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それからの俺たち

110 なんかそういうことになった

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 家族がギアナ様の前以外でものすごく青い顔をするものだから、俺はその日の夜中にすぐ誘った。

「ギアナ様、散歩に行きましょう?」

「ああ、そうだな」

 そっと二人で屋敷を抜け出す。倒れてすぐのギアナ様はまだ体力があって、歩くのに支障はない。でもたまにゴホゴホとせき込んだりしているので、本当は動いちゃダメなんだ。

「つらいですか?」

「いや、大丈夫だ。リトと一緒に居たら楽しくて……俺は、長くないのか?」

「お医者様はもって1か月だって。今まで大丈夫だったのが不思議だって言ってました」

 ふむ、ギアナ様は首を捻る。

「そんなに酷いのか?全然痛みもないんだがなあ?」

「病気ってそんなものなんでしょうかね?」

 手を繋いで無言で歩く。

「そういえば知っています?俺ってギアナ様の事が大好きじゃないですか」

「そうだな、リトは俺の事が大好きだな。俺も負けないくらい好きだけど」

 倒れるまでほぼ毎日いちゃいちゃして、従業員から丸めた紙屑をたまにぶつけられる。

「だから、ギアナ様が死んじゃったら、俺、生きていられないと思うんですよ」

「……それは困るな。俺はあと1か月しか生きられないんだろう?リトも死んでしまうじゃないか」

「そうなんですよねー。でもお医者様は手の施しようがないっていうんですよ」

 ゆっくり夜の街を歩く。月が出ている。大きな月だった、いつかバチュールの屋敷でみたような、大きな大きな月。

「参ったな」

「そうなんですよ、だから俺」

 もう立派で大きくなった神殿の前に来ていた。

「神頼みしようかと思って来ちゃいました」



 大きくなった神殿は、まだ明るかった。内部に足を踏み込むと、暗さは増してくる。さすがに神像が置いてある礼拝堂は誰もいなかった。

「……思い出すな、結婚した時。ずいぶん神様と親しげだったから驚いたよ」

「神様の家で仕事をしていた時はああでしたよ。ずっと威厳ある姿は疲れるって言ってました」

 二人並んで礼拝堂の一番前の椅子に腰を下ろす。

「……死にたくないなぁ……」

「死んでほしくないです」

「でも、そうも行かないんだろう……?」

 青い目から涙がこぼれそうになる。泣かないで、泣かないで。

「泣かないで、ギアナ様、俺の旦那様。泣かせたくないから早く来たのに」


『よう!リト』

「遅いですよ!神様!旦那様が泣いちゃったじゃないですか!」

 俺は神様に文句を言った。
 悪い悪い!頭をかく神様はいつも通り。

『じゃ、リトの命をギアナに分けるってことでいいな?』

「はい、お願いします」

 ぽとりぽとり落ちた涙もそのままにギアナ様は

「何を言っている!?」

 凄い勢いで俺を見る。

「しょうがないでしょう?ギアナ様が死んだら俺も死にますから。二人で長生きするのに一番いい方法です」

「駄目だ!リトが早死にしてしまうじゃないか!リトは爺になるまで元気に生きるんだ!」

「ギアナ様が死んだら俺も死ぬから爺になれませんよ?」

「なれ!」

「なれませんて!」

「いーや!なれ!」

「無理ですってば!」

「リト!」

「はいっ!」

『命分けても爺になれるから、それでいいだろ?』

呆れ気味に神様にいわれちゃった。え?俺の命どんだけ長いの!?

『ギアナはさー短命な運命なんだよね。で、それはこっちでもいじれなかったんだけど。リトはなー……なんかまあ、スマンって感じなんだけど。いろんな神様から感謝されて寿命伸ばされまくってなあ……このままだと人間レベルじゃなくなってんだよ』

「「え?」」

 ギアナ様と俺の声は重なった。

『ごめんなあ……なんかこのままだと400歳くらいまで生きちゃうから……削って?』

「「え……?」」

 すごい爺になりそう!

「400歳って……分けても多すぎませんか!?」

 200歳まで生きちゃうの!?俺たち??

『それも多すぎるだろう?だからさ、悪いんだけどもうちょっと減らしてこっちに移すからさあ、後の調整はまたあとでするから、持って行ってよ』

 ぽわん、と光るものが上から降ってきて、俺の胸のあたりに止まった。思わず両手を出すと

「みぃ」

「わ!」

 白い生まれたばかりの子猫が乗っている。

「利人、僕だにゃあ」

「わ!喋った……ってリト!?リトなの!?」

「そうだにゃあ!君と入れ違いで上にいったリトだにゃ!」

 びっくりして神様を見るとボリボリ頭をかいている。

『いやあ……リトの寿命を延ばし過ぎちゃった件で不味いなーと思ってさ。ギアナに分けるつもりだったんだけど、それでも余ってしまって……しょうがないから誰かを地上にやって多すぎる寿命を引き受けてもらおうと思ったんだけど、いい人材がいなくてね!リトに白羽の矢が立っちゃった!』

「僕も地上に降りたかったんだにゃぁ!母さんや兄弟をみるだけじゃやっぱりつまらにゃいからね!ふふ、いいだろう?リト、ギアナさん。僕を育てて欲しいにゃ」

 俺とギアナ様は顔を見合わせてから

「いい、けど、いいのか?」

「俺は構いませんけど……」

 やった!子猫のリトは頼りない手足を動かした。

「神様そういうことで、地上で人間活動してきますにゃ」

『しょうがないよなあ、俺たちがリトの寿命を延ばし過ぎたのが悪いんだからなあ。はぁ戻ったらまた仕事手伝ってね?』

「了解ですにゃ!さあ、利人。僕はちゃんとした赤ちゃんになるから、名前つけてね!リトって呼ばないでよ?どっちか分からなくなるからにゃ!」

 子猫のリトは目を閉じる。次に開けた時には「みぃみぃ!」と小さく鳴くことしかできなくなっていた。記憶は封じたんだろうね。

『うん、ギアナとリトそっくりになったね。あー良かった良かった。私もなかなか創生が上手くなったもんだなー!はっはっは!じゃ、またね!』

 至高神様はポン!と軽い音を立てて、光の粒をまき散らした。最近はこの消え方がお気に入りらしい。

 呆気に取られてみていると、神殿の奥の方からバタバタ、バタバタとたくさんの足音が聞こえる。

「い、今!今しがた!!降臨の!神の!あれ?リト様、ギアナ様?いや!?あれ?いやはや神気!?うわすごい!」

「わたわたわたたわたしも!夢で!神が!かみががががが」

「私も!」「わたしも!」「あわわわ!しゅごい!これが神気!」

 どうやらこの神殿のいる高司祭から神官見習いまで全員集まって来たらしい。

「リト様!?いつのまに御子を!?」「あらまあ!なんて祝福された子でしょう!」「キラキラしていますね!」

「子供?だってこの子は子猫……」

 子猫にしては足がぶっとい。白いは白いが黒い縞々が入っている……あれ?

「?ギアナ様の血を濃く受け継いでおられますね、可愛らしい白虎だ」

「みゃあん!」

「おやおや、目は緑色だ。リト様そっくりですな……あれ?お二人とも男性でしたよね?でもその子は間違いなく二人のお子様、あれ?」

「……至高神様ですね!間違いなくあの方のお力だ!」

 あ、うん、確かにそうなんですけどね。

「これだけ神気が満ちればさもありなん!」「さすが!さすが神の御業でございます!!」


 なんか、そういうことになった。

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