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2.君の温もりを僕は知ってしまった

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 食事なんて、ただ腹が満たされれば良いと思っていた。今日の夕飯は特別おいしい気がする。鈴音と一緒だからだろうか。鈴音はいつもの猫缶じゃないことに最初は不満そうだったけれど、ひと口食べた後は、夢中になってくれたようだった。

 食後に野良猫を飼うにあたって必要なことを調べてみた。病院に行って、健康状態を診てもらうとか、迷い猫じゃないか確認するとか、そういったことが書いてあった。胡坐をかいた僕の膝の上に、鈴音がよじ登ってくる。部屋の白い光の中でも、鈴音の艶やかな毛並みは美しかった。

 病気なんて持っていなさそうに見えるけれど。それでも、鈴音とこれから暮らしていくためには、確認しておくべきことだろう。週末にでも動物病院に連れていくことにしよう。

 食事を終えた鈴音は毛繕いを始める。前足に結んだままだった鈴がちりんちりんと音を立てる。邪魔そうだから外してやろうと手を伸ばすと、鈴音は逃れようと抵抗した。

「それ、外してやるよ」
「にゃあ」

 鈴音はなおも抵抗を続ける。

「そんなに気に入ったの?」
「にゃあん」

 今度は肯定するように優しい声で鳴く。

「でも、そのままだと邪魔になるだろ」

 先ほど買った首輪の存在を思い出す。袋から取り出すと、鈴音は興味ありげにそれを見上げた。

「これに鈴つけてあげるから。それならどう? 鈴音に似合うと思って買ってみたんだ」

 今度は嫌がらずに鈴を外させてくれた。やっぱり、鈴音は僕の言うことがわかるのかもしれない。鈴の紐を首輪に括り付けて、鈴音の首につけてやった。ちりりん、と音が鳴る。思った通り、真っ黒な体に赤が映えて、よく似合っている。

「鈴音、可愛いよ」

 鈴音が部屋の中を歩き回る。ちりりん、ちりりん、と部屋を涼しげな音色が満たしていく。うるさくはなくて、むしろなんだか癒される。
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