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ある街角の物語 その8

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 アトムが放映されたわずか10ヶ月後に鉄人のアニメが放映されると聞いて横山は驚いた。

「えっ!?鉄人のアニメが始まるのってそんなにすぐでしたか!?まだずっと先のことだと思っていました」

「『アトム』が大成功して視聴率が30%くらいいくからね。どこのテレビ局も大騒ぎになってアニメ番組が欲しくて欲しくてしょうがなくなるのよ。アニメは儲かるという噂で利権を欲しい人間がどっと飛びついてくるそうよ」

「ちょっと確認させてください」

 横山はコミックグラスを起動すると年表を確認した。

 昭和38年「鉄腕アトム」「銀河少年隊」「鉄人28号」「エイトマン」「狼少年ケン」。

 昭和39年「0戦はやと」「少年忍者風のフジ丸」「ビッグX」。

 昭和40年「スーパージェッター」「宇宙パトロールホッパ」「宇宙人ピピ」「ドルフィン王子」「宇宙少年ソラン」「宇宙エース」「遊星少年パピイ」「W3」「オバケのQ太郎」「ジャングル大帝」「ハッスルパンチ」「戦え!オスパー」。

 昭和41年「おそ松くん」「レインボー戦隊ロビン」「海賊王子」「ハリスの旋風」「遊星仮面」「ロボタン」「魔法使いサリー」。

「なるほど。アトムの後、雨後のたけのこのようにアニメ番組が乱立するのですね」

「だから横山さんものんびりしていないで鉄人のアニメ化の準備を進めて下さいよ」

「僕は漫画を描くだけで手いっぱいですから、アニメ化の話が来たらすべてテレビ局におまかせしますよ」

「あれ?横山さんは自分でアニメ制作に参加しないつもりなの?」

「普通そうじゃないのですか?」

「えっ!?」

「もしかして治美さん、漫画家が自分でアニメも作るものだと思っていませんか?」

「………違うのかしら?」

「自分の漫画をアニメ化するために会社作って自分でセル画まで描くなんて、そんな常軌を逸したことをした漫画家は手塚治虫ぐらいですよ」

「え、えーと、えーと、鉄人28号のアニメはどこがスポンサーになるのかしら?」

「露骨に話をそらしましたね。鉄人のスポンサーは江崎グリコとグリコ乳業です。グリコのキャラメルのおまけが大ヒットするそうですよ」

「アトムと同じお菓子会社なのね。同じロボットアニメだし、もろにアトムのライバルだわ。頑張らないとね!」

「あれ?僕の年表によるとアトムと同じ年に手塚先生、『銀河少年隊』ってアニメを作っていますよ?こちらの方は大丈夫なんですか」

「ああ。それはNHKの人形劇で手塚先生は原案とキャラデザだけ担当したみたいなの。アニメも少しは作るみたいだけど、それは虫プロのスタッフにおまかせするわ」

「そういえば去年もNHKで手塚先生原作の『ふしぎな少年』ってドラマをやってましたね。時間を自由に止められる少年のお話。主人公の『時間よ止まれ』って流行語にもなってましたね」

「あれは実写ドラマだったからわたしノータッチだったの。でも生放送でよく時間が止まるなんてドラマやったわね」

「ドラマと言えば昔『鉄腕アトム』も実写版テレビドラマを放映していましたね?」

「あ、あれには触れないで!子役の少年が着ぐるみ来てヘルメットかぶったアトムなんて見たくなかったわ!原作のイメージと余りにもかけ離れているもの!」

「まあ、手塚先生の作品は実写化には向いていませんものね」

「そんなことないわよ!まだ先の話だけど実写版『マグマ大使』なんてすばらしい出来よ。日本初の全話カラー放送された特撮ドラマで、『ウルトラマン』より先だったのよ」

「実写版アトムの前に人形劇のアトムもテレビでやっていましたよね」

 横山が次々とアトムの黒歴史を思い出すので、治美は慌てて話題を変えた。

「『狼少年ケン』はわたしのアシスタントをしていて東映動画に移った月岡氏が中心で作ってくれるから安心ね。問題は『エイトマン』なの。この作品、わたし全く知らないんだけどほっておいてもいいのかしら?」

「『エイトマン』ご存じないですか?『週刊少年マガジン』に1963年から連載されるSF漫画ですよ。『まぼろし探偵』や『月光仮面』を描いた桑田次郎先生の作品です」

「ああ!桑田先生が描くの?それなら安心ね。昔、アトムの原稿を代筆してくれたことがあるの」

「そう言えば僕も昔、アトムの代筆しましたよね。相変わらずいろんな人に迷惑かけていますね、治美さん」

「く、桑田先生の絵ってシャープでハイセンスで美しいのよね。わたし、彼も未来人じゃないかと疑っているの」

「そう言えば『エイトマン』の原作者、平井和正氏はごぞんじですよね?」

「ううん!知らない」

「豊田有恒、半村良、福島正実、小松左京、星新一、筒井康隆…」

「知ってる名前もあるけど、それがどうしたの?」

「彼ら新鋭のSF作家たちが黎明期のアニメのシナリオライターになるのですよ。治美さんは彼らとも交流を深め、SFの普及に力を貸さなくてはならない」

「ええっ!?わたし、そんなことまでしないといけないの!?あんな賢そうな人たちと付き合ったらすぐにボロがでちゃうわよ」

「大丈夫ですよ。向こうは手塚先生を崇拝している人達ばかりですから。アトムの絵でも描いてあげたら大喜びですよ」

「もう!他人事だと思って…」
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