【完結】お飾りではなかった王妃の実力

鏑木 うりこ

文字の大きさ
上 下
11 / 64

11 地獄は太陽が昇る前から

しおりを挟む
 地獄は太陽が昇る前から始まっていた。城の裏門には新鮮な食材をいっぱいに積み込んだ馬車が大行列を作っていた。

「おい!まだか?!」

「急いで持ってきたのに、氷が溶けちまうぞ!」

「鮮度が命の特上肉だぞ!」

 建国祭に来る各国国賓の為に国の威信をかけて集めた食材が朝一番に着くように事前に手配されていたのに。

「はあ?今日の申し送りに何も無かったぞ?」

「……おかしいとは思っていた!毎年朝から食材の馬車が着くのになんの準備もされていないから!」

 裏門を守る門番達も困惑したが、検査なしに通す事は出来ない。毎年、検査官が20人ほど臨時で待っていて、総掛かりで通すのに、今日は1人もいない。

「早く、早く通してくれ!」

「無茶言うな!何かあったら罰せられるのはこっちなんだから!」

 門番達は可能な限り急いで検査をしていくし、この混乱に助けも求めた。しかし毎年の検査官達も

「おかしいとは思いましたが、何の指示も無かったから……」

 と、登城していない者が殆どだ。いない人材を呼び寄せることも出来ない。食材の馬車の列はどんどん長くなるばかりだった。

 勿論、厨房も大混乱だ。

「な、何故料理長がいない?!」

「ソリオ料理長はハイランド伯爵家の料理長でしたから、アイリーン様がお国を離れた時点で辞められてしまって……」

「今日のメニューは?!」

「指示書は残っておりますから……」

「指示書で料理ができるのか?!」

「た、多分……」

 厨房の前で配膳係が揉めている。厨房内部では

「料理長……あっ」

「なんだ!くそっ!食材はまだ届かないのか!!」

 昨日まで副料理長の更に下で働いていた男が指揮を取っている。彼はネリーニの家から派遣された料理人で

「明日の料理はお前の腕にかかっている」

「はいっ!」

 公爵からの声かけにやる気をみなぎらせていた。元からの副料理長が数人残っていたが、彼らを押し退けての料理長の抜擢であったから、厨房には不満も満ちている。
 しかし、残った料理人達は「プロ」であり、誇りを持って仕事をしていたので建国祭の職務だけは全うしようとしていた。

「食材がなければ調理を始められないじゃないか!お前、見てこい!!」

「……分かりました」

 下準備という物を軽くみすぎている新しい料理長。居丈高に「命令」を下す男に殆どの残った料理人は嫌な顔をした。

「料理は1人ではできない。和、だよ」

 そうにこやかに笑った前料理長の優しい笑顔がしみじみと思い出させる。その料理長が烈火の如く怒り狂い

「アイリーン様を追い出した?!あのクソ野郎が!皆にはすまないが、今すぐに辞めさせて貰う!」

 エプロンを叩きつけて出て行ってしまった。彼を慕って何人もの料理人が消えた。慌ててやってきた公爵という人が今の料理長を指名して戻って行ったがそんな状況で厨房が上手く回るはずもない……。






しおりを挟む
感想 175

あなたにおすすめの小説

君のためだと言われても、少しも嬉しくありません

みみぢあん
恋愛
子爵家の令嬢マリオンの婚約者、アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は……    暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓

君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。

みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。 マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。 そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。 ※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

【完結】恋は、終わったのです

楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。 今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。 『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』 身長を追い越してしまった時からだろうか。  それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。 あるいは――あの子に出会った時からだろうか。 ――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。

手放したくない理由

ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。 しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。 話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、 「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」 と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。 同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。 大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。 彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。 しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。 悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。 その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・

処理中です...