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35.宝物庫の出来事
しおりを挟む真っ黒な球体が浮かび上がると、縦に白い光が現れ、そこから男性が
姿を現した。
男性は持っていた 蝋燭の入ったランプを前に 掲げると、キョロキョロと
落ち着かない様子でこちらに進む。
「これは……ドルク?」
「ええ、30分前のこの宝物庫の様子です」
ルキウスの説明によると、これは宝物庫の奥から見た30分前の映像が、
水晶に映し出されているのだという。
「タリア様、実際に30分前に実際にここで起こったことを見て、ご判断下さい」
そう言ってルキウスは、私がよく見えるよう水晶を顔の前に掲げてくれた。
言われて水晶を 覗き込んでみると、中では、先ほどから引き続いて
ドルクらしき人影がゆっくりと足元に注意しながら進み、時折止まっては
保管してあるものを 物色している。
その少し後ろをドルクに続いて4人ほどの男たちが、付かず離れずの
距離を保ちながら、後を付けていた。
ドルクが後ろを振り返りもせず進んでいるあたり、後ろの4人を仲間と
認識している様子はない。
そうして宝物庫の奥に向かって進んでいると、突如ドルクの背後で緑色
の閃光が光ったかと思うと、いきなりドルクが 昏倒した。
「……黒魔術?」
緑の光が、先程の不審者たちを連想させる。
身に着けているフードとマントという 出で 立ちも似ているし、
無関係とは思えない。
「私の部屋への襲撃が陽動で、こちらが本命ということかしら? それとも
魔族がお兄様を襲おうとしたということ? どちらにしてもドルクは彼らの
仲間とは思えないんだけれど……」
「……分かりません。が、このまま帰すわけにもいきません。直接奴らに
聞いてみましょう」
「そんなことが出来るの?」
期待を込めて、私はルキウスの顔を見上げる。
そんな私を安心させるように、ルキウスの声はいつも以上に優しい。
「タリア様に侵入した男たちも、宝物庫の犯人も同じ白魔術の術具の力で、
この屋敷の地下牢におります」
腰に差した剣の 柄に手をかけながらルキウスが言うと、先程の失態を
挽回したいのか若い護衛騎士も申し出た。
「――自分もお供します。これでも騎士団で黒魔術をパメラ殿に習った身。
お役に立てるかと」
「ありがとうございます。では――」
ルキウスはドルクを念入りに縛り直すと、全員を外に出るよう促してから
宝物庫の鍵を閉めた。
「縛られたままで良いですから、せめて『黄金の君』の美しき髪を 傍に!
間近で 愛でる許可を!」
中からドルクが 嘆願する声が聞こえてくるが、当然却下される。
夜遅い時間にも関わらず騒々しいにも程があるので、「あまり煩いと、
あなたの髪を坊主になるまで 毟りますよ」とレミーが 凄むと、ようやく
静かになった。
「私たちは地下牢獄へ参ります。タリア様とレミーはここで待っていてください。
念のため他の護衛騎士も配備いたしますので、ご心配なく」
そう言い残して、ルキウスは若い護衛騎士と二人で地下牢へ向かった。
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