。
「マルグで、シュマイゼル王とアイリーン様にコテンパンにやられた後、魔道トンネルで帰って来たなら、異議申し立ても出来たでしょうに。残念でしたね?前王エルファード殿。貴方はもう王ではない」
「え?は……な、なにを……」
未だ状況を飲み込めず慌てふためくエルファードにオルフェウスは声もかけなかった。
「前王をかねてよりの離宮にお連れしろ」
「はっ」
オルフェウスに忠実な騎士達がきびきびと駆けつけて、項垂れるエルファードを連れてゆく。
「おかしいとは思わなかったのか……?」
その日からエルファードは王宮の敷地内にある深い離宮に閉じ込められ、生涯そこで過ごす事になった。離宮の庭には池があり、カエルが好きそうな睡蓮がたくさん植えられていたという。
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