上 下
27 / 48

22 通し稽古

しおりを挟む
今日は通し稽古だ。

ラズは朝から王妃殿下の髪を結いに行った。舞台に映えるような、大きなリボンをつけ、動き安いようにとディング夫人が、考えた衣装を着た王妃は興奮で目をキラキラさせていた。

ラズはお菓子が買えなくて泣く少年役をやる為に、男の子の衣装を着込んで、髪を帽子で隠した。


エリザベートの姿がないのを王妃殿下が気にしているので、ラズは妊婦さんのガーベラに聞きに行った。

「それがね・・・・」とガーベラが話しだした時、エリザベートが、珍しく取り乱した様子であらわれた。

「お待たせしました。母が急病のため、わたくしが代役を致します」

エリザベートが手にした丸めた台本は、なんだか危ないものに見えた。


通し稽古と言うことで、発音には目をつぶり流れを確認していく。


剣でちゃんちゃんやり合う場面では、モップを剣に持ち替えたフリージアの同僚が

(せいいぎの味方をやっつけろ)(せいぎいの味方をやっちまえい)(せいぎの味方うぉやつけろ)とか意外に上手な発音でくるくる回っている。

ディング夫人は舞台をしっかり見ながら、そばに置いた助手二人にいろいろ言っている。二人はそれをどんどん記録していた。

王妃の侍女は台本に印をつけながら、舞台を見ていた。


最後にフリージアと王妃が抱き合うと、出演者も含めて拍手をしてエリザベートが戸惑った顔をしたのが皆にとって新鮮だった。

「(正義の味方をやっつけろ)ってずいぶんわかりやすい演出だね。(我が妻はいまも謎めきて微笑む)」とフレデリックが入って来て笑った。

「母上、(永遠の若さの泉・・・)よくお似合いで」

「ロザモンド、似合うぞ」

「楽にしてくれ、邪魔しに来たのではない」とエリザベートに近づいて

「剣の手ほどきは?少なくとも持ち方くらいは」と王太子が言うと

「けっこうです」「「「お願いします」」」「「「「王子様が、」」」」後ろを見て黙らせたエリザベートは

「いりません。出演者は皆、可愛くて悪役の顔じゃないのです。だから、主役の(正義の味方)を強調してます」

「なるほど・・・・」と王太子が言うと王妃が

「邪魔だから出て行って」と追い出した。王太子が部屋を出るとケイトがすっと部屋を出て行った。

それに気づいた者たちは目配せをし合った。気がつかない振りをしているエリザベートは誰が目配せしているか確認した。



講評の為に、前に出たエリザベートは、出演者を見て

「セリフはゆっくりでいいので正確に、覚えてないものは台本を持ったままで大丈夫です。悪役の人はこんど、発音をじっくり教えます。連絡しますのでその時来て下さい。衣装のことでディング夫人からなにかありますか?」

「ありがとう妃殿下。動きやすさ、着心地を教えて下さい。後で話を聞きに行きますし・・・その皆さんを見ていたらもっといい物を作りたくなりました」


「はい、それでは悪役の所と最後の所をもう一度やります」

王妃お気に入りの場面を、もう一回やって通し稽古を終わりにした。

稽古が終わると王妃は侍女と共に帰って行ったが、お茶とお菓子を用意してくれていた。


隣の部屋に行って遠慮なく食べるように指示すると、ガーベラがフリージアの同僚を誘い、ジャスミンはこめかみを押さえているロザモンを助けながら連れて行った。

「セリフが多いと大変よね」と笑うジャスミンをロザモンが「もう」と言いながら、軽く打った。



ロザモンドは部屋に戻って休むと言って、ラズと一緒に帰って行った。



◇◇◇

「妹がいらないと言った婚約者は最高でした」

新作をあげました。読んで見て下さい。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

あなたの子ではありません。

沙耶
恋愛
公爵令嬢アナスタシアは王太子セドリックと結婚したが、彼に愛人がいることを初夜に知ってしまう。 セドリックを愛していたアナスタシアは衝撃を受けるが、セドリックはアナスタシアにさらに追い打ちをかけた。 「子は要らない」 そう話したセドリックは避妊薬を飲みアナスタシアとの初夜を終えた。 それ以降、彼は愛人と過ごしておりアナスタシアのところには一切来ない。 そのまま二年の時が過ぎ、セドリックと愛人の間に子供が出来たと伝えられたアナスタシアは、子も産めない私はいつまで王太子妃としているのだろうと考え始めた。 離縁を決意したアナスタシアはセドリックに伝えるが、何故か怒ったセドリックにアナスタシアは無理矢理抱かれてしまう。 しかし翌日、離縁は成立された。 アナスタシアは離縁後母方の領地で静かに過ごしていたが、しばらくして妊娠が発覚する。 セドリックと過ごした、あの夜の子だった。

亡くなった王太子妃

沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。 侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。 王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。 なぜなら彼女は死んでしまったのだから。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

比べないでください

わらびもち
恋愛
「ビクトリアはこうだった」 「ビクトリアならそんなことは言わない」  前の婚約者、ビクトリア様と比べて私のことを否定する王太子殿下。  もう、うんざりです。  そんなにビクトリア様がいいなら私と婚約解消なさってください――――……  

砕けた愛は、戻らない。

豆狸
恋愛
「殿下からお前に伝言がある。もう殿下のことを見るな、とのことだ」 なろう様でも公開中です。

決めたのはあなたでしょう?

みおな
恋愛
 ずっと好きだった人がいた。 だけど、その人は私の気持ちに応えてくれなかった。  どれだけ求めても手に入らないなら、とやっと全てを捨てる決心がつきました。  なのに、今さら好きなのは私だと? 捨てたのはあなたでしょう。

【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る

堀 和三盆
恋愛
「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」  デビュタントを迎えた令嬢達との対面の後。一人一人にそう告げていく若き竜王――ヴァール。  彼は新興国である新獣人国の国王だ。  新獣人国で毎年行われるデビュタントを兼ねた成人の儀。貴族、平民を問わず年頃になると新獣人国の未婚の娘は集められ、国王に番の判定をしてもらう。国王の番ではないというお墨付きを貰えて、ようやく新獣人国の娘たちは成人と認められ、結婚をすることができるのだ。  過去、国の為に人間との政略結婚を強いられてきた王族は番感知能力が弱いため、この制度が取り入れられた。  しかし、他種族国家である新獣人国。500年を生きると言われる竜人の国王を始めとして、種族によって寿命も違うし体の成長には個人差がある。成長が遅く、判別がつかない者は特例として翌年の判別に再び回される。それが、キープの者達だ。大抵は翌年のデビュタントで判別がつくのだが――一人だけ、十年近く保留の者がいた。  先祖返りの竜人であるリベルタ・アシュランス伯爵令嬢。  新獣人国の成人年齢は16歳。既に25歳を過ぎているのに、リベルタはいわゆるキープのままだった。

処理中です...