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13.エルフとメイド
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一輝とカリンは毎日新しい動画を撮影しては投稿し続けていた。
堅苦しい学校紹介の動画だけでは誰も見てくれないことをカリンもようやく気が付いた。
カリンは歌ったり、学食の食レポをしたり、部活の体験入部をしたりしてエルフの女子高生のアバターが学園生活を楽しんでいる様子を投稿した。
そのおかげか徐々にであったがチャンネル登録者と再生数も増えていった。
カリンは素直に喜んでいたが一輝の思いは複雑だった。
Vチューバークラブが学園中に周知されたため新入生歓迎会での3Dライブの期待値が増したのだ。
どうせ誰も見に来ないとタカをくくっていた一輝は非常に焦っていた。
一輝にはアバターを3Dで踊らせるだけの知識も機材も持っていなかった。
アバターを踊らせるには配信者の体にトラッカーと呼ばれる機材を付け、それを赤外線カメラで撮影して位置を把握し、リアルタイムでアバターに反映させる必要がある。
トラッカーとカメラの数を増やすほど動きが滑らかさになるのだがカメラ1つで数十万円もして個人ではとても手が出ない。
画像を処理するパソコンも今使っているノートパソコンではパワー不足で話にならなかった。
金曜日の放課後、新入生歓迎会まで後わずか一週間、カラオケルームに行く金もない二人はいつものように一輝の部屋で3Dライブの打ち合わせをしていた。
「調べたんだが光学式モーションキャプチャのレンタルスタジオがいくつかあったんだ。そこならモーションキャプチャスーツやら撮影機材を貸してくれるんだ」
「スタジオで3Dライブを収録してその動画を講堂で流すというわけね。ライブじゃないけどそれでもいいんじゃないの」
「だけど一時間スタジオを借りるのに三万円もするんだ」
「そんなにするの!」
「これでも格安らしい。でも撮影が一時間で終わるとは到底思えん。最低でも四時間はかかるだろうな」
「話にならないわ。やっぱり3Dライブはあきらめましょう」
「もう3Dライブがあるってみんな期待しているんだ」
「そもそもどうしてライブしなきゃならないの?」
「廃校が決まった学園を救うにはライブって決まってるんだよ!」
一輝はいつも見ているアイドルアニメの影響を多分に受けているのだが、カリンは理解できずに首を捻った。
「よくわからないけどもう日にちがないわよ」
その時一輝のスマホが鳴った。
「おっ!友達から電話だ」
「友達いたの?」
「学園の外に一杯いるわい!同人仲間の五十嵐さんだ」
「同人てあの破廉恥な漫画を描いている仲間なの?」
カリンが鋭い眼光で一輝を睨みつけた。
学園の創設者でもあるカリンは生徒の風紀に関してとても厳しい。
「加賀宮君、まだそんなことしていたの?」
「いやあ…あのう、そのう…」
一輝は狼狽しながら電話に出た。
すかさずカリンは一輝のスマホに耳を近づけて聞き耳を立てた。
「イッキ先生!お久しぶりでござる!最近音沙汰ないけどどーされた?」
「いやー、最近部活動が忙しくてな」
「イッキ先生が部活動!?陽キャかよ!何してんだよ?」
「あれだよ、あれ。Vチューバーだ」
「イッキ先生がVチューバーでござるか?」
「違うよ。俺は3Dのアバターを作っているんだ」
「へぇー、どんなアバターでござるか?」
一輝はカリンの方をチラッと見てから言った。
「エルフの女子高生」
「やっぱりイッキ先生だぜ!そこにシビれる!あこがれるゥ!エロいキャラ作ってんだろう!拙者も最近美少女メイドとイチャイチャできるVRゲームで遊んでいるんだぜ」
その時一輝は神の啓示を受け全身に電流が流れたのだった。
「そうか!成年向けのVRゲームだ!その手があった!五十嵐さん!当然そのゲームのためにVRデバイスを買ったんだよな」
「もちのロン!最新式のヘッドセットとトラッカーを買ったぜ!総額百万以上かかったでござるよ!」
五十嵐はエロのためなら金に糸目はつけないオタクだった。
「頼む!十日!いや一週間だけでいい。そのVRデバイス貸してくれ!」
「えー!やだよー!」
「エロいオリジナルキャラ作ってやるから!」
「でもまだ買ったばっかりだし…」
と、カリンがスマホを奪い取って話し出した。
「もしもし!私、森山学園Vチューバークラブの部長、森山カリンと申します」
「えっ!?」
「不躾なお願いで心苦しいのですが、ぜひともあなた様の機材を貸していただけないでしょうか」
「で、でも…」
「お・ね・が・い!」
「――し、仕方ないにゃあ…」
翌日、二人は一輝の同人仲間の五十嵐の下宿に突撃した。
五十嵐は気ままなオタク生活を満喫している大学生だった。
彼はカリンを一目見るとデレデレしまくって、喜んでVRデバイスをカリンに装着し手取り足取り使い方を指南してくれた。
結局一輝は五十嵐の高性能ゲーミングパソコンまで借りることになり、彼は新しいシステムのために懸命にアバターの調整をした。
そして、遂に新入生歓迎会の日がやって来たのだ。
堅苦しい学校紹介の動画だけでは誰も見てくれないことをカリンもようやく気が付いた。
カリンは歌ったり、学食の食レポをしたり、部活の体験入部をしたりしてエルフの女子高生のアバターが学園生活を楽しんでいる様子を投稿した。
そのおかげか徐々にであったがチャンネル登録者と再生数も増えていった。
カリンは素直に喜んでいたが一輝の思いは複雑だった。
Vチューバークラブが学園中に周知されたため新入生歓迎会での3Dライブの期待値が増したのだ。
どうせ誰も見に来ないとタカをくくっていた一輝は非常に焦っていた。
一輝にはアバターを3Dで踊らせるだけの知識も機材も持っていなかった。
アバターを踊らせるには配信者の体にトラッカーと呼ばれる機材を付け、それを赤外線カメラで撮影して位置を把握し、リアルタイムでアバターに反映させる必要がある。
トラッカーとカメラの数を増やすほど動きが滑らかさになるのだがカメラ1つで数十万円もして個人ではとても手が出ない。
画像を処理するパソコンも今使っているノートパソコンではパワー不足で話にならなかった。
金曜日の放課後、新入生歓迎会まで後わずか一週間、カラオケルームに行く金もない二人はいつものように一輝の部屋で3Dライブの打ち合わせをしていた。
「調べたんだが光学式モーションキャプチャのレンタルスタジオがいくつかあったんだ。そこならモーションキャプチャスーツやら撮影機材を貸してくれるんだ」
「スタジオで3Dライブを収録してその動画を講堂で流すというわけね。ライブじゃないけどそれでもいいんじゃないの」
「だけど一時間スタジオを借りるのに三万円もするんだ」
「そんなにするの!」
「これでも格安らしい。でも撮影が一時間で終わるとは到底思えん。最低でも四時間はかかるだろうな」
「話にならないわ。やっぱり3Dライブはあきらめましょう」
「もう3Dライブがあるってみんな期待しているんだ」
「そもそもどうしてライブしなきゃならないの?」
「廃校が決まった学園を救うにはライブって決まってるんだよ!」
一輝はいつも見ているアイドルアニメの影響を多分に受けているのだが、カリンは理解できずに首を捻った。
「よくわからないけどもう日にちがないわよ」
その時一輝のスマホが鳴った。
「おっ!友達から電話だ」
「友達いたの?」
「学園の外に一杯いるわい!同人仲間の五十嵐さんだ」
「同人てあの破廉恥な漫画を描いている仲間なの?」
カリンが鋭い眼光で一輝を睨みつけた。
学園の創設者でもあるカリンは生徒の風紀に関してとても厳しい。
「加賀宮君、まだそんなことしていたの?」
「いやあ…あのう、そのう…」
一輝は狼狽しながら電話に出た。
すかさずカリンは一輝のスマホに耳を近づけて聞き耳を立てた。
「イッキ先生!お久しぶりでござる!最近音沙汰ないけどどーされた?」
「いやー、最近部活動が忙しくてな」
「イッキ先生が部活動!?陽キャかよ!何してんだよ?」
「あれだよ、あれ。Vチューバーだ」
「イッキ先生がVチューバーでござるか?」
「違うよ。俺は3Dのアバターを作っているんだ」
「へぇー、どんなアバターでござるか?」
一輝はカリンの方をチラッと見てから言った。
「エルフの女子高生」
「やっぱりイッキ先生だぜ!そこにシビれる!あこがれるゥ!エロいキャラ作ってんだろう!拙者も最近美少女メイドとイチャイチャできるVRゲームで遊んでいるんだぜ」
その時一輝は神の啓示を受け全身に電流が流れたのだった。
「そうか!成年向けのVRゲームだ!その手があった!五十嵐さん!当然そのゲームのためにVRデバイスを買ったんだよな」
「もちのロン!最新式のヘッドセットとトラッカーを買ったぜ!総額百万以上かかったでござるよ!」
五十嵐はエロのためなら金に糸目はつけないオタクだった。
「頼む!十日!いや一週間だけでいい。そのVRデバイス貸してくれ!」
「えー!やだよー!」
「エロいオリジナルキャラ作ってやるから!」
「でもまだ買ったばっかりだし…」
と、カリンがスマホを奪い取って話し出した。
「もしもし!私、森山学園Vチューバークラブの部長、森山カリンと申します」
「えっ!?」
「不躾なお願いで心苦しいのですが、ぜひともあなた様の機材を貸していただけないでしょうか」
「で、でも…」
「お・ね・が・い!」
「――し、仕方ないにゃあ…」
翌日、二人は一輝の同人仲間の五十嵐の下宿に突撃した。
五十嵐は気ままなオタク生活を満喫している大学生だった。
彼はカリンを一目見るとデレデレしまくって、喜んでVRデバイスをカリンに装着し手取り足取り使い方を指南してくれた。
結局一輝は五十嵐の高性能ゲーミングパソコンまで借りることになり、彼は新しいシステムのために懸命にアバターの調整をした。
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