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2 聡すぎる6歳
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「なるほど、手続きも終わっている。そういう事ですか。ならばアイリーン様、我がマルグ国へきていただいてもよろしいでしょうか」
「……どうもわたくしには頼る所もなさそうです。お言葉に甘えてもよろしいですか?」
「勿論ですとも」
シュマイゼル様はわたくしの手を取ってにこりと笑ってくださいました。以前から熱烈なお誘いは受けておりましたものね。このような恥ずかしい場面に居合わせてしまわれたのも何かの縁。申し訳ないですが頼りにさせていただきましょう。
「では、エルファード殿。これにて。アイリーン様のお仕度が済み次第マルグへ帰ります故」
「え?シュマイゼル殿。建国祭を楽しまれていかれよ」
アイリーン様がいないのに意味が分からん。そうわたくしには聞こえた呟きの後に
「いえいえ、エルファード殿はアイリーン様にすぐに出て行けとおっしゃったではありませんか。ええ、すぐに出て行きますとも!それでは」
くるりと踵を返し、わたくしの手を取ったまま歩き始めました。
「えっ、建国祭に、マルグ国が欠席?あの、それは……」
少しだけエルファード様の慌てた声が聞こえて来ましたが、シュマイゼル様は毛程にも気に留めず、わたくしに微笑んで下さいます。エルファード様と違ってとても背が高くて……知的な緑の瞳が美しい方です。
「お仕度を。私が連れて来た侍女やメイド、騎士達が手伝います。もし連れて行きたい者がいたならば何なりと。レンブラント殿下は泣きはしませんか?突然国を出ることになって」
お優しい事にわたくしの息子にまで心を砕いてくださるとは……エルファード様とは全く違うシュマイゼル様に少しだけ嬉しくなってしまいました。
「多分……何も言いませんわ。あの子は聡い子です」
「そうですか」
わたくしはそのまま、レンブラントの部屋を訪ねることになりました。
「レンブラント殿下、わたくしです」
「母上、聞き及んでおります。マルグ王、お世話になります」
まだ6歳のわたくしの息子はぺこりと頭を下げました。
「これは……レンブラント殿下は大きくおなりですね」
「もう殿下ではありませんのでしょう?侍女が知らせてくれました。私も荷物はそう多くありません、すぐに支度が出来ると思います」
するとシュマイゼル様はレンブラントの目の高さまで屈みこんでこうおっしゃるのです。
「実はですね、私は貴方のお母上であられるアイリーン様に結婚を申し込もうとしておるのです。ですから、もし頷いていただけたら、レンブラント殿はまた殿下になってしまうのですが、良いでしょうか?」
「その話を聞きますと、我が母はシュマイゼル様の側妃という事なのでしょうか?」
「いいえ、実は私はまだ結婚をしていませんので、正妃の席にお座り頂きたいと思っております」
「なるほど、そんなこともあるのですね。我が母上はまだ世継ぎの君を産むことが可能でしょうから、私はその子の王兄としてそれなりの位をいただける、そういう事なのですね?」
エルファード様がアレなもので、息子のレンブラントには少しだけ早く教育を始めましたが、これ程までに周りが読める子になっていようとは。
貴族の娘として顔色は出さない訓練はされていますが、流石のわたくしも恥ずかしくて顔が赤くなりそうです。
「レンブラント殿が王でも良いと私は考えておりますが?」
「いえいえ、我が身には愚父エルファードの血が半分も流れております。そのような者がマルグ国の王位につくなど、シュマイゼル様がお許しになっても私と私の母は許す事ができないでしょう」
「……その辺りはマルグへ戻ってからゆっくり話し合いましょう。家臣達の意見も聞きたい所ですからね」
「確かにそうですね、申し訳ございません。性急過ぎました」
ぺこり、もう一度頭をさげるレンブラント。わたくしの息子は一体どこでこのような腹の探り合いを覚えたのでしょうか……もう少し6歳らしく無邪気にして欲しい気も致しますけれど、レンブラントがこうならなければいけなかった状況に置いてしまったわたくしの不徳の致すところ。レンブラントには申し訳ないです。
「お荷物まとめ終わりました」
「……まあ」
何と手際の良い事でしょうか。確かにわたくしに仕えてくれていた侍女やメイド達は聡明な者が多かったですが、鮮やか過ぎますね。
「……どうもわたくしには頼る所もなさそうです。お言葉に甘えてもよろしいですか?」
「勿論ですとも」
シュマイゼル様はわたくしの手を取ってにこりと笑ってくださいました。以前から熱烈なお誘いは受けておりましたものね。このような恥ずかしい場面に居合わせてしまわれたのも何かの縁。申し訳ないですが頼りにさせていただきましょう。
「では、エルファード殿。これにて。アイリーン様のお仕度が済み次第マルグへ帰ります故」
「え?シュマイゼル殿。建国祭を楽しまれていかれよ」
アイリーン様がいないのに意味が分からん。そうわたくしには聞こえた呟きの後に
「いえいえ、エルファード殿はアイリーン様にすぐに出て行けとおっしゃったではありませんか。ええ、すぐに出て行きますとも!それでは」
くるりと踵を返し、わたくしの手を取ったまま歩き始めました。
「えっ、建国祭に、マルグ国が欠席?あの、それは……」
少しだけエルファード様の慌てた声が聞こえて来ましたが、シュマイゼル様は毛程にも気に留めず、わたくしに微笑んで下さいます。エルファード様と違ってとても背が高くて……知的な緑の瞳が美しい方です。
「お仕度を。私が連れて来た侍女やメイド、騎士達が手伝います。もし連れて行きたい者がいたならば何なりと。レンブラント殿下は泣きはしませんか?突然国を出ることになって」
お優しい事にわたくしの息子にまで心を砕いてくださるとは……エルファード様とは全く違うシュマイゼル様に少しだけ嬉しくなってしまいました。
「多分……何も言いませんわ。あの子は聡い子です」
「そうですか」
わたくしはそのまま、レンブラントの部屋を訪ねることになりました。
「レンブラント殿下、わたくしです」
「母上、聞き及んでおります。マルグ王、お世話になります」
まだ6歳のわたくしの息子はぺこりと頭を下げました。
「これは……レンブラント殿下は大きくおなりですね」
「もう殿下ではありませんのでしょう?侍女が知らせてくれました。私も荷物はそう多くありません、すぐに支度が出来ると思います」
するとシュマイゼル様はレンブラントの目の高さまで屈みこんでこうおっしゃるのです。
「実はですね、私は貴方のお母上であられるアイリーン様に結婚を申し込もうとしておるのです。ですから、もし頷いていただけたら、レンブラント殿はまた殿下になってしまうのですが、良いでしょうか?」
「その話を聞きますと、我が母はシュマイゼル様の側妃という事なのでしょうか?」
「いいえ、実は私はまだ結婚をしていませんので、正妃の席にお座り頂きたいと思っております」
「なるほど、そんなこともあるのですね。我が母上はまだ世継ぎの君を産むことが可能でしょうから、私はその子の王兄としてそれなりの位をいただける、そういう事なのですね?」
エルファード様がアレなもので、息子のレンブラントには少しだけ早く教育を始めましたが、これ程までに周りが読める子になっていようとは。
貴族の娘として顔色は出さない訓練はされていますが、流石のわたくしも恥ずかしくて顔が赤くなりそうです。
「レンブラント殿が王でも良いと私は考えておりますが?」
「いえいえ、我が身には愚父エルファードの血が半分も流れております。そのような者がマルグ国の王位につくなど、シュマイゼル様がお許しになっても私と私の母は許す事ができないでしょう」
「……その辺りはマルグへ戻ってからゆっくり話し合いましょう。家臣達の意見も聞きたい所ですからね」
「確かにそうですね、申し訳ございません。性急過ぎました」
ぺこり、もう一度頭をさげるレンブラント。わたくしの息子は一体どこでこのような腹の探り合いを覚えたのでしょうか……もう少し6歳らしく無邪気にして欲しい気も致しますけれど、レンブラントがこうならなければいけなかった状況に置いてしまったわたくしの不徳の致すところ。レンブラントには申し訳ないです。
「お荷物まとめ終わりました」
「……まあ」
何と手際の良い事でしょうか。確かにわたくしに仕えてくれていた侍女やメイド達は聡明な者が多かったですが、鮮やか過ぎますね。
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