王妃はわたくしですよ

朝山みどり

文字の大きさ
上 下
18 / 38

18 夜会にて

しおりを挟む
ジュディはライリーと会場の中央で踊っていた。二人は気づかなかったが、とても優雅で上品だった。

続いて、二曲踊るとライリーはジュディを食べ物のところに誘導すると

「今日は自分で取るな。どれが欲しいか教えて」と囁いた。

「えーと、あの肉と野菜を巻いたの。サーモンのカナッペ。あの煮込み。白いサブレ・・・黒いのも・・・」

「待て、一度とって来る」とライリーは言うと

隅にあった椅子をちょっと動かし、まわりが広くなるように置いた。ついでジュディを座らせると

「ここから動くな」と言うとジュディの手を取り指先に口を近づけると、去って行った。

ジュディは自分への視線に気づかぬ振りで座っていたが、少し体を斜めにした。すると片方の靴のつま先がスカートの裾からのぞいた。

「お嬢さん、そばにいることをお許しいただけますか?」と声がした。片手に椅子を持った緑の目の男性が立っていた。
ジュディはその目を見上げたがなにも言わなかった。

「お許しはまだのようだが」と言いながら椅子を置くと自分が座り

「名乗ってもよろしいでしょうか?」と優しい口調で囁いた。

今度は視線も動かさないジュディに

「はぁ見つめるだけで幸せですが・・・」と言い、そばに近づいて来た男を睨みつけた。

その間に反対側に椅子を持って来た男が黙って座っていた。

そして瞬く間に椅子を持って来た男たち五人が取り囲み

「始めてお見かけしました。どちらの姫様ですか?」

「ご令嬢、せめてお名前を」

とジュディに話しかけお互い同士は

「君、令嬢に無礼だぞ」

「無作法すぎるぞ。わきまえろ」とか言い合っていた。

会場の視線はこの一角に集まった。ジュディは内心焦ったが、心を無にして遠くを見てまわりに頓着していないと必死に見せかけた。

そして、バーバラ・ジェーンが騒ぎに気がついた。

「まぁ、お盛んですこと」とジュディに話しかけたが、答えはなかった。ジュディは視線も向けなかった。

「あなた、この騒ぎはなんですの?はしたないと思いませんか?」と立て続けに言い立てた。しかし返事はなかった。

ただ、不思議そうな目で見られた。

「答えなさい。この騒ぎはなんですの?」と重ねて言うと珍しいものを見るように、細かく観察されると

「尋ねる対象が違うのでは?」と返って来た。

なにこの女、侯爵令嬢の自分に対する態度ではないとバーバラ・ジェーンは今更ながら気がついた。

「名を名乗りなさい」とバーバラ・ジェーンが言うと

「え?」と女は変な声を出し、改めてバーバラ・ジェーンをじっと見て

「あなた、バーバラ・ジェーンで間違いないわね」と言った。

「当たり前でしょ」と答えたが声に引っかかった。

「あなた、あなた誰よ!大体無礼よね。このわたしに向かって挨拶もないなんて」とバーバラ・ジェーンは言うと待った。
相手がひれ伏して詫びるのを。

だが、相手は涼しい顔で座っていた。そしてこの躾の悪い猿の名前は?と・・・・

黙っている相手に圧倒されたバーバラ・ジェーンは無意識に一歩下がった。

そこに

「やぁ、待たせたね。ちょっと捕まって。ってなに随分手狭になったね」と戻って来たライリーが言った。

バーバラ・ジェーンはまた怒鳴りそうになった。その男は彼女を気にかけずに近寄って来ると隣りに置いた椅子に座る男に
「失礼だけど・・・」と声をかけた。するとその男はなにやら声にならないことを言うと席を立って去って行った。

戻って来た男は持っていた皿を渡すと

「どうぞ」と言った。

「ありがとう」と女が囁くと男は嬉しそうに笑った。

皿を受け取った女は、美味しそうに食べ始めた。肉と野菜を巻いたものは切り分けられていたが、ちょっと女の一口には大きいようで、女はフォークを皿を持った左手の指に預けると右手で、手づかみで食べ始めた。

「食べたの?」と女が男に聞くと

「全部どうぞ」と答えた。それを聞いて女はフォークを右手に戻すと、残りを食べた。

その光景に見入ってしまったバーバラ・ジェーンははっと気を取り直すと

「あなた誰よ。無礼よ」と再び騒ぎ出したが、男が小さく

「下がれ」と言ったときに背中がぞっとした。

そしてひるんだことを誤魔化す為に、椅子に座っていた男に向かい

「ダンスをすることを許します」と手を差し出した。ずっと状況を見ていた男は手を取るとその場を離れた。

ジュディを取り囲んでいた男たちは、ライリーが戻って来てジュディに傅くのを見て、やはりこの方は手の届かない方だと思った。

お皿を空にしたその方は、なにか付き添いに囁いた。すると付き添いはニコリと笑い再びテーブルに向かった。

戻って来た男性の皿には果物と菓子が盛られていて姫様はニコリと笑った。


食べ終わった姫様はもう一度ダンスをすると、会場を出て行った。

思わず礼をとって客は見送ったが、彼女は見向きもしなかった。


「よく出来ました。合格です」とライリーは囁いた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。

心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。 そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。 ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。 そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。 こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

【完結】どうかその想いが実りますように

おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。 学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。 いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。 貴方のその想いが実りますように…… もう私には願う事しかできないから。 ※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗 お読みいただく際ご注意くださいませ。 ※完結保証。全10話+番外編1話です。 ※番外編2話追加しました。 ※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

幼馴染みとの間に子どもをつくった夫に、離縁を言い渡されました。

ふまさ
恋愛
「シンディーのことは、恋愛対象としては見てないよ。それだけは信じてくれ」  夫のランドルは、そう言って笑った。けれどある日、ランドルの幼馴染みであるシンディーが、ランドルの子を妊娠したと知ってしまうセシリア。それを問うと、ランドルは急に激怒した。そして、離縁を言い渡されると同時に、屋敷を追い出されてしまう。  ──数年後。  ランドルの一言にぷつんとキレてしまったセシリアは、殺意を宿した双眸で、ランドルにこう言いはなった。 「あなたの息の根は、わたしが止めます」

【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?

曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」 エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。 最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。 (王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様) しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……? 小説家になろう様でも更新中

処理中です...