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第1章 メリッサの決意

7.ラストはこれで決まり

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 店を出ると、外はすっかり真っ暗でした。

 あのマダム、とてもお話がお上手なんですもの。
 天国のようなお店に素敵なお話、それにお茶まで出していただいて
――本当にこのお店を選んで正解でした。


 あらっ、いけない!
 そもそもこのお店に来た理由を忘れてしまうところでした!

 クラリオン様は……?

 そろりと辺りを見回しますが、姿が見えません。
 もしかして王宮にお帰りになられたのかしら?


 ――でもここで弱気になってはいけませんわね。

 少し焦りましたが、私は「おもしれー女」ですから動揺は禁物です。
 気を緩めると眉が下がってしまいそうな気持を振るい起こして、私は
今日の最終目的地である次なる場所へ向かいます。


 すると――後ろから足音が近づいてきました。  

「そろそろ帰ろう」

 クラリオン様の声です。
 もう帰ってしまわれた訳ではなかったのね……良かった。

 不安が杞憂に終わり、私は内心ホッとしました。

 クラリオン様を取り囲んでいた護衛騎士たちは、空気を読んだのか
姿を消しています。

「もう遅い。屋敷まで送っていくから帰ろう」

「今日はまだもう1つ行きたい場所があるから、結構ですわ!」

「それなら今度こそ一緒に行く。俺はこの国の王太子だ。婚約者を一人で
こんな寂しい場所で放ってはおく訳にはいかない」


 いつになく真剣な目でクラリオン様がそうおっしゃいます。

 周囲は花屋以外に民家もなく、人どころか動物さえ気配がしない静かな場所。
 王族ともなると、こんな寂しい場所でも人目を気になさるのですね。
 なんだか大変そうです。

 まあ、でもイレーヌさんも「理不尽な意地悪」は反対なさっていましたし、
あまり意地を張ってしまうと「めんどくせー女」と認識されてしまいそうです。

 ここは素直に予定を変更することにしましょう。

「分かりました。今日はもう帰りますわ」

「良いのか? 行きたい場所があると言っていたではないか」

「ええ。また後日に行きます」

「そうか……」

「……その代わり」

「その代わり?」


 私は息を思い切り吸い込み、声を張るよう意識を集中します。
 「おもしれー女」たるもの、今日のラストは決めていました。


「ショートコント、ゴブリンと未確認生物!」

「!?」

 
 ……。

 …………。

 ………………。

 
 人様に披露するのは、これが初めて。
 緊張しましたが、やり切った充実感で一杯です。


 さて、肝心のクラリオン様のご様子は……?

 
 ――え? まさかのノーリアクション?

 無表情で、ただじっとこちらを見つめていらっしゃいます。

 やっぱり分かりやすく「ショートコント サロンで意識し
合う男女」みたいな、あるあるネタの方が良かったのかしら? 

 ネタのセレクトを失敗しました……。

 
 途中まで順調だっただけに、最後の最後で失敗してしまったショックは
大きく、私はすっかり気落ちしてしまいました。


 それでもクラリオン様は律儀なお方。
 ご自身で約束したことを守り、私を屋敷まで送ってくれると言うのです。

 それは嬉しかったのですが……盛大にネタが滑った後は実に気まずく、
道中は二人ともほとんど無言のまま。
 次の茶会の日程だけ調整すると、屋敷の門の前でお別れすることに。

 ――ああ、せっかくの 名誉挽回めいよばんかいのチャンスが!

 その夜、私が自室のベッドの上で枕に顔を埋め、ジタバタと転げまわった
のは言うまでもありません。 

 そんな私を天窓に浮かぶ月だけが見ていました。
 
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