9 / 42
奇跡の子
しおりを挟む
○女岩島診療所。診察室。夜。
散らかった室内を片づけている杏奈医師とあゆみ看護士。
椅子に腰かけ、マグカップを両手で抱え、コーヒーを飲んでいる育人。
育人「――言われてみれば、思い当たることがある。児童相談所の女の人は、俺が足首を握ったとたんにオヤジに襲い掛かった。村長の奥さんも、俺の手を握ったら急に俺を引き取ると言いだした」
杏奈「他に思い当たることはない?」
育人「俺はずっとオヤジと二人っきりだった。よその人と話したり、触れたりしたことがない」
あゆみ「(涙ぐんで)ウウッ!かわいそうな育人くん!」
杏奈「あなたのお母さんは?」
育人「知らない。物心ついた頃には、俺はオヤジと二人きりだった。母親は死んだと聞いている」
杏奈「そうなの。あなたの出生についてもっと調べる必要があるわね」
育人「どうして俺のことなんか調べる?」
杏奈「育人のことは何でも知りたいのよ!ああ!愛おしい育人!理屈じゃないのよ!あなたのためなら何でもしてあげたいの!」
育人「先生みたいな頭のいい人が、そんなこと言うなんて?頭がおかしい!」
杏奈「そうね、私はおかしくなっているわ。でもね、今はとっても幸せなのよ」
あゆみ「私もです!もう育人が可愛くて可愛くて、食べちゃいたいです!」
育人「女の人がみんなおかしくなるのは、やっぱり俺のせいなんだな。俺は、まともじゃないんだ!」
杏奈「自分を卑下しては駄目よ、育人。あなたは奇跡の子なのよ。何て素晴らしい能力かしら!育人!あなたが望んだら、世界を手にすることも夢ではないわ!」
育人「世界……!?」
杏奈「そうよ!育人!あなたの望みはなあに!?」
育人「俺は……」
育人、遠くを見る目で拳を握りしめる。
育人「俺は世界を滅茶苦茶にぶっ壊したい!!」
杏奈、育人を抱き締める。
杏奈「仰せのままに…。私たちは永遠にあなたの保護者、忠実なしもべよ」
と、あゆみ、育人の頬の傷を見つけて叫ぶ。
あゆみ「ああっ!?傷がまた増えてるわ!!」
育人「ああ。どうてことないさ。また、雄太に因縁つけられただけだ」
杏奈「雄太ってあいつね。漁協の組合長の息子」
あゆみ「育人の綺麗な肌に傷をつけるなんて許せないわ」
脱脂綿で育人の傷の手当をする杏奈。
あゆみ「先生!あのクソガキ!懲らしめてやりましょうよ!」
杏奈「そうね。ちょうど実験もできるし……」
杏奈とあゆみ、互いの顔を見つめ、ニヤリと笑う。
散らかった室内を片づけている杏奈医師とあゆみ看護士。
椅子に腰かけ、マグカップを両手で抱え、コーヒーを飲んでいる育人。
育人「――言われてみれば、思い当たることがある。児童相談所の女の人は、俺が足首を握ったとたんにオヤジに襲い掛かった。村長の奥さんも、俺の手を握ったら急に俺を引き取ると言いだした」
杏奈「他に思い当たることはない?」
育人「俺はずっとオヤジと二人っきりだった。よその人と話したり、触れたりしたことがない」
あゆみ「(涙ぐんで)ウウッ!かわいそうな育人くん!」
杏奈「あなたのお母さんは?」
育人「知らない。物心ついた頃には、俺はオヤジと二人きりだった。母親は死んだと聞いている」
杏奈「そうなの。あなたの出生についてもっと調べる必要があるわね」
育人「どうして俺のことなんか調べる?」
杏奈「育人のことは何でも知りたいのよ!ああ!愛おしい育人!理屈じゃないのよ!あなたのためなら何でもしてあげたいの!」
育人「先生みたいな頭のいい人が、そんなこと言うなんて?頭がおかしい!」
杏奈「そうね、私はおかしくなっているわ。でもね、今はとっても幸せなのよ」
あゆみ「私もです!もう育人が可愛くて可愛くて、食べちゃいたいです!」
育人「女の人がみんなおかしくなるのは、やっぱり俺のせいなんだな。俺は、まともじゃないんだ!」
杏奈「自分を卑下しては駄目よ、育人。あなたは奇跡の子なのよ。何て素晴らしい能力かしら!育人!あなたが望んだら、世界を手にすることも夢ではないわ!」
育人「世界……!?」
杏奈「そうよ!育人!あなたの望みはなあに!?」
育人「俺は……」
育人、遠くを見る目で拳を握りしめる。
育人「俺は世界を滅茶苦茶にぶっ壊したい!!」
杏奈、育人を抱き締める。
杏奈「仰せのままに…。私たちは永遠にあなたの保護者、忠実なしもべよ」
と、あゆみ、育人の頬の傷を見つけて叫ぶ。
あゆみ「ああっ!?傷がまた増えてるわ!!」
育人「ああ。どうてことないさ。また、雄太に因縁つけられただけだ」
杏奈「雄太ってあいつね。漁協の組合長の息子」
あゆみ「育人の綺麗な肌に傷をつけるなんて許せないわ」
脱脂綿で育人の傷の手当をする杏奈。
あゆみ「先生!あのクソガキ!懲らしめてやりましょうよ!」
杏奈「そうね。ちょうど実験もできるし……」
杏奈とあゆみ、互いの顔を見つめ、ニヤリと笑う。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
彩鬼万華鏡奇譚 天の足夜のきせきがたり
響 蒼華
キャラ文芸
元は令嬢だったあやめは、現在、女中としてある作家の家で働いていた。
紡ぐ文章は美しく、されど生活能力皆無な締め切り破りの問題児である玄鳥。
手のかかる雇い主の元の面倒見ながら忙しく過ごす日々、ある時あやめは一つの万華鏡を見つける。
持ち主を失ってから色を無くした、何も映さない万華鏡。
その日から、月の美しい夜に玄鳥は物語をあやめに聞かせるようになる。
彩の名を持つ鬼と人との不思議な恋物語、それが語られる度に万華鏡は色を取り戻していき……。
過去と現在とが触れあい絡めとりながら、全ては一つへと収束していく――。
※時代設定的に、現代では女性蔑視や差別など不適切とされる表現等がありますが、差別や偏見を肯定する意図はありません。
イラスト:Suico 様
あやかし姫を娶った中尉殿は、西洋料理でおもてなし
枝豆ずんだ
キャラ文芸
旧題:あやかし姫を娶った中尉殿は、西洋料理を食べ歩く
さて文明開化の音がする昔、西洋文化が一斉に流れ込んだ影響か我が国のあやかしやら八百万の神々がびっくりして姿を表しました。
猫がしゃべって、傘が歩くような、この世とかくりよが合わさって、霧に覆われた「帝都」のとあるお家に嫁いで来たのは金の尾にピンと張った耳の幼いあやかし狐。帝国軍とあやかしが「仲良くしましょう」ということで嫁いで来た姫さまは油揚げよりオムライスがお好き!
けれど困ったことに、夫である中尉殿はこれまで西洋料理なんて食べたことがありません!
さて、眉間にしわを寄せながらも、お国のためにあやかし姫の良き夫を務めねばならない中尉殿は遊び人の友人に連れられて、今日も西洋料理店の扉を開きます。
幽閉された花嫁は地下ノ國の用心棒に食されたい
森原すみれ@薬膳おおかみ①②③刊行
キャラ文芸
【完結・2万8000字前後の物語です】
──どうせ食べられるなら、美しく凜々しい殿方がよかった──
養父母により望まぬ結婚を強いられた朱莉は、挙式直前に命からがら逃走する。追い詰められた先で身を投げた湖の底には、懐かしくも美しい街並みが広がるあやかしたちの世界があった。
龍海という男に救われた朱莉は、その凛とした美しさに人生初の恋をする。
あやかしの世界唯一の人間らしい龍海は、真っ直ぐな好意を向ける朱莉にも素っ気ない。それでも、あやかしの世界に巻き起こる事件が徐々に彼らの距離を縮めていき──。
世間知らずのお転婆お嬢様と堅物な用心棒の、ノスタルジックな恋の物語。
※小説家になろう、ノベマ!に同作掲載しております。
久遠の呪祓師―― 怪異探偵犬神零の大正帝都アヤカシ奇譚
山岸マロニィ
キャラ文芸
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
第伍話 連載中
【持病悪化のため休載】
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
モダンガールを目指して上京した椎葉桜子が勤めだした仕事先は、奇妙な探偵社。
浮世離れした美貌の探偵・犬神零と、式神を使う生意気な居候・ハルアキと共に、不可解な事件の解決に奔走する。
◤ 大正 × 妖 × ミステリー ◢
大正ロマン溢れる帝都・東京の裏通りを舞台に、冒険活劇が幕を開ける!
【シリーズ詳細】
第壱話――扉(書籍・レンタルに収録)
第弐話――鴉揚羽(書籍・レンタルに収録)
第参話――九十九ノ段(完結・公開中)
第肆話――壺(完結・公開中)
第伍話――箪笥(連載準備中)
番外編・百合御殿ノ三姉妹(完結・別ページにて公開中)
※各話とも、単独でお楽しみ頂ける内容となっております。
【第4回 キャラ文芸大賞】
旧タイトル『犬神心霊探偵社 第壱話【扉】』が、奨励賞に選ばれました。
【備考(第壱話――扉)】
初稿 2010年 ブログ及びHPにて別名義で掲載
改稿① 2015年 小説家になろうにて別名義で掲載
改稿② 2020年 ノベルデイズ、ノベルアップ+にて掲載
※以上、現在は公開しておりません。
改稿③ 2021年 第4回 キャラ文芸大賞 奨励賞に選出
改稿④ 2021年
改稿⑤ 2022年 書籍化
笛智荘の仲間たち
ジャン・幸田
キャラ文芸
田舎から都会に出てきた美優が不動産屋に紹介されてやってきたのは、通称「日本の九竜城」と呼ばれる怪しい雰囲気が漂うアパート笛智荘(ふえちそう)だった。そんな変なアパートに住む住民もまた不思議な人たちばかりだった。おかしな住民による非日常的な日常が今始まる!
魔法屋オカマジョ
猫屋ちゃき
キャラ文芸
ワケあって高校を休学中の香月は、遠縁の親戚にあたるエンジュというオカマ(本名:遠藤寿)に預けられることになった。
その目的は、魔女修行。
山奥のロッジで「魔法屋オカマジョ」を営むエンジュのもとで手伝いをしながら、香月は人間の温かさや優しさに触れていく。
けれど、香月が欲する魔法は、そんな温かさや優しさからはかけ離れたものだった…
オカマの魔女と、おバカヤンキーと、アライグマとナス牛の使い魔と、傷心女子高生の、心温まる小さな魔法の物語。
加藤貴美華とツクモノウタ
はじめアキラ
キャラ文芸
――あ、あれ?……僕、なんでここに?……というか。
覚えているのは、名前だけ。付喪神の少年・チョコは自分が“何の付喪神なのか”も、何故気づいた時住宅街でぼんやりしていたのかも覚えてはいなかった。
一体自分は何故記憶を失っていたのか。自分は一体誰なのか。
そんなチョコが頼ったのは、加藤ツクモ相談所という不思議な施設。
所長の名前は、加藤貴美華という霊能者の女性。そこはなんと、政府から認可された“付喪神”に絡む事件を解決するという、特別な相談所で。
お江戸あやかしグチ処~うちは甘味処です!~
かりえばし
キャラ文芸
物語の舞台は江戸時代っぽい甘味処。
時期は享保~天明っぽい頃。
街には多くの甘味処があり、人々はそこで休息を取りながら美味しい甘味を楽しんでいた。
主人公の凛は、甘味処を切り盛りする行き遅れ女性(20歳)
凛の甘味の腕前には定評があり、様々な客から愛されている。
しかし凛は人間不信で人間嫌い。
普段は自分の世界に閉じこもり、人々との交流も避けている。
甘味処に来る客とは必要最低限の会話しかせず、愛想笑いの一つも浮かべない。
それでもなお、凛の甘味処がつぶれないのは奇妙な押しかけ店員・三之助と愚痴をこぼしに来る人間臭いあやかしたちのおかげだった。
【表紙イラスト 文之助様】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる