7 / 30
第7話 無力だった
しおりを挟む
黙って馬を歩ませた。一歩王都を離れると長閑な田園風景が広がっていた。そろそろ収穫の季節だと思うが、畑で働いているのは女性と子供だった。
何故かしらとトニーに聞いたが首をかしげていた。
その夜泊まった領主の館で、馬の世話をしていたら、本当は他の馬の世話もお手伝いしようと思ったのに遠慮されたので自分の馬だけ洗ってブラシをかけていたら、飼い葉を運んできた女性がひそひそ話していたのが聞こえた。
「聖女様と王様が行くんだとか」
「これでうちの人帰ってくるかな?」
「どうなるのか・・・もう三年も帰って来ない」
「実家も麦の収穫が出来なくて・・・もともと植え付けもろくに出来なかったけど。人手がないから仕方ないけど」
話は続いていたが、わたしはその場を離れた。そうか男は戦争に行ってるんだ・・・貴族だけじゃなく農民も戦争に行ってるんだ。
そうだよね。早く終わらせなくては。待っていてね。わたしは二人に向かってそっと言った。
それから前線に着いた。ここではずっと野営だ。兵士と話をした。話をしながら疲労回復をかけていく。聞くと大きな戦闘はないが、毎日攻めて来て適当な所で戻って行くというのをずっと繰り返しているとか。
西部戦線異状なし・・・そうだね、爆弾も飛行機もない戦争はあの世界か。あれってニュータイプ? 死んじゃうけど・・・そうだ。若者の夢と希望が・・・
この場所はもともと敵の領土で、攻め入って確保したこの地を守っている限り勝利だと思って命をかけているそうだ。バカバカしい・・・
なんとかあちらと話をしたいが、護衛の目があるので出歩けない。それで今、隠蔽魔法を練習している。ほんとに試験の一夜漬けを通り越して、早朝レンチン漬けだ。
だけど、ここはうるさい目がないので、トニーとゆっくり話が出来る。
散歩しながら二人で話をする。戦争に勝利する為に敵の大将と話をしようと言うわたしをトニーは、それは危険だと言って反対する。
二つの陣の真ん中ではと提案しても、矢を射られればおしまいだと言うのだ。わたしが守ると言っても聞かない。詰んでいる。どうすればいいのだ。
そんなある日、アイボーナ侯爵が軍を率いてやって来た。軍と言っても私兵だそうだが、装備のきちんとして強そうな軍だ。
「陛下、明日総攻撃を致しましょう。このアイボーナが敵を打ち払いますよ」と言うと豪快に笑った。
打ち払うなら早くしてくれたら良かったのに・・・そしたらわたしはこんな所でこんなにしてないわよ・・・
アイボーナ侯爵の指揮の元、翌日総攻撃をかけた。わたしも激を飛ばした。終わらせる為に死ぬかも知れないところへ送り出した。
「祖国の為になすべきことを!」むなしい言葉だ。
勝利の知らせが届いた。祝宴の準備をして待った。
夕方、傷ついた男たちが戻って来た。
動ける男たちは、車座になってどうやって敵に槍を刺したか、敵を切った時はと話をしていた。酒が減っていくに連れて話が大きくなって行った。
わたしは途中から宴を抜けると負傷者のところへ行った。公表されているわたしの能力は切り傷かすり傷程度を治すことだ。
わたしは包帯の下の傷をこっそり治してまわった。
骨折や重症の患者は痛みだけを取った。『ごめんなさい。ごめんなさい』と謝りながら。
アイボーナ侯爵が我が物顔で陣を歩き回っている所へもう一人貴族がやって来た。リシッド伯爵だ。彼も私兵を連れてきており、侯爵と話し合って一緒に攻撃を仕掛けた。
今回の戦闘は思ったほどの勝利はなかったようで、宴の時もリシッド伯爵は少し沈んでいた。
わたしは怪我人の世話をする為に今回は宴に出なかった。
今回は双方にかなりの被害が出ているせいか、その後は小競り合いもなく穏やかに過ごしていたが、王都から急ぎの使いがやって来た。なんでも国王の座を狙う者が出たと言うのだ。
トニーはすぐに帰ることになり、アイボーナ侯爵もリシッド伯爵も一緒に帰ると言うのだ。
ここは聖女も誘う所だよねと思ったが
「マリカ、君をひとりここに残して行くのは身を切られるように辛いが君の聖女の仕事を邪魔する気はない。元気で」と言い終わる前に
「陛下。出立のご命令を」と言うアイボーナ侯爵の大声に邪魔された。
わたしは去って行く馬の後ろ姿と土煙をぽかんと見送った。
何故かしらとトニーに聞いたが首をかしげていた。
その夜泊まった領主の館で、馬の世話をしていたら、本当は他の馬の世話もお手伝いしようと思ったのに遠慮されたので自分の馬だけ洗ってブラシをかけていたら、飼い葉を運んできた女性がひそひそ話していたのが聞こえた。
「聖女様と王様が行くんだとか」
「これでうちの人帰ってくるかな?」
「どうなるのか・・・もう三年も帰って来ない」
「実家も麦の収穫が出来なくて・・・もともと植え付けもろくに出来なかったけど。人手がないから仕方ないけど」
話は続いていたが、わたしはその場を離れた。そうか男は戦争に行ってるんだ・・・貴族だけじゃなく農民も戦争に行ってるんだ。
そうだよね。早く終わらせなくては。待っていてね。わたしは二人に向かってそっと言った。
それから前線に着いた。ここではずっと野営だ。兵士と話をした。話をしながら疲労回復をかけていく。聞くと大きな戦闘はないが、毎日攻めて来て適当な所で戻って行くというのをずっと繰り返しているとか。
西部戦線異状なし・・・そうだね、爆弾も飛行機もない戦争はあの世界か。あれってニュータイプ? 死んじゃうけど・・・そうだ。若者の夢と希望が・・・
この場所はもともと敵の領土で、攻め入って確保したこの地を守っている限り勝利だと思って命をかけているそうだ。バカバカしい・・・
なんとかあちらと話をしたいが、護衛の目があるので出歩けない。それで今、隠蔽魔法を練習している。ほんとに試験の一夜漬けを通り越して、早朝レンチン漬けだ。
だけど、ここはうるさい目がないので、トニーとゆっくり話が出来る。
散歩しながら二人で話をする。戦争に勝利する為に敵の大将と話をしようと言うわたしをトニーは、それは危険だと言って反対する。
二つの陣の真ん中ではと提案しても、矢を射られればおしまいだと言うのだ。わたしが守ると言っても聞かない。詰んでいる。どうすればいいのだ。
そんなある日、アイボーナ侯爵が軍を率いてやって来た。軍と言っても私兵だそうだが、装備のきちんとして強そうな軍だ。
「陛下、明日総攻撃を致しましょう。このアイボーナが敵を打ち払いますよ」と言うと豪快に笑った。
打ち払うなら早くしてくれたら良かったのに・・・そしたらわたしはこんな所でこんなにしてないわよ・・・
アイボーナ侯爵の指揮の元、翌日総攻撃をかけた。わたしも激を飛ばした。終わらせる為に死ぬかも知れないところへ送り出した。
「祖国の為になすべきことを!」むなしい言葉だ。
勝利の知らせが届いた。祝宴の準備をして待った。
夕方、傷ついた男たちが戻って来た。
動ける男たちは、車座になってどうやって敵に槍を刺したか、敵を切った時はと話をしていた。酒が減っていくに連れて話が大きくなって行った。
わたしは途中から宴を抜けると負傷者のところへ行った。公表されているわたしの能力は切り傷かすり傷程度を治すことだ。
わたしは包帯の下の傷をこっそり治してまわった。
骨折や重症の患者は痛みだけを取った。『ごめんなさい。ごめんなさい』と謝りながら。
アイボーナ侯爵が我が物顔で陣を歩き回っている所へもう一人貴族がやって来た。リシッド伯爵だ。彼も私兵を連れてきており、侯爵と話し合って一緒に攻撃を仕掛けた。
今回の戦闘は思ったほどの勝利はなかったようで、宴の時もリシッド伯爵は少し沈んでいた。
わたしは怪我人の世話をする為に今回は宴に出なかった。
今回は双方にかなりの被害が出ているせいか、その後は小競り合いもなく穏やかに過ごしていたが、王都から急ぎの使いがやって来た。なんでも国王の座を狙う者が出たと言うのだ。
トニーはすぐに帰ることになり、アイボーナ侯爵もリシッド伯爵も一緒に帰ると言うのだ。
ここは聖女も誘う所だよねと思ったが
「マリカ、君をひとりここに残して行くのは身を切られるように辛いが君の聖女の仕事を邪魔する気はない。元気で」と言い終わる前に
「陛下。出立のご命令を」と言うアイボーナ侯爵の大声に邪魔された。
わたしは去って行く馬の後ろ姿と土煙をぽかんと見送った。
147
お気に入りに追加
401
あなたにおすすめの小説
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
誰も信じてくれないので、森の獣達と暮らすことにしました。その結果、国が大変なことになっているようですが、私には関係ありません。
木山楽斗
恋愛
エルドー王国の聖女ミレイナは、予知夢で王国が龍に襲われるという事実を知った。
それを国の人々に伝えるものの、誰にも信じられず、それ所か虚言癖と避難されることになってしまう。
誰にも信じてもらえず、罵倒される。
そんな状況に疲弊した彼女は、国から出て行くことを決意した。
実はミレイナはエルドー王国で生まれ育ったという訳ではなかった。
彼女は、精霊の森という森で生まれ育ったのである。
故郷に戻った彼女は、兄弟のような関係の狼シャルピードと再会した。
彼はミレイナを快く受け入れてくれた。
こうして、彼女はシャルピードを含む森の獣達と平和に暮らすようになった。
そんな彼女の元に、ある時知らせが入ってくる。エルドー王国が、予知夢の通りに龍に襲われていると。
しかし、彼女は王国を助けようという気にはならなかった。
むしろ、散々忠告したのに、何も準備をしていなかった王国への失望が、強まるばかりだったのだ。
婚約者のいる側近と婚約させられた私は悪の聖女と呼ばれています。
鈴木べにこ
恋愛
幼い頃から一緒に育ってきた婚約者の王子ギルフォードから婚約破棄を言い渡された聖女マリーベル。
突然の出来事に困惑するマリーベルをよそに、王子は自身の代わりに側近である宰相の息子ロイドとマリーベルを王命で強制的に婚約させたと言い出したのであった。
ロイドに愛する婚約者がいるの事を知っていたマリーベルはギルフォードに王命を取り下げるように訴えるが聞いてもらえず・・・。
カクヨム、小説家になろうでも連載中。
※最初の数話はイジメ表現のようなキツイ描写が出てくるので注意。
初投稿です。
勢いで書いてるので誤字脱字や変な表現が多いし、余裕で気付かないの時があるのでお気軽に教えてくださるとありがたいです٩( 'ω' )و
気分転換もかねて、他の作品と同時連載をしています。
【書庫の幽霊王妃は、貴方を愛することができない。】
という作品も同時に書いているので、この作品が気に入りましたら是非読んでみてください。
選ばれたのは私以外でした 白い結婚、上等です!
凛蓮月
恋愛
【第16回恋愛小説大賞特別賞を頂き、書籍化されました。
紙、電子にて好評発売中です。よろしくお願いします(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾】
婚約者だった王太子は、聖女を選んだ。
王命で結婚した相手には、愛する人がいた。
お飾りの妻としている間に出会った人は、そもそも女を否定した。
──私は選ばれない。
って思っていたら。
「改めてきみに求婚するよ」
そう言ってきたのは騎士団長。
きみの力が必要だ? 王都が不穏だから守らせてくれ?
でもしばらくは白い結婚?
……分かりました、白い結婚、上等です!
【恋愛大賞(最終日確認)大賞pt別二位で終了できました。投票頂いた皆様、ありがとうございます(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾応援ありがとうございました!
ホトラン入り、エール、投票もありがとうございました!】
※なんてあらすじですが、作者の脳内の魔法のある異世界のお話です。
※ヒーローとの本格的な恋愛は、中盤くらいからです。
※恋愛大賞参加作品なので、感想欄を開きます。
よろしければお寄せ下さい。当作品への感想は全て承認します。
※登場人物への口撃は可ですが、他の読者様への口撃は作者からの吹き矢が飛んできます。ご注意下さい。
※鋭い感想ありがとうございます。返信はネタバレしないよう気を付けます。すぐネタバレペロリーナが発動しそうになります(汗)
たとえ番でないとしても
豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」
「違います!」
私は叫ばずにはいられませんでした。
「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」
──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。
※1/4、短編→長編に変更しました。
聖人の番である聖女はすでに壊れている~姉を破壊した妹を同じように破壊する~
サイコちゃん
恋愛
聖人ヴィンスの運命の番である聖女ウルティアは発見した時すでに壊れていた。発狂へ導いた犯人は彼女の妹システィアである。天才宮廷魔術師クレイグの手を借り、ヴィンスは復讐を誓う。姉ウルティアが奪われた全てを奪い返し、与えられた苦痛全てを返してやるのだ――
この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
めぐめぐ
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。魔法しか取り柄のないお前と』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公が、パーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー短編。
※思いつきなので色々とガバガバです。ご容赦ください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
※単純な話なので安心して読めると思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる