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3、ひねくれ魔女は最後に爆ぜる
しおりを挟むアンナベッラが自分の話に興味を持ってくれたのが嬉しくて、ジャンは饒舌に続けた。
「周りの村を巻き込んで大暴れしていたドラーゴを、若かった頃の王弟殿下がひとりで退治したんだ! 呪いも王弟殿下にはかからなかった!」
「そうなんだ……ひとりで」
そのときはわからなかった。
「あのときの戦いの鎧の色から王弟殿下は黒将軍って言われるようなったし、魔除けにも使われるようになった。知ってるだろ?」
「……知らなかった」
アンナベッラがどうしてそんなことに興味を持ったのか。
「そうなのか? 田舎にいたからかな」
「ジャンは、その人見たことある?」
「王弟殿下? ああ、一度だけだけある」
「最近?」
「五年くらい前かな」
「どんなだった?」
「凱旋パレードで、馬に乗っていた。人でいっぱいだったけど、なんとかちらりとだけ見えて、かっこよかった」
黒将軍は王都の子供たちの憧れだった。強さと精悍さと凛々しさ。言葉にできないそれらを幼いながら受け止めた。
話しながら当時の気持ちを思い出したジャンは興奮したように言った。
「うちの親父より年上なのに全然しゃっきりして強そうだった。背筋が伸びててさ、目付きも鋭くてさ。引退する直前であの迫力だったら、現役で前線に出続けていたときどんなだったろうって思ったな」
「そうなんだ。怪我とかしてなかった?」
「左頬に傷があるらしいけど見えなかった」
「髪は短い? どんな色?」
「長くもなく短くもない感じで金髪だよ」
アンナベッラはいつになくきらきらした目で微笑んだ。
「ジャン、ありがとう」
「なにが?」
「これで安心して爆ぜることができる」
話が突然変わって、ジャンは困惑した。
「爆ぜ……? 何?」
だけどアンナベッラは嬉しそうに言う。
「爆ぜる。つまり爆発のこと。ばあんと空中で」
「……何が爆発するんだ?」
「私が」
「は?」
にこにこするアンナベッラにジャンは聞く。
「えーと、アンナベッラが? 空中で? 爆ぜる?」
「うん。それはもう派手に。でも大丈夫。流星群みたいにきれいだから」
「何言ってるのか全然わからない」
ジャンが本気でそう言うと、
「ドラーゴの呪いは死ぬ直前に解けるの」
さらにわからないことを言われた。
「みんなからのお礼もね、ほんとは受け取りたかったんだけど、それじゃ噂にならないから困ってた」
「噂? アンナベッラ、さっきからなんの話か全然わからないんだけど」
「ここにひねくれ魔女がいるって知らしめたかったのよ。最初からそのつもりで王都に出てきた。協力してくれたピエトロさんには感謝してる」
「親父がなにをしたんだよ?」
すると、アンナベッラは失せ物探しをするときのように長い睫毛を伏せて目を閉じた。
「ジャンのおかげで今、やっと見えた」
なにが、とは聞きたくなかった。
「王都に出てきたはいいけど、役職も今の顔もわからなくて」
誰の、とも聞かなかった。
「具体的に思い浮かべることが出来ないと、探すことができないから困ってた。だから向こうから来てもらおうと思ったんだけど……あれ?」
ひとりでしゃべっていたアンナベッラはまた目を閉じて、笑った。
「ふふ」
「なにがおかしいんだよ」
「やっと手がかりがつかめたと思ったら、迎えが来たから」
「迎え?」
「うん、ほら」
ジャンが眉間に皺を寄せたのと同時に、
「失礼します! こちらにひねくれ魔女様がいらっしゃると聞いたのですが」
扉の外から声が聞こえた。
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