母獣列島

櫃間 武士

文字の大きさ
上 下
38 / 42

ダイバーシティ

しおりを挟む
女岩島めいわじま診療所。深夜。
育人「今夜は本部に戻れそうもないな」
 窓の外を見る育人。
 窓の外は暴風雨。
杏奈「お茶をいれるわ」
 立ち上がる杏奈。
杏奈「(コーヒーを作りながら)信者を使ってクーデターを起こすつもりなんでしょ。止めといた方がいいわ」
育人「何故?既に色んな組織に俺のガーディアン達が潜入しているぜ。潜入というのは語弊があるな。もともとその組織の人間だった女性をガーディアンに変えていったんだ」
杏奈「確かに警察や自衛隊の女性の大半はガーディアンになっているわ」
育人「武力蜂起するのに必要だからな。最初から重点的に信者を増やしていった」
 育人、杏奈からコーヒーを受け取る。
育人「あと政治家や財界人の女性のほとんどがガーディアンになっている。本人は気が付いてもいないが、俺が命令したら無条件で実行するだろう」
杏奈「確かに育人の計画は順調に進んでいるわ。でもね、クーデターは絶対に成功しないわ」
育人「ほほう?どうしてだい?」
 杏奈、深くため息をつく。
杏奈「日本でのダイバーシティへの取り組みは、残念ながら決して進んでいるとは言えないわ」
 杏奈、書棚から資料を取り出してページをめくる。
杏奈「現在の日本では、警察官と自衛官の7%しか女性がいないわ。女性の政治家もわずか9%。このペースだと男女半々になるまで五十年かかるというわ。もしも、すべての女性がガーディアンになったとしてもわずか1割にも満たないのよ。これでは、すべての信者たちが一斉蜂起しても、すぐに鎮圧されてしまうわ」
育人「この世は相変わらず男性中心の世界で、すべての女性が男性に戦いを挑んでも到底敵わないと言うことか」
杏奈「教団を創ってからまだたった五年よ。もっとじっくりと女性の社会進出を進めていかないと駄目だわ」
 育人、コーヒーカップを床に叩きつける。
育人「そのために五十年も待つのか!?ごめんだぜ!」
杏奈「(割れたカップを拾いながら)もう!このカップ、お気に入りだったに!相変わらず短気ね」
育人「いつまでも子供扱いしないでもらいたいな」
杏奈「それは無理よ。いつまでたっても私達は育人の母親だもの。これは母性本能とか生易しいものではないわ。これは呪縛ね」
育人「医者のくせに随分とオカルティズムな発言だな」
杏奈「昔は育人の能力をなんとか科学的に解明しようと思っていたわ。でも、それは無駄なことだったわ。育人の能力は科学では解明できない。だって、育人は人間じゃないもの!」
育人「五年かけた研究の結論がそれか」
杏奈「ええ。おかしい?」
育人「おかしくないさ。俺も自分で気が付いている。俺は人間を滅ぼすために生まれてきた何かさ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

僕とお父さん

麻木香豆
キャラ文芸
剣道少年の小学一年生、ミモリ。お父さんに剣道を教えてもらおうと尋ねるが……。 お父さんはもう家族ではなかった。 来年の春には新しい父親と共に東京へ。 でも新しいお父さんが好きになれない。だからお母さんとお父さんによりを戻してもらいたいのだが……。 現代ドラマです。

家路を飾るは竜胆の花

石河 翠
恋愛
フランシスカの夫は、幼馴染の女性と愛人関係にある。しかも姑もまたふたりの関係を公認しているありさまだ。 夫は浮気をやめるどころか、たびたびフランシスカに暴力を振るう。愛人である幼馴染もまた、それを楽しんでいるようだ。 ある日夜会に出かけたフランシスカは、ひとけのない道でひとり置き去りにされてしまう。仕方なく徒歩で屋敷に帰ろうとしたフランシスカは、送り犬と呼ばれる怪異に出会って……。 作者的にはハッピーエンドです。 表紙絵は写真ACよりchoco❁⃘*.゚さまの作品(写真のID:22301734)をお借りしております。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 (小説家になろうではホラージャンルに投稿しておりますが、アルファポリスではカテゴリーエラーを避けるために恋愛ジャンルでの投稿となっております。ご了承ください)

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

便利屋ブルーヘブン、営業中。~そのお困りごと、大天狗と鬼が解決します~

卯崎瑛珠
キャラ文芸
とあるノスタルジックなアーケード商店街にある、小さな便利屋『ブルーヘブン』。 店主の天さんは、実は天狗だ。 もちろん人間のふりをして生きているが、なぜか問題を抱えた人々が、吸い寄せられるようにやってくる。 「どんな依頼も、断らないのがモットーだからな」と言いつつ、今日も誰かを救うのだ。 神通力に、羽団扇。高下駄に……時々伸びる鼻。 仲間にも、実は大妖怪がいたりして。 コワモテ大天狗、妖怪チート!?で、世直しにいざ参らん! (あ、いえ、ただの便利屋です。) ----------------------------- ほっこり・じんわり大賞奨励賞作品です。 カクヨムとノベプラにも掲載しています。

処理中です...