上 下
32 / 64

32 ナザールからのお三方

しおりを挟む
 美味しい朝食を談笑しながらゆっくり頂いた後、わたくしはシュマイゼル様に今後についてお伺いをしていました。

「ですから、まずは婚約者に」

「しかし私は傷物ですし」


 このやり取りを何度も繰り返しておりますと、侍従の方がわたくしに客があると教えてくださいました。ここへ来ることを知っている客……きっと

「ローランド叔父様達ですね」

「おお!宰相ローランド殿か!お通ししてくれ!」

 わたくしがナザール王妃を追い出された時点でローランド叔父様とヴィッツさん、そしてソリオ料理長の契約が切れますから、きっとそのお三方だと思います。案の定、ローランド叔父様とヴィッツさん、そしてソリオ料理長がやってこられました。

「お嬢様~~~~!よくぞ、よくぞ耐えられましたなあ!」

「ありがとう、ソリオ料理長。皆のお陰であの国で王妃としてやって来られたわ。感謝いたします」

「良いんだよ、良いんだよ!あいつから解放されたんだからねえ!祝いの料理を作っても良いだろう?」

 ソリオ料理長はおいおいと泣き出す勢いで喜んでくれました。いつも工夫を凝らした野菜料理を無残に捨てられていましたからね……。でも料理長達の努力がなければエルファード様は今頃肥満が原因の病気になっていたのではないでしょうか?あの割とスリムな体型を維持できていたのはソリオ料理長率いる厨房の皆様のおかげでしたのに。

「嬉しいわ。ソリオ料理長のプリン、また食べさせてね?」

 勿論です勿論ですとも、塔のように大きなプリンを坊ちゃんと一緒にお召し上がりください!なんて言われましたが、そんなに食べられませんわ。

「アイリーン、お互いにお疲れ様。これからは自由……とはいいがたいが、まああいつよりマシな奴の所に来たし、何とかなるよな?」

「ええ、ローランド叔父様。すいません、長い間自由を奪ってしまって。ヴィッツさんも」

 晴れやかな笑顔で笑うローランド叔父様とヴィッツさんにも感謝を述べます。

「まあ良いんだよ、アイリーンちゃん。騎士団長なんてガラじゃないと思ったけど、結構出来るもんだったなあ」

「ふふ、恰好良かったですよ?」

「違うぞ、俺は何を着てもかっこいいんだ!」

 そう笑うヴィッツさんとローランド叔父様。

「ロ、ローランド宰相?ヴィッツ騎士団長?そ、その恰好は一体!?」

 シュマイゼル様は驚いて目をパチパチさせていらっしゃいます。ああ、そうですね、シュマイゼル様は外交でしかこの二人に会った事がないので当然ですね。
 今、ローランド叔父様とヴィッツさんは軽い皮鎧と腰から剣を吊った、市井に多く在籍する冒険者と変わらぬ格好をしておいでです。

「シュマイゼル様。お二人はこちらの方が本業なのです。わたくしが無理を言って城の業務を手伝ってもらっていたのです」

「な、なんですと?」

「堅苦しいのは苦手でねえ。自由気ままな冒険者に憧れて、それで生計を立てていたんだ」

「ローランドとは息があってね。パーティを組んでたわけさ。そしてハイランド領を根城にしてあちこち冒険してたんだ」

 カラカラと快活に笑うお二人。やはりこちらの姿の方が楽しそうです。

「まあそう言うわけで、マルグで一儲けさせてもらうよ」

「一儲け、とは……?」

 ローランド叔父様がにやりと笑い、分厚い紙の束を取り出します。

「俺達の一番得意な仕事は賞金首狩りバウンティハンターなんだ。ナザールでは狩り尽くしてほとんど悪党がいなくなっちまったからね」

「逃げ込んだバカ共がこーんなにのさばってるなんて腕が鳴るなあ!ローランド!」

 分厚い紙の束は全部お尋ね者の手配書らしいです……凄い量ですね……。

「アイリーンの持参金くらいすぐ稼いできてやるからな、立派な結婚式挙げさせてやる」

 あははは!とローランド叔父様は笑いますが、笑い事ではありませんよ。

「あー。あとシュマイゼル王よ、ナザールから俺達を慕ってこの国にかなりの騎士や文官達がやってきたんだ。なんとか拾い上げてくれないか?」

「あ!宮廷料理人もかなり来ております、お願い致します。なんとか働く先を見つけてやってくれませんか?」

 ソリオ料理長もお願いしますと頭を下げました。そんなにナザールからやってきてしまったのですね……。

「その辺りはお任せください、想定済みです」

「おお!助かります」

 三人ともくれぐれもよろしくお願いします、と頭を下げてくれました。わたくしが不甲斐ないばかりに皆に迷惑をかけてしまいます……。

「アイリーンの事、頼むぞ。シュマイゼル王」

「お任せください。必ず幸せにしてみせます」

 力強く言って下さるシュマイゼル様は……頼もしくて、少女の頃でも抱いた事がなかった「ときめき」と言う物がこんな感じなのかな?と思うほど、どきりとしてしまいました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】高嶺の花がいなくなった日。

恋愛
侯爵令嬢ルノア=ダリッジは誰もが認める高嶺の花。 清く、正しく、美しくーーそんな彼女がある日忽然と姿を消した。 婚約者である王太子、友人の子爵令嬢、教師や使用人たちは彼女の失踪を機に大きく人生が変わることとなった。 ※ざまぁ展開多め、後半に恋愛要素あり。

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

今さら後悔しても知りません 婚約者は浮気相手に夢中なようなので消えてさしあげます

神崎 ルナ
恋愛
旧題:長年の婚約者は政略結婚の私より、恋愛結婚をしたい相手がいるようなので、消えてあげようと思います。 【奨励賞頂きましたっ( ゚Д゚) ありがとうございます(人''▽`)】 コッペリア・マドルーク公爵令嬢は、王太子アレンの婚約者として良好な関係を維持してきたと思っていた。  だが、ある時アレンとマリアの会話を聞いてしまう。 「あんな堅苦しい女性は苦手だ。もし許されるのであれば、君を王太子妃にしたかった」  マリア・ダグラス男爵令嬢は下級貴族であり、王太子と婚約などできるはずもない。 (そう。そんなに彼女が良かったの)  長年に渡る王太子妃教育を耐えてきた彼女がそう決意を固めるのも早かった。  何故なら、彼らは将来自分達の子を王に据え、更にはコッペリアに公務を押し付け、自分達だけ遊び惚けていようとしているようだったから。 (私は都合のいい道具なの?)  絶望したコッペリアは毒薬を入手しようと、お忍びでとある店を探す。  侍女達が話していたのはここだろうか?  店に入ると老婆が迎えてくれ、コッペリアに何が入用か、と尋ねてきた。  コッペリアが正直に全て話すと、 「今のあんたにぴったりの物がある」  渡されたのは、小瓶に入った液状の薬。 「体を休める薬だよ。ん? 毒じゃないのかって? まあ、似たようなものだね。これを飲んだらあんたは眠る。ただし」  そこで老婆は言葉を切った。 「目覚めるには条件がある。それを満たすのは並大抵のことじゃ出来ないよ。下手をすれば永遠に眠ることになる。それでもいいのかい?」  コッペリアは深く頷いた。  薬を飲んだコッペリアは眠りについた。  そして――。  アレン王子と向かい合うコッペリア(?)がいた。 「は? 書類の整理を手伝え? お断り致しますわ」 ※お読み頂きありがとうございます(人''▽`) hotランキング、全ての小説、恋愛小説ランキングにて1位をいただきました( ゚Д゚)  (2023.2.3)  ありがとうございますっm(__)m ジャンピング土下座×1000000 ※お読みくださり有難うございました(人''▽`) 完結しました(^▽^)

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

嫌われ者の側妃はのんびり暮らしたい

風見ゆうみ
恋愛
「オレのタイプじゃないんだよ。地味過ぎて顔も見たくない。だから、お前は側妃だ」 顔だけは良い皇帝陛下は、自らが正妃にしたいと希望した私を側妃にして別宮に送り、正妃は私の妹にすると言う。 裏表のあるの妹のお世話はもううんざり! 側妃は私以外にもいるし、面倒なことは任せて、私はのんびり自由に暮らすわ! そう思っていたのに、別宮には皇帝陛下の腹違いの弟や、他の側妃とのトラブルはあるし、それだけでなく皇帝陛下は私を妹の毒見役に指定してきて―― それって側妃がやることじゃないでしょう!? ※のんびり暮らしたかった側妃がなんだかんだあって、のんびりできなかったけれど幸せにはなるお話です。

たとえ番でないとしても

豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」 「違います!」 私は叫ばずにはいられませんでした。 「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」 ──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。 ※1/4、短編→長編に変更しました。

私は王妃になりません! ~王子に婚約解消された公爵令嬢、街外れの魔道具店に就職する~

瑠美るみ子
恋愛
 サリクスは王妃になるため幼少期から虐待紛いな教育をされ、過剰な躾に心を殺された少女だった。  だが彼女が十八歳になったとき、婚約者である第一王子から婚約解消を言い渡されてしまう。サリクスの代わりに妹のヘレナが結婚すると告げられた上、両親から「これからは自由に生きて欲しい」と勝手なことを言われる始末。  今までの人生はなんだったのかとサリクスは思わず自殺してしまうが、精霊達が精霊王に頼んだせいで生き返ってしまう。  好きに死ぬこともできないなんてと嘆くサリクスに、流石の精霊王も酷なことをしたと反省し、「弟子であるユーカリの様子を見にいってほしい」と彼女に仕事を与えた。  王国で有数の魔法使いであるユーカリの下で働いているうちに、サリクスは殺してきた己の心を取り戻していく。  一方で、サリクスが突然いなくなった公爵家では、両親が悲しみに暮れ、何としてでも見つけ出すとサリクスを探し始め…… *小説家になろう様にても掲載しています。*タイトル少し変えました

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

処理中です...