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17 わたくしの弟

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 わたくしの二つ下の弟はフレジットと言います。見た目は派手さはありませんが、とても優しい顔立ちの弟でございます。性格も穏やかでにこにこと笑ってとても可愛い弟なのです。

「姉様ー姉様ー」

 と、わたくしが王家に閉じ込められる直前まで鳥の雛のように後をついて来ていたものでした。
 学園で一緒になるかと思いましたが、わたくしが飛び級をしてしまいましたのでそれも叶わなかったのですが……。

「ふえええーん!シルビオレに逃げられましたぁ~」

「は?!」

 わたくしも手紙で知ったのですが、何と小さな頃からの婚約者、シルビオレ・アメリヤ子爵令嬢に置き手紙一つされ、逃げられたのです……。彼女はハイランド家からかなりの金額も持ち出して。
 なんでも優しすぎるフレジットより商人の方が良いと。

「シルビィとは上手くやってたはずなのにぃ~」

 しかしアメリヤ子爵令嬢がいなくなったと言う事は上手くやっていたと思っていたのはフレジットだけだった、と言う事なのでしょう。
 一緒に逃げたと言う商人を追う気概もなく、お父様に言われなければアメリヤ子爵家に抗議することすらしなかったかも知れないフレジット。領地経営の手腕は素晴らしいのに、女性に対してはとても奥手と言うか、気持ちを察してあげられないと言うか……。市井で言う所の「ヘタレ男」と言うやつなのでございます。

 とにかくフレジットに今、特定の女性とのお付き合いもなく、結婚も危ぶまれているのです。ですから、お父様とお母様も孫のレンブラントが最初で最後の孫になるのでは?!と必死なのです。

「勿論無理強いなどはしません。もう兄妹なのですからの。じじいの戯言だと思ってくだされ」

 はぁ、とため息をつきながらお茶を一口飲み下すレイクリフ公爵はだいぶお疲れのようでございました。

「せっかくの楽隠居生活だったのに……早く家督を譲ってまた気軽な生活に戻りたいですよ」

「まあ……」

 どこの家でも大小の悩みを抱えておりますが、わたくし達の悩みは中々大きいものの様です。

「それにしてもレンブラント殿下にはワシもお会いしたいですな!なんと言ってもひ孫ですからの!」

 あらあら……レンブラントは大人気ですわね。今まで王太子でしたのに、エルファード様から疎まれ小さくなって暮らしていたあの子がこんなに沢山の方から目をかけていただけるなんて。とてもありがたい事です。

「ありがとうございます、レイクリフ公爵。やり方は褒められた物ではございませんが結ばれた縁というものでしょう。これからよろしくお願い致しますね」

 醜い!と散々エルファード様に言われましたが、不快に思われぬ程度にわたくしは微笑んでレイクリフ公爵を見つめます。なにせお祖父様、なのですから。

「ほ……なるほど孫には何でも買ってやりたくなると言う気持ちはキャロラインには湧かなかったが……今は理解できますぞ。アイリーン嬢、買い物にでも参りますかな?お祖父様が新しいドレスなどを買いましょう」

「え?」

 嫌だわ、レイクリフ公爵は何を仰っているのでしょうか?隣で静かに耳を傾けていらっしゃったシュマイゼル様がガタリと立ち上がります。

「レイクリフ公爵!アイリーンにドレスを贈るのはこの私です!私から楽しみを奪わないで頂きたい!いくらあなたでもこれだけは譲れませんが?!」

「いやいや!孫に物を買い与えるのは祖父の特権じゃ!にわか男は引っ込んで貰おうかの?!」

「わ、私がにわか男ならあなただってにわか祖父じゃないですか!!私の方があなたよりアイリーンとの時間が長い!」

「ワシとアイリーン嬢は書類上とは言え家族!何の関係もない陛下は所詮「何の関係もない男」だしのう!」

「ぐ、ぐぬぬぬ!アイリーンに呆れられると分かっていながら書類を作った私にその様な言い草!!」

「ほっほ!もう頂いてしまえばこっちのもんじゃあ!」

「あらあら……」

 シュマイゼル様もレイクリフ公爵も楽しそうで何よりですわ。
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