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14 侍女長は来た

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侍女長の訪れが告げられキャリーがドアを開けた。

「ようやく挨拶にきたの。随分とお忙しいのね」と部屋に足を踏み入れた途端にエリザベートからこう言われた侍女長は、礼儀を忘れて

「お飾りの妃殿下には、侍女長の忙しさは理解できないかと」と返した。

「なるほど、忙しいとちゃんとした礼をとる必要はないとお考えなのかしら?」

「・・・・・・」

「侍女長、あなたの考えを聞かせて下さい。態度で知らせて下さいましたが、きちんと言葉で伝えて下さい」

「・・・・・・・」

「忙しいと言う事よね。黙っているのは時間が勿体無いと思うけど・・・・付き合って待つつもりはないわ」

そういうとエリザベートは書類の処理を再開した。

「これは数字が違ってます。この数字がおかしいのは元帳が間違っているってことだから、キャリー悪いけど行って指導してあげて」

「はい、エリザベート様」とキャリーが出て行った。

隅に控えていたエミリーに視線を送ると、心得顔のエミリーが、お茶を持って来た。

お茶を飲みながら、エリザベートは侍女長をじろじろと見た。

すごくいい気持ちだった。身分から言うとわたくしが絶対に上。きちんとした礼儀を要求するのは当たり前だ。

もっと付け上がらせてから叩いても良かったけど・・・・まぁっ徹底的にやらせて貰うわ。

あの夜会の時の若者の一人が偶然、侍女長の親戚だっていうのも、おあつらえ向きだし・・・


そこにキャリーが戻って来た。一人ではなかった。

二人の男性が一緒だった。二人は侍女長を見てぎょっとしたが、キャリーもエリザベートもエミリーもすましているので、なにも言わず、迂回してエリザベートのそばにやって来た。

「元帳はどうなってたの?キャリー」と言うエリザベートの言葉にキャリーではなく二人が答えた。

「妃殿下、去年の数字が間違ってました。どうやって修正したらいいでしょうか?」

「今年の数字だけ修正すればいいわ。注をきちんと入れておけばいい。去年その仕事をした文官と、連絡は取れる?」

「はい」と言いながら二人の目が泳いだ。

「犯罪じゃないでしょうが・・・・こういう事は見逃せない。妃としてここにいる以上はね」

「妃殿下、あの・・・」と一人が口ごもった。

「うん?・・・・・その文官には元帳の数字が違っている件で話したいと、わたくしが言っていると伝えて頂戴」

二人は深く頭を下げて帰って行った。

「考えはまとまったかしら、侍女長」とエリザベートが声をかけると

「この事はロザモンド様に申し上げます」

「この事ってなんの事でしょう。侍女長」と薄ら笑いを浮かべてエリザベートが問いかけた。

「わたくしを立ったまま待たせた事です」と侍女長が気色ばむと

「えーーとつまり、立ったままって事が侍女長のお気に召さなかったってことなの?」

「わたくしの前で侍女長に座る権利があったとは存じませんでした」とエリザベートは、書類の処理を続けながら

「侍女長、あなたこそわたくしをさんざん待たせましたね。質問に答えずに・・・・お飾りの妃に答える気はないと言う事ですね・・・・・」

悔し涙だろうか?うっすらと目を潤ませた侍女長に向かって手をひらっと動かしながら

「お下がり」とエリザベートは言い放った。


ここに、来た理由も忘れたのかしら?友人の婚約者二人を、わたくしが奪い取って、婚約解消させた件はどうなったの?とエリザベートは行儀悪く、肩をすくめた。



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