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34 マルグは穏やかに

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「ではわが国との取引量は?」

「お待ちください、アイリーン様は昨日お着きになったんですからまだマルグについて詳しくはお聞かせしておりませんから!」

「ナザールでの特別関税は……」

「マルグではそのままとは行きませんけれど、優遇できるところはして行けたら良いですね」

「例の試供品の方は」

「いやですわ。ナザールの店がマルグには……数店舗あるらしいので、話を通しておきます」

「シュマイゼル王よ、結婚式は盛大に頼むよ?」

「ははは、わが国から何を引き出すおつもりで?一筋縄では参りませんよ?」

「浮かれ男の足元くらい掬わせて欲しい物だ!」

「所で、レンブラント殿下はいずこか?是非わが国の姫との婚約を……」

「なにおう!?我が国の公女様が只今4歳ですぞ!」

「いやいや、わが国の姫様は可愛い盛りの2歳半!」

 和やかに見えて、全て腹の探り合いの様な会話。今まででしたらエルファード様が何か馬鹿な事を言って馬鹿な約束を取り付けてこないだとヒヤヒヤしたものですが、今は絶対にありません。

 シュマイゼル様はにこやかでありますが、隙を見せる方でない事は分かっています。度量が深く、多少の揶揄も笑顔で交わし譲れない事は徹底抗戦する。
 一人で王座を守って来られた貫禄がおありになります。

「アイリーン様」

「ファーラン様、この度はお見苦しい所をお見せしてしまい、誠に……」

「いやーん!良いのよぉ!なんだか私達ももうアレの顔を見なくていいかと思うとスッキリしたわ」

 扇で口元を隠していらっしゃいますが、物言いがはっきりなさっているのは北の国ファースの第一公女ファーラン王女です。

「それにしても映えますわねぇ!ねえ、我が国の化粧品ホワイトフェアリー、使ってみません?」

「ほんと、今日のアイリーン様は美しいわ!」

「ドレスの色も素敵」

 わたくしは女性同士の会話に集中して良いようです。

「ありがとうございます」

 それからどんどん人は増え、企画していないのですが、パーティのようになってしまいました。

「さてはて、小腹が空いた紳士淑女はいらっしゃいませんかね?マルグ特製の発酵バターで作らせて頂きましたプレーンパイですよ」

 扉が開くとバターのとても良い匂いが辺りに広がりました。

「ソリオ料理長!」

「はは、料理長ではありませんよ。お客様が大勢いらっしゃったので、お手伝いさせて頂いております」

 にこにこと楽しそうにソリオ料理長は一口大のパイが大量に乗ったワゴンを押して来ました。

「そのままでも、何かを載せても美味しいですよ、焼き立てをどうぞ」

「うむ、いただこうかな?」

 歯を立てたパイがさくっ!と良い音を立てるのは反則ですよね?

「美味い!」

「ささ、皆様もご賞味あれ」

「私も!」

「クリームを乗せてもいいわね」

 パイはあっという間に無くなってしまいましたが、なくなる頃には

「ジュレをお持ちしました。さっぱりしますよ」

 タイミングよく次の軽食が届き、今まで無かったはずのテーブルがいつの間にか並べられ、正装に着替えた侍従達が対応を始めている。
 お腹が空くお昼頃には肉類やパン類も並び、完全なパーティ会場になっていた。
 わたくしが指示しなくても手際良く出来る。視線をあげてシュマイゼル様を捜すと、目が合いました。唇が笑みの形になって軽く手を上げる。そんな姿もスマートで……一人ではない、誰かと作り上げてゆくという感覚がとてもくすぐったく感じるのです。


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