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第5話

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「おーら、ホームルームだぞ。席につけー」



担任の教師が閉ざされていた扉を開けて教室の中へと入ってくる。



そのせいで渋々、といったように席に戻り始めるクラスメイトのみんな。



それは性悪男子も同じなようで、仕方なくと言った感じでゆっくりと席に着いた。



──私の、左隣の席に。



「・・・え。あんたの席・・・ここなの・・・?」



「・・・イノシシ女の隣とか・・・。俺、めっちゃ可哀想~」



少しの間があってから私の方を見た性悪男子は、ニヤニヤと口元を緩めている。



その緩みきった顔・・・ぶん殴りたくなるぐらい腹立つ・・・!!



しかもなんで隣なの!?なんで!?可哀想なの私じゃない!?



「おーし、んじゃあ点呼のついでに自己紹介もしてもらうぞ~・・・じゃあまず青木~・・・」



フツフツと怒りが混み上がり、性悪男を睨みつけた。



でも、どんなに鋭い目で睨みつけても性悪男はニヤニヤと笑みを返すだけ。



その事がさらに私の怒りを強くする。



「プッ・・・鬼みてぇな顔してるぜ、お前」



「なっ・・・!?」



私にだけ聞こえるようなささやき声で耳打ちしてくる性悪男。



その声色は明らかに笑いを堪えたようなもので・・・。



「ホンット・・・いい加減にっ・・・!」



声をひそめつつ怒りを爆発させるも、相手は全く懲りている様子はなくさらにニヤニヤと口元を緩ませた。



こいつ・・・いつかぶん殴る・・・!



「・・・つ・・・もと・・・・・・辻本・・・、つーじーもーとー!」



「え?あ、はい!!」



怒りに身を焦がすあまりに、名前を呼ばれていることに気付けず、ガダッと音を立てて座っていた席から立ち上がる。



そのせいでいっせいに注がれるクラスメイトの視線。



あぁ痛い、クラスメイトの視線が痛すぎる。



「・・・ほら、自己紹介しろ~」



「あっ・・・えと、辻本茉弘です」



最悪だぁ~・・・。



心の中で嘆きつつ自己紹介を軽く済ませ、席に座る。



見なければいいものを隣のヤツの反応が気になってしまい、チラッ・・・と性悪男の様子をうかがう。



すると、小刻みに肩を震わせて笑うのを堪えているようだった。



これ、絶対私のことで笑いこらえてるよね。



殴っていい・・・?絶対今殴っても許されるよねこれ・・・!!



「このゲス男の緩み切った顔面に虫が大量発生したらいいのに」



「ゲスっ・・・!?」



“ゲス男”がよほど堪えたのか、驚いたような表情を浮かべ私の方を見つめる性悪男。



ゲス男・・・ものすごく的確な言い方だと思うんだよね。



こいつ性格悪いし、笑い方だってニヤニヤしてるし。



「次は・・・二海、自己紹介な~」



「!・・・はいっス」



ガタッと音を立てて立ち上がる隣の性悪男。



「二海 健治(ふたみけんじ)です。よろしくね」



さっきまでの性格の悪そうな発言はどこへやら。


性悪男・・・もとい、二海健治は声色も変えて礼儀正しく振る舞っていた。



だけど、キャーキャー騒ぐ女子はいない。



まぁ当たり前だ・・・女子が私と由紀、あと2人ぐらいしかいない上に私はコイツの素を知ってる。



騒ぐわけが無い。



「・・・随分と外面がいいですこと」



自己紹介が終わり、嫌味ったらしく言葉をかけると私の顔をジーッと見つめてくる性悪男の二海。



「な、なにさ」



珍しくニヤけていないその整った顔で見つめられ、ほんの少し動揺する。



確かに外見はすっごい整ってる。



あの性格さえ直せば、女子にモテるだろうに。


「・・・ハッ、お前は外面も間抜けだな」



「なっ・・・!?なんだとこの性悪男っ・・・!」



「ギャーギャー喚(わめ)くなよ、イノシシ女」



お互いに罵(ののし)り合い、罵倒し合う。



私も大概、負けん気が強いのだろう、罵られると何がなんでも言い返したくなるんだよな。

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