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2.君の温もりを僕は知ってしまった

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 自分だけいつもと違うごはんというのはなんだか申し訳なくて、鈴音のために猫缶を買って家に帰った。

「ただいま」

 扉を開けると、鈴音が玄関でまるくなって眠っていた。片手で抱え上げ、部屋の中に入る。もしかして、朝からずっとここにいたのだろうかと心配になったけれど、餌皿はちゃんと空になっていた。そっと座布団の上に下ろしたが、目を覚ます気配がない。

「すーずーねー」

 何だか寂しくなって、鈴音の額を軽くつついた。ゆっくりと目を開けた鈴音は僕の膝の上によじ登ってくる。

「鈴音、今日はごちそうだよ。お腹空いた?」
「にゃあん」

 さっきまで眠そうにしていたのに、ぺろりと舌を出して、期待に満ちた目を向けてくる。

「ははは、すぐに用意するね」

 梨花さんの手料理を電子レンジで温めている間に猫缶を開けると、足元で鈴音がねだるように鳴き始めた。お皿に中身を移して、座布団の前に置く。すぐに食いつくかと思ったけれど、鈴音は僕のほうを見て、しきりに口の周りを舐めている。僕が食べ始めるのを待ってくれているのだろうか。

 温め終わった料理をテーブルに並べる。「いただきます」と手を合わせると、隣で鈴音が小さな声で鳴いた。待ちかねたというようにがっつく様子に思わず笑いがこみ上げる。

「ゆっくり食べなって」

 猫缶ごちそうに夢中の鈴音には僕の声はもう届かない。僕はその愛らしい姿をちらちらと見ながら、ごはんを口に運ぶ。熊谷さんの言う通り、梨花さんの作った料理は本当においしかった。隣の鈴音はやっぱり皿まで綺麗に舐めて、それから毛繕いを始めた。

 皿洗いを済ませて、いつものように勉強を始める。毛繕いを終えたらしい鈴音は、当たり前のように僕の膝の上を占拠した。程良い重量感と温かさは、嫌じゃなくてむしろ心地良い。ちらりと視線を落とすと、まるい瞳が僕のことをじっと見上げていた。左手でそっと撫でてやると、鈴音は気持ちよさそうに喉を鳴らした。


 窓から吹き込む風が秋めいてきた。筆記試験までそろそろ一カ月を切ろうとしている。ありがたいことに、近頃は実務も経験させてもらっているだけあって、理解がスムーズだ。区切りのいいところまで終わらせて立ち上がろうとすると、鈴音は気持ちよさそうに寝息を立てていた。

「寝てばっかりだな、お前は」

 鈴音を抱き上げて、窓辺に向かう。カーテンの隙間から外を覗くと、まるい月が見えた。真っ黒な夜空にぽっかりと浮かび上がる満月は、なんだか鈴音の瞳に似ている。

 今は閉じられていて見えないその双眸。あの路地のすみっこで、きらめく金色の瞳を見つけていなければ、今ここでこうしていることはなかったのだろう。窓を閉め、カーテンもぴっちりと閉めなおす。鈴音を枕元に下ろして横になった。
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