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第1章 メリッサの決意

6.もう一つの目的地

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「まだ寄る場所があるのか?」

 眉間にしわを寄せながら、不服そうにクラリオン様が尋ねます。

「はい。今度は花……私、興味があるものが多すぎて、行きたい場所が
たくさんあるのです」

 ――危ない! 思わず素で「花屋に行くところ」と答えてしまうところ
でしたわ。

 ここは「おもしれー女」らしく、「私の次の行動は予測させないわよ」
アピールですよね。

 なんとか修正できました。  

「――俺も行く」

「無理しなくても宜しいのですよ。私が好きで行くだけの場所なのですから」

「いいから連れていけ」


 そう言ってクラリオン様は、私の肩をつかみました。

 きゃ! ボディタッチなんて初めてのことではないかしら?
 私を名前で呼んだり、今日は初めてのこと尽くしで心臓に悪いです。

「……つまらないお茶会はもう終わったのではないのですか?」

「勝手に終わるな! ……俺はまだ続いているつもりだ」


 ――やはり気になってきているようですわね。
 
 でしたらここからが本番ですわ。

 私は肩に置かれたクラリオン様の手を振り払うと、毅然きぜんとした表情を
つくって言い返します。

「ダメです。私はひとりで行きたいのです」
 
 そのまま私はあえてクラリオン様を一顧だにせず、花屋へと向かいます。

 クラリオン様がちゃんと付いてきているのか確認したいところですが
――ここは我慢のしどころです! 

 辺りがすっかり夕暮れから夜の薄闇へと表情を変えつつある中、私は
ひたすら前だけを見つめて進み続け、目的の花屋へと入ります。

 中は――予想以上に素敵な場所でした!

 色鮮やかな花々が整然と並び、それをキャンドルが照らしているという
幻想的な光景に思わず息を呑みます。

 美しい店内に目を奪われていると、どこからかお香の匂いまでただよってきます。

 天国のような静かで落ち着いた美しい場所――私はすっかりこの店に魅了みりょう
されてしまいました。

「いらっしゃい。何かお探しですか?」

 いつの間にか店主のマダムが後ろに立っていました。
 黒いシンプルなドレスを身にまとった姿は、雰囲気があってこの店に
ピッタリです。

「ええ。それなら……」

 私は目についた花の名前を口にします。

 すると嬉しそうにマダムは花の生け方から、花言葉まで流暢りゅうちょうに説明を
始めました。

 穏やかな口調が幻想的な空間に溶けていきます。
 まるで御伽噺おとぎばなしの1ページのよう。

 いまだ夢見がちなところがある私は、バーに続いて、この物語のような
空間を思い切り堪能たんのうすることにいたしました。
 
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