上 下
44 / 46

43 生きていれば

しおりを挟む
「いぎゃーーーーー!!!無理だああああああ、斬れ、斬れえええええええ!アーヴァイン!斬れえええええ」

「失礼させていただきますっ!皆さん押さえつけて!」

「うおおおおおおお!」

「ウギャアアアアア痛いイイイ裂けるウウウウ!」

「裂けてますよーー!順調にーーーー!」


「おぎゃあああああおぎゃああああああ!!」

「産まれたぁああああ!」


 私はアージェみたいな紫の髪で、右目が私と同じ水色の、左目はセシリーみたいなターコイズのものすごく可愛い女の赤ちゃんを無事この世に送り出してしまった。

「お腹が割れる様に痛い」

「そりゃ割れましたから」

「ぷぎゃーぷぎゃー!」

 赤ちゃんはジェナリスと名付け、ものすごく可愛いし元気だった。流石に私はおっぱいは出なかったので乳母にその辺りは任せることになる。

「頑張りましたね、フレデリック様」

「アージェの願いなら……わ、私は叶える……!」

 お腹が大きい間ずっとアーヴァインは傍に居てくれて色々な事を手配してくれた。

「叔父上……」

 なんだかんだでジェスへ戻れなくなった私の方に皆が来てくれた。

「カイラス……どうも君の願いに応えられなくなってしまったよ……」

「生きて、いればそれで、良いんです……」

 カイラスは私の手を取って泣き出してしまった。生きていればそれで良い。ぼんやりと暮らしていた間に何度も何度も言われた言葉。
 連絡が出来なかったが、ジェス家の皆にしてみれば今回の事は、私がカルセニア伯爵に攫われて行方不明になっていたんだもんな。
 その辺りの話を聞くと、やはりカルセニア伯爵は私をどこかに閉じ込めてしまおうと拉致を敢行したらしい。
 何故そんな馬鹿な事を?と思うが、どうもこれはあのアデリンの呪いの一部だったようだ。私を不幸にする為にカルセニア伯爵は通常ならあり得ない行動に出た、そんな所らしい。

「ただし、本人に「その気」が無ければそこまでの行動には至らないようです。私がそこまでの行動に至らず、カイラス坊ちゃんやオルウィン様がやらかしてしまったように」

「はは……」

 少し乾いた笑いが漏れてしまった。まあ……セシリーの手の者に斬り伏せられた山賊達。カルセニア伯爵はセシリーの顔を見る前に気絶させられ、縛られたままその場に放置されていたんだそうだ。
 死体の中で、放置された実行犯を見つけたアーヴァイン達。しかし私の姿はない……カイラスとオルウィンは必死で探し回ったそうだ。
 しかし、私は見つからない。それはそうだろう、帝国の物凄く深い場所に閉じ込められていたんだから、情報が漏れ出る事がなかったんだ。

 その間にカイラスとオルウィンは話し合い殴り合い、慰め合い……そして

「私達の物にならなくて良い……ただ生きていてさえいれば……」

 そこへ辿り着いたようだ。物凄く申し訳ない気持ちでいっぱいなんだが、私はどうしてもアージェの願いを叶えたかったんだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

記憶の欠けたオメガがヤンデレ溺愛王子に堕ちるまで

橘 木葉
BL
ある日事故で一部記憶がかけてしまったミシェル。 婚約者はとても優しいのに体は怖がっているのは何故だろう、、 不思議に思いながらも婚約者の溺愛に溺れていく。 --- 記憶喪失を機に愛が重すぎて失敗した関係を作り直そうとする婚約者フェルナンドが奮闘! 次は行き過ぎないぞ!と意気込み、ヤンデレバレを対策。 --- 記憶は戻りますが、パッピーエンドです! ⚠︎固定カプです

お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません

八神紫音
BL
 やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。  そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...