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55. 対決

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 アリウスを攻撃したのは魔術だったのか、アリウス以外の床や建物に
燃え移ることはないものの、爆発のときに生じた煙はまだ立ち込めたまま。

 そんな状況なのに、一切アリウスを かえりみることなく高笑いをしている
パメラの姿を見て、私も一緒に笑ってしまう。
 
「……フフ、フフフフフ。あははははは」

 予想外の私の反応に、パメラが露骨に不気味がる。

「……な、なによ? どうしてあなたまで笑うのよ!」
  
「だって 可笑おかしいんですもの。パメラさんったら、まるで私を生かすも
殺すも自分次第――とでも言いたげな口ぶりをして」

「実際、そうなのよ。自分の置かれている立場が、分かっていないようね」

 今までの余裕のある表情は消え失せ、パメラは 苛立いらだった口調で反論する。
 アリウスを攻撃した集団も、パメラの次なる指令に備えてなのか、
視線を私に向けている。

 玄関ドアの向こうからは、ずっとドアを叩き、私を案じる声が続いていた。

「……ふふふ。自分の置かれている立場が分かっていないのは、どちらなの
かしらね?」

 私の真意が分からず苛立つパメラ。

「どういう意味よ……!」

 しかし私の態度に思い当たることがあったのか、ひとり納得する。

「あっ……ふふ、そういうことね。あなた、外で待っている従者たちのことを
当てにしているのでしょう? 言っておくけれど、この屋敷の玄関ドアは物理
的力でも白魔術でも開かないわよ」

「……」

「救援は期待できないってこと。その おりの中で大人しくしていなさい」

 無言を肯定を受け取ったパメラの表情に余裕が戻る。

「……そうしたら、殺すにしても苦しまずに死ねるよう考えてあげてもいいわ」

 もう私には用事はないとばかりに、パメラは別の部屋へ移動しようとする。
 だから私は顔を上げて、大声で言った。

「私を人質にしてファストラル家の財産をせしめたら、どのみち殺すつもり
なんでしょう?」

 後ろを向いていたパメラが、 剣呑けんのんな表情でこちらを振り返る。

「ロクティア王国の騎士団長を利用して、戦を 惨敗ざんぱい持ち込んだのも、
口封じと財産目当てに幾度も私やファストラル家を襲わせたのも、パメラさん、
あなたですものね」

 黒魔術の件についてはレファスの告白のお陰で知ったことだが、私が襲われた
理由については、襲撃者本人を自白させて分かったことだ。

 魔術は施術者の名により解呪することができる――メディアンヌ様にかけられた
魔術の件でそれを知った私は、地下牢に捕らえていた賊に対して「施術者の名」に
よって彼らにかけられた黒魔術を解呪したのだ。

 これにより黒魔術のために黒幕を打ち明けることが出来なかった彼らも、何ら
デメリットなく黒幕の名を口にすることが出来るようになった。

 そのうえで告白の白魔術をかけると――真実はおのずから明らかになったという
わけだ。

「タリアさん、あなたやっぱり……」

 パメラが ふところから小さな杖を取り出す。
 あれもおそらく呪具なのだろう。
 視界の端で確かにそれを確かめながらも、私は怯まない。

「私とアリウスの結婚が失敗すれば、騎士団と王宮の文官との間の溝を深めること
も出来る。それはロクティア王国の分断を招き、弱体化に繋がる――そのために
私とアリウスの結婚を熱心に勧めてくれたのですものね!」

「だったら、どうだと言うの?」

 開き直ったような口調でパメラが言う。
 それが肯定を意味すると取った私は、記憶を思い出したあの日からずっと伝え
たかったことを、ついにパメラに伝える。

「罪を つぐなっていただくわ」

「――予定より早いけれど、仕方ないわね」

 底冷えするような視線を私に向けて、パメラが杖を振りかざす。

 その姿を見て、私も覚悟を決めて目を閉じた。
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