イージスの盾

櫃間 武士

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第3章「ジョニー、お見舞いに行く」

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「乗れよ、ジョニー。家まで送ってやる」

 ペドロ刑事がパトカーの後部席のドアを開けた。

 俺がパトカーに乗り込むと、隣にペドロ刑事も座った。

 すると、俺の膝の上に図々しくセラベラムが座り、俺の首に腕を回してしがみついてきた。

 セラベラムの重さは感じなかったら、確かに彼女に触れている感触はあった。

 煩わしかったが、ペドロ刑事が隣にいるので、俺は文句を言わずに我慢していた。

 すぐに運転席と助手席に若い警官が乗り込み、パトカーが走り出した。

 ペドロ刑事は、大きなため息をついて目を伏せた。

「アルバレスのヤツ、怪しいとは思ってたが、まさか殺しまでやっていたとはな………」

「ペドロさん!今度こそ、クラウとマリアナをしっかりと保護してくれよ」

「ああ!俺が選んだ信頼できる警官を護衛につかせるから安心しろ!」

「信用してるぜ!ペドロさん!」

「だが、永遠にお前たちを守るわけにはいかん。前にも言ったが、命が惜しかったら、この町を出てゆくんだ」

「逃げたところで、フィフス・ストリートが見逃してくれないさ」

「そんなことはない。合法的ではないが麻薬カルテルも一つの営利団体だ。メンツよりも利益を優先する。お前なんかを苦労して殺しても、1セントの得にもならん」

「お言葉ですが、ペドロ刑事……」

 急に助手席の若い警官が話に割り込んできた。

「麻薬カルテルも企業イメージを大事にします。ジョニーを殺しても得にはなりませんが、生かしておいたらフィフス・ストリートはライバルになめられます」

 運転している警官も相槌を打った。

「そうですよ。フィフス・ストリートがジョニーの首に賞金を懸けたって知らないんですか?」

「賞金だと!?」

「ええ。お気の毒ですが、もうどこに逃げても無駄だと思いますよ」

「うぬぬぬぬ………」

 ペドロ刑事は苛立たしげにずんぐりとした体を揺すった。

「パパ………」

 セラベラムが膝の上から、俺の顔を見上げて呼びかけた。

「ああ!わかってる!」

 セラベラムに言われなくても、危険が迫っていることに俺も気づいていた。

 いつの間にかパトカーは、暗い倉庫街を走っていた。

 俺の家とは反対の方向だ。

 ペドロ刑事も窓の外を見て、ようやく異常に気付いた。

「おい!道が違うぞ!どこだ、ここは?」

 助手席の警官が後ろを振り向き、銃口をペドロ刑事に向けた。

「ペドロ刑事!拳銃をよこしな!」

「お、お前たち!警官じゃないのか?」

「警官だよ。ただし、警官は副業だ。フィフス・ストリートの方が給料がいいからな」

 拳銃を助手席の警官に渡しながら、ペドロ刑事が毒づいた。

「もう、この国の警察もおしまいだな。守銭奴のゲス野郎とわしみたいな間抜け野郎しか残っとらん」

「気づくのが遅いぜ、ペドロさん」

「すまんな、ジョニー!だが、わしが命に代えてもお前は守ってやるからな!」

「気にすんなよ!年寄りは無理をしないでおくれ」

「さあて、地獄の一丁目に到着したぜ、お二人さん。みなさん、お待ちかねだぜ」

 運転席の警官がおどけた口調でそう言って、真っ暗な空き地にパトカーを停めた。
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