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35 歌が嫌いな秘密

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 ひいっ歌!?歌ですとー!?お母様何を言いだすのかしら!?やめてやめてくださいよ、私が音痴なの知ってるじゃないですか!!

「フェンルース候、横笛でよろしいかな?」
「おお、ありがとう……うん、指馴染みも良いね。借りてもいいかな?」
「もちろんですとも!フェンルース候に使っていただけるなんて光栄です」

 お父様に笛が手渡されたわ!

「ナリシア、ハープは大型でいい?」
「嫌だわ、小さいのにして? ちょっとひくだけじゃない」
「あらそう?」

 お母様にも手で持てるタイプのハープが……いや、無理よ、私、歌きらいなのに……もう……もう逃げ場が!

「お、おにいさま……」
「隣にいるよ、私はどうも音楽だけは駄目なんだ。音が単調すぎるんだ……」

 ち、違います、お兄様が合っているんです正解なんです。私は知っているの!フェンルース家の音楽は酷いの!酷くて音程が外れてて……でもお父様もお母様も楽しそうに演奏するから楽しいって思われてるみたいなんだけど、本当は二人とも滅茶苦茶下手くそなの!

「小さい声で良いのよ、合わせるだけで、ね?」

 ね、じゃありません!そしてその中でも一番音痴なのが私。楽器も上手くできないし歌なんてとんでもないの!それなのに……逃げ場がない!!

「む、無理ですわ……こ、こんな大勢の前で……あっ」

 有無を言わさずお父様とお母様が演奏を始めてしまった!時折ぷぴっとかギャンとか変な音が聞こえてくるの。それよりなにより……ああ、嫌だ嫌だ!

「うう……ううう……あ、ああ~……」

 ちょっと声を出すと聞こえてくる囁き。「下手くそ」「ホント音痴」「音痴すぎて聞きに来てやったぞ」「久しぶりねえ、この壊れた音楽!」「サイテーだな」「あははは!笑える~~~」

 ああああああ……やっぱり~~罵詈雑言が聞こえてくる!それなのにお父様もお母様もやめる気配がない。こういう時だけ心臓が強いんだから納得できないわ!

「う……」

 こんなに馬鹿にされて歌い続けられるわけないじゃない……もう辛い、辛すぎる。

  「もっと歌えよ」「へったくそー」「ホント耳が腐っちゃう」「もっと歌えー」「ぎゃははは」

「うう……」

 こんなことまで言われてどうして続けなきゃいけないの?もう嫌……嫌よ!

「歌なんて……だいっきらい……」

  「げ」「しまった言い過ぎた」「あーあ」「やっちまったな」

「アリシア?アリシア!アリー……!」

 ああ、お兄様の声だ……良かった、あの意地悪な声は聞こえなくなった。もう二度と歌なんて歌うもんですか……分かってるわよ、私が下手なことくらい……絶対に、もう絶対に嫌なんだから。

「アリシア!? 」

 私はそのまま気を失ってしまった。そして気が付いたら自分の部屋で寝ていたのであのままお暇をしたんだろう。なんて情けない……。折角およばれしたのに最後までいることができないなんて。

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