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新しい仕事

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団長とよく相談して、商店で働く事にした。マールに話すと

「寂しくなる」と泣いて、慰めているうちにわたしも泣いてこんどは慰めて貰った。

こんなに感情を出すのは初めてだと思うが、これが当たり前なんだ。


そしてわたしたちは、普段とおなじ生活を最後まで続ける事にした。デメテルと買い物に行き、料理を手伝い、一緒に勉強したり読書をしたり。

そして最後の日、マールはわたしに小さな包みをくれた。わたしも用意していた辞書を渡した。

「わたしたち」「あたしら」「「隠し事うまいね」」と声が揃った。

デメテルと抱き合い、マールを抱きしめた。

馬車が遠ざかるのをわたし一人で見送った。人の姿がわからなくなったが、最後に馬車に向かって大きく手を振った。

そして、行ってしまった。自分で選んだ別れだけど、涙はいつまでも止まらなかった。


なんとか涙を止めてると、わたしは宿舎に向かった。



簡素な部屋は、いごこちはいいけど、寂しかった。わたしはベッドに潜ると膝をかかえた。


翌日はあたらしい生活にふさわしい、晴れた日だった。

窓をあけると風が緑の匂いを運んで来た。わたしは、デメテルに教えてもらったスクランブルとベーコンをトーストに乗せると、手に持ってぱくっと食べた。卵が固いけど美味しい。

今日はこれだけしか作れなかったけど、明日はもっと頑張る。


仕事が始まるまで、時間がある。わたしは見つけて置いた魔石屋に行く事にした。

ここでは、きちんと日を決めて来て欲しいと言われたが、今のところは無理なので適当にって返事をした。


後お店で仕事をすると顔が割れてしまう。ここに住むのならそれは避けたい、なにかいいものはないかなと、わたしは町をぶらついた。


いいものが見つかったが、雇い主がなんと言うか、わからないが、説明するには絵が必要だ。

わたしが、あれこれ言うのを戸惑いながら絵にしてくれた生地屋の店員に感謝だ。


そしてわたしは久しぶりにあった花束の贈り主、テオに絵を見せた。

「随分な事を考えたね」

「はい、流れているときは、顔を見せても良かったのですが、ここにずっと住むとなると、と言う事でこういった事を考えました」

「すべて任せるから、好きにしてくれ。それと助手はいらないか?」

「いえ、今のところ必要ないですね」

「そうか。内装を今、仕上げている。それから給仕を仕込んで・・・・・向こうでかなりやっているが、こちらに慣れて貰わないと。料理の仕上げは一緒にしよう。アリスの好きな味にするから」

「それは良くないですね。困ります」

「大丈夫だよ。様子を見て変えていく」

「後、アリスが落ち着いたら、魔法を教えてやって欲しい。食事をしながら、魔法の舞台をみるってとても楽しいと思う。

今の所アリスひとりだけしかやれる人はいないだろ。だけどそういうのを増やしたいんだ」

「なるほどなぁ」と思いながら、口にいれたフルーツタルトはとても美味しかった。







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