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11.君がいない部屋で僕はひとり

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 仕事を終えて帰宅すると、ドアを開けた途端に焦げ臭さを感じた。慌てて部屋に入ると、ぐちゃぐちゃのキッチンが目に入った。

「タクミ、おかえり。すまない、ちょっと失敗してしまった」

 申し訳なさそうに皿の上の黒焦げのものを見せてくる鈴音に、思わずため息をついてしまった。

「うまくできたのもあるから、タクミはそれを食べてくれ」

 どうやら餃子を作っていたらしい。差し出された皿の中身は、焦げてはいないが薄皮から餡がはみ出ている。換気扇を回してからシンクを覗き込むと、見慣れないボウルやフライ返しがごちゃごちゃと置かれていた。

「ねえ、鈴音。これ買ったの?」
「そうだ。梨花もあって困らないだろうって言ってたし、もらったお金の範囲で買えた。使い切ってしまったが」
「お金は多めに渡してたんだよ。もしかして足りなかったら困ると思って。全部使っちゃったの? 梨花さんが一緒だから大丈夫だと思ってたけど、こんな勝手されちゃ困るよ。ただでさえふたり分の食費捻出するのに苦労してるんだから。こんなことなら猫のままのほうがよかったよ」
「タクミ、ごめんなさい」

 震える声にはっとして鈴音の顔を見ると、目にいっぱい涙を溜めていた。苛立ちから、思ってもいないことまで言ってしまった。謝ろうとして掴んだ僕の手を振り払って、鈴音は外に飛び出してしまう。慌てて後を追おうとドアを開けると、外は土砂降りだった。傘を掴んでもう一度外に出ると、すでに鈴音の姿は見えなくなっていた。

「鈴音!」

 大きな声を出してみても、激しい雨音に掻き消されてしまう。ふたりで歩いた道も、出会った路地も、鈴音がひとりで佇んでいた河原も、探してみたけれど見つけられなかった。


 空腹と寒さと疲れから、家に戻ってきたのは零時前。入れ違いで鈴音が帰ってきているかも、という淡い期待はすぐに消え去る。出ていったときのままだった。すっかり冷めてしまった餃子をひとつ摘まんでみると、形は不格好だけれど、味はおいしかった。残りはラップをかけて冷蔵庫にしまった。

 鈴音のことは心配だけど、試験前に風邪を引くわけにもいかないから、熱いシャワーを浴びて、冷え切った体を温める。風呂から出ても、鈴音は帰ってきていなかった。散らかったままのキッチンを片付けていると、涙が溢れてくる。どうしてあんなこと言ってしまったんだろう。最低だ。鈴音の存在を否定しているようなものだ。後悔したって、言ってしまったことは取り消せない。

 自分のせいなのに、寂しくて、誰もいないベッドに顔を埋めた。鈴音の甘い匂いがして、また涙がこみ上げてくる。もしかして、梨花さんのところに行っているかもしれない。そう思って連絡を取ってみたけれど、彼女のところにも行っていないようだった。とにかく無事を祈った。せめて、雨風の凌げるあたたかいところにいて。僕のそばじゃなくてもいいから。
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