上 下
4 / 48

03 二つの結婚式

しおりを挟む
一回目です


それからまもなくエリザベートと王太子殿下の結婚式が行われた。結婚式の前の夜、侯爵夫人がエリザベートの部屋を訪ねた。

「王宮でもロザモンドを守ってあげてね。あなただけが頼りよ。お願いね。今までのように」そう言うとエリザベートを抱きしめた。

「約束してね。あなたも大事な娘。二人でがんばって」とお母様が切れ切れに紡ぐ言葉にわたくしの心は満たされた、大事なのはロザモンドわたくしを利用してるだけとわかっているのに・・・・・この腕を与えられてわたくしは喜んでいる。お母様がわたくしを認めてくれるなら、抱きしめてくれるなら。エリザベートはそう思った。




全員、王宮の礼拝堂に揃った。

衣装は準備していたものを着た。この衣装を見るたびに胸にこみ上げた思いは決して表に出してはいけないとエリザベートは自分を律した。

子供の頃の両親からのプレゼントの装身具は重厚な衣装に合わないが、この奇妙な結婚に相応しいとエリザベートと自嘲した。

父のセントクレア侯爵と目も合わせず、言葉も交わさず祭壇まで歩いた。

王太子の手は冷たく義務的に差し出された。

全員が早く終わらないかなと思っていた式だった。

式が終わると

「じゃあ、奥様。俺とロザモンドの式の準備頼むね」と新夫は背中を向けながら言った。一応礼儀として侯爵夫妻、国王夫妻、王太子とロザモンドを見送って、最後に礼拝堂をでた。


そしてエリザベートはドレスのまま、自分の部屋に戻った。


侍女のケイトが乱暴にドレスを脱がした。

夕食の席に王太子は来なかった。一人で食事を済ませ部屋に戻ると王太子の伝言が届いていた。

今晩は所用があると一言記されていた。

エリザベートはいままでしていたように、一人で湯浴みをしていつもの寝巻きを着てベッドに入った。



ロザモンドの王太子妃教育が始まったが、全然すすまなかった。当たり前だとエリザベートは思った。

王太子はロザモンドにかまうのに忙しく執務はすすまなかった。その分エリザベートが忙しくなったが、白い結婚どころか会うこともない彼女を城の使用人たちは軽んずるようになって来た。

執務に忙しく食事に行けない日が続くと、いつしかエリザベートの食事は用意されなくなった。執務が終わってから厨房をたずねて残り物を貰った。

着るものも侍女がいない為に自分で着られる服だけを着まわした。

書類を運んで来る者は多いが戻してくれる者はいない。エリザベートが自分で戻しに行く。一度その途中で王太子殿下に会った。

「おまえはあてつけでそんな格好をしてるのか。可愛げのない・・・・うんざりだ。せいぜい仕事をしてくれ」そう怒鳴りつけると返事をするひまもなく去って行った。

『うんざりなのは、わたくしだわ。だけどこれを終わらせないと城が回らない・・・・・』とエリザベートは足を速めた。

王太子がエリザベートを怒鳴りつけたことは、城中に広がり彼女を見るとどの使用人も、くすくす笑うのだった。

加えて結婚式の準備が大変だった。ロザモンドの要求は大きくまためまぐるしく変わり、手配はエリザベートに丸投げされた。

ロザモンドがやったのはドレスの仮縫いだけと言ってよかった。

それでもどうにか準備は整って素晴らしい結婚式が行われたが・・・・エリザベートは疲れ果て、結婚式もその後のパレードも欠席した。動けなかったのだ。

気がついたらすべて終わっていた。やっと目が覚めたエリザベートを王宮の者は嫉妬して、あてつけに欠席した冷たい姉だという非難した。

侯爵夫人はわざわざエリザベートの部屋を訪れ、なじり頬をぶって帰って行った。

エリザベートの服装や手入れしていない髪、肌を見てもなにも思わない、何も感づかない母親なんだと今更ながら気づいた。


反対に侯爵夫人の侍女はエリザベートの有様に驚いていた。だが同情的な目で見ただけだった。

この侍女は子供のエリザベートが一緒にお茶したい、散歩したいと母親にすがりつくのを引き剥がし部屋のなかに押し込む係だった。

子供の頃、エリザベートは庭でお母様と二人でお茶をするロザモンドが羨ましかった。ロザモンドは優秀だから勉強しないでいいのだと思っていた。

その考えが違っていると気づいたのは、王家のお茶会に二人で呼ばれた時だ。

まわりの令嬢はきちんと椅子に座っていたが、ロザモンドはいつのまにかいなくなっていた。そして、泥だらけの姿で庭師に連れられて戻って来た。

わたくしたちはすぐにお暇した。家に戻ってわたくしはすごく叱られた。頬を何度もぶたれた。

「妹に気を配れないなんて最低だと」

ロザモンドつきの侍女もいたし、侍女も気がつかないうちにいなくなったのにエリザベートの責任だと叱ったのだ。

ぶたれるエリザベートを見て、ロザモンドは

「お姉さまってほんとうにだめね」と言ったし侍女も

「ほんとうですね」と嘲笑った。

ロザモンドはロザモンドだから愛されるのだとその時、理解できた。





エリザベートはぶたれた頬を水で冷やすとスピーチの原稿を書き始めた。

式に参列した複数の王室を招いたお茶会なので、友好国の今後に期待する、もっと頻繁に行き来しましょう。という内容でまとめた。

ロザモンドに古代ギリー語の知識がないのはよく知っているので、社交の慣例を無視して普通の言葉だけで書いた。

せめて挨拶の言葉でも覚えて欲しかったが、侯爵夫人の怒りを買っただけだった。

普段だと届ける事を要求されるのだが、これはロザモンドの侍女が取りに来た。

この侍女は、はれた頬を見て、侮蔑の笑いを浮かべると帰って行った。



しおりを挟む
感想 176

あなたにおすすめの小説

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……

矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。 『もう君はいりません、アリスミ・カロック』 恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。 恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。 『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』 『えっ……』 任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。 私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。 それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。 ――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。 ※このお話の設定は架空のものです。 ※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)

【本編完結】婚約を解消したいんじゃないの?!

as
恋愛
伯爵令嬢アーシアは公爵子息カルゼの婚約者。 しかし学園の食堂でカルゼが「アーシアのような性格悪い女とは結婚したくない。」と言っているのを聞き、その場に乗り込んで婚約を解消したつもりだったけどーーー

(本編完結)家族にも婚約者にも愛されなかった私は・・・・・・従姉妹がそんなに大事ですか?

青空一夏
恋愛
 私はラバジェ伯爵家のソフィ。婚約者はクランシー・ブリス侯爵子息だ。彼はとても優しい、優しすぎるかもしれないほどに。けれど、その優しさが向けられているのは私ではない。  私には従姉妹のココ・バークレー男爵令嬢がいるのだけれど、病弱な彼女を必ずクランシー様は夜会でエスコートする。それを私の家族も当然のように考えていた。私はパーティ会場で心ない噂話の餌食になる。それは愛し合う二人を私が邪魔しているというような話だったり、私に落ち度があってクランシー様から大事にされていないのではないか、という憶測だったり。だから私は・・・・・・  これは家族にも婚約者にも愛されなかった私が、自らの意思で成功を勝ち取る物語。  ※貴族のいる異世界。歴史的配慮はないですし、いろいろご都合主義です。  ※途中タグの追加や削除もありえます。  ※表紙は青空作成AIイラストです。

どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません

しげむろ ゆうき
恋愛
 ある日、婚約者アルバン様が私の事を悪く言ってる場面に遭遇してしまい、ショックで落ち込んでしまう。  しかもアルバン様が悪口を言っている時に側にいたのは、美しき銀狼、又は冷酷な牙とあだ名が付けられ恐れられている、この国の第三王子ランドール・ウルフイット様だったのだ。  だから、問い詰めようにもきっと関わってくるであろう第三王子が怖くて、私は誰にも相談できずにいたのだがなぜか第三王子が……。 ○○sideあり 全20話

婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜

みおな
恋愛
 王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。 「お前との婚約を破棄する!!」  私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。  だって、私は何ひとつ困らない。 困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。

[完結]本当にバカね

シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。 この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。 貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。 入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。 私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。

(完結)婚約破棄から始まる真実の愛

青空一夏
恋愛
 私は、幼い頃からの婚約者の公爵様から、『つまらない女性なのは罪だ。妹のアリッサ王女と婚約する』と言われた。私は、そんなにつまらない人間なのだろうか?お父様もお母様も、砂糖菓子のようなかわいい雰囲気のアリッサだけをかわいがる。  女王であったお婆さまのお気に入りだった私は、一年前にお婆さまが亡くなってから虐げられる日々をおくっていた。婚約者を奪われ、妹の代わりに隣国の老王に嫁がされる私はどうなってしまうの?  美しく聡明な王女が、両親や妹に酷い仕打ちを受けながらも、結局は一番幸せになっているという内容になる(予定です)

処理中です...