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62 秘密の救援を
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「ち、近寄らないで」
「……まあいいけど」
狭い馬車の中で逃げ場なんてなかったけれど、精一杯殿下から遠ざかる。気を抜くと目の前が真っ暗になってしまいそうな中、小さな馬車の窓からなんとか今いる場所を知りたくて外をちらちらと盗み見る。
街並みはまだ貴族街のようだけれど、少し小さめな館が見えて来たので、中間位の貴族達が暮らす家が立ち並ぶ場所へ向かっているようだ……。王宮ではないし、王妃様の実家でもない……もしかしたらこの顔色が悪い騎士の家……なのかもしれない。王族に言われては従うしかないんだろう。騎士がちょっと可哀想に思ったけれど、そんなことより自分の心配をしなくちゃいけない……。
学園からかなり離れててきている……誰かもう気が付いてくれているだろうか。その事を願うしかなかった。
「ウッ!! 」
「嫌な予感がします!!アリシア様はどこですか!!」
ファルク様とブランシェ様と今後について話し合いをしていたエヴァンお兄様とミオさんが同時に声を上げたのだそうです。突然だったので、その場にいた全員が驚いて椅子から立ち上がった、と言っていました。
「ア、アリシアは今日は一人で寮に帰ると……まさか」
ブランシェ様が手を上げると、何者かが影から動いた気配がしたのだとか。
「よ、妖精の、声……なんだこの、金切り声……アリシア、が、誰かに……」
「エヴァン様!?アリシア様の身に何かが起こったのですか!?」
「警告……悲しみ、叫び……痛みを感じる。アリシアは今、怖がってる……行かなきゃ……」
「エヴァン……様? 」
ミオさんから聞いた話だと、その時のエヴァンお兄様は何かに操られているようにフラフラと歩き出したそうです。
「聞こえる……私を、呼んでいる」
「もしかして、妖精の声を聞いていらっしゃる……!」
「どういうことだい、ミオ」
ファルク様の問いかけにミオさんが答える。
「多分ですが、きっとアリシア様の周りには妖精がいるんです。その妖精達がアリシア様を助けるために呼び寄せようとしている人間がエヴァン様なんだと思います。多分エヴァン様は妖精の声に引き寄せられて動いている」
そんなことができるのか?と問いかける前に、黒ずくめの人間がブランシェ様の横に立ち、すぐに耳打ちをして去ってゆく。
「やはりアリシアが誘拐されています。学園から出て寮までの短い距離を狙われた……信じられないことに犯人は王太子殿下です」
「なっ……!まさか、嘘だろう」
息をのむファルク様とミオさん。ブランシェ様も顔色が悪い。
「連れ込まれる際にアリシアの声を数名の生徒が聞いていました……そして犯行に使われた馬車はラトラ伯爵家の物……馬車もラトラ伯爵家のタウンハウスへ向かっているらしいです」
「ラトラ伯爵家……次男が王太子付きの護衛騎士だな、その伝手か」
「多分そうでしょう……」
「じゃ、じゃあ早く追いましょう!あんな王太子と一緒なんてアリシア様の身に危険が!」
ミオさんが叫ぶけれど、ファルク様とブランシェ様は顔色が悪い。
「……もちろん追う……だが、ラトラ伯爵家は……貴族街の外れにある、かなり遠いんだ。今からでは相当時間がかかる」
「とりあえず、校門へ向かいましょう。ルストバーン家の馬車を回してあります。もちろん影達が先回りしてアリシアの身の安全を確保できればよいのですが……」
「い、急ぎましょう!エヴァン様も!エヴァン様? 」
その時エヴァンお兄様は何かに導かれるように校門ではなく、中庭の方へ駆けだしていたそうです。
「……まあいいけど」
狭い馬車の中で逃げ場なんてなかったけれど、精一杯殿下から遠ざかる。気を抜くと目の前が真っ暗になってしまいそうな中、小さな馬車の窓からなんとか今いる場所を知りたくて外をちらちらと盗み見る。
街並みはまだ貴族街のようだけれど、少し小さめな館が見えて来たので、中間位の貴族達が暮らす家が立ち並ぶ場所へ向かっているようだ……。王宮ではないし、王妃様の実家でもない……もしかしたらこの顔色が悪い騎士の家……なのかもしれない。王族に言われては従うしかないんだろう。騎士がちょっと可哀想に思ったけれど、そんなことより自分の心配をしなくちゃいけない……。
学園からかなり離れててきている……誰かもう気が付いてくれているだろうか。その事を願うしかなかった。
「ウッ!! 」
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「ア、アリシアは今日は一人で寮に帰ると……まさか」
ブランシェ様が手を上げると、何者かが影から動いた気配がしたのだとか。
「よ、妖精の、声……なんだこの、金切り声……アリシア、が、誰かに……」
「エヴァン様!?アリシア様の身に何かが起こったのですか!?」
「警告……悲しみ、叫び……痛みを感じる。アリシアは今、怖がってる……行かなきゃ……」
「エヴァン……様? 」
ミオさんから聞いた話だと、その時のエヴァンお兄様は何かに操られているようにフラフラと歩き出したそうです。
「聞こえる……私を、呼んでいる」
「もしかして、妖精の声を聞いていらっしゃる……!」
「どういうことだい、ミオ」
ファルク様の問いかけにミオさんが答える。
「多分ですが、きっとアリシア様の周りには妖精がいるんです。その妖精達がアリシア様を助けるために呼び寄せようとしている人間がエヴァン様なんだと思います。多分エヴァン様は妖精の声に引き寄せられて動いている」
そんなことができるのか?と問いかける前に、黒ずくめの人間がブランシェ様の横に立ち、すぐに耳打ちをして去ってゆく。
「やはりアリシアが誘拐されています。学園から出て寮までの短い距離を狙われた……信じられないことに犯人は王太子殿下です」
「なっ……!まさか、嘘だろう」
息をのむファルク様とミオさん。ブランシェ様も顔色が悪い。
「連れ込まれる際にアリシアの声を数名の生徒が聞いていました……そして犯行に使われた馬車はラトラ伯爵家の物……馬車もラトラ伯爵家のタウンハウスへ向かっているらしいです」
「ラトラ伯爵家……次男が王太子付きの護衛騎士だな、その伝手か」
「多分そうでしょう……」
「じゃ、じゃあ早く追いましょう!あんな王太子と一緒なんてアリシア様の身に危険が!」
ミオさんが叫ぶけれど、ファルク様とブランシェ様は顔色が悪い。
「……もちろん追う……だが、ラトラ伯爵家は……貴族街の外れにある、かなり遠いんだ。今からでは相当時間がかかる」
「とりあえず、校門へ向かいましょう。ルストバーン家の馬車を回してあります。もちろん影達が先回りしてアリシアの身の安全を確保できればよいのですが……」
「い、急ぎましょう!エヴァン様も!エヴァン様? 」
その時エヴァンお兄様は何かに導かれるように校門ではなく、中庭の方へ駆けだしていたそうです。
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