上 下
8 / 15

8.こんな私にも理解のある仲間ができました

しおりを挟む
 その日の帰りのホームルームの時間だった。
 委員長の吉村芽森めもりがいつものように教壇に立った。
 ガヤガヤと騒いでいた生徒たちが次第に静かになりみんなが吉村に注目した。
「はーい!みなさんが静かになるまで二十五秒かかりましたよ」
 ドッと笑いが起こる。
 ツカミは上々だ。
「今日は皆さんに素敵なお知らせがあります。加賀宮一輝君。森山カリンさん。前に出てきてくれますか」
 いきなり名前を呼ばれて一輝は心臓が止まるかと思った。
 森山学園は元々女子高だったためクラスの九割は女子だった。
 そのためどのクラスでも男子生徒は目立たないように小さく縮こまっているのだ。
「加賀宮君!早くして!」
 吉村が急き立てた。
 カリンの方を見ると彼女は落ち着いた様子ですぐに教壇に向かって歩いていた。 
 一輝も仕方なく処刑場に向かう罪人の気分で席を立った。
 両脇に一輝とカリンが揃うと吉村は教壇の上に置いたノートパソコンをつけた。
 ノートパソコンには「私立森山学園チャンネル」の画面が表示された。
「先日、この二人はVチューバー同好会を結成し、このチャンネルを開設しました」
 吉村がクリックすると一輝達が初めて投稿した「学園紹介」の動画が再生された。
「―――受験生の皆さん、こんにちは。私はエルフの”エイル”と申します。これから私が通う森山学園を紹介いたします」
 教室中がざわつき、吉村の取り巻きの女子の一人が手を挙げて質問をした。
「ねぇ、芽森めもり!それって加賀宮たちが作った動画ってコトなの?」
「そうよ!」
「えっ!こいつら、いつの間に配信なんてしてんの?」
「めっちゃ笑えない!」
「承認欲求強すぎ!」
「イキってんの!」
 自分たちだってしょちゅう下手なダンス動画をアップしているくせにボロクソである。
 一輝は恥ずかしくていたたまれなかった。
 一方カリンはというと無表情で何を考えているのかまったくわからなかった。
 一輝とカリンがクラス中の晒し者になっている間にも、カリンの分身アバターエイルは切々と視聴者に森山学園の良さを訴えていた。
「――間もなく創立150年を迎える森山学園は今でも『心の教育』を大切にしています。日本の礼儀・礼節を学ぶ和の心得を学べます。日本にとってこの150年は戦争、恐慌、大規模な自然災害と非常に多難な時代でした。こうした中、学園を守り伝えてきた先人の苦難ははかり知れないものがあったことでしょう」
 一輝にとって永遠とも思える時間が過ぎ、ようやく動画の再生が終わった。
「はい、みんな拍手!」
 吉村が拍手を促すとクラスメート達は面倒くさそうにパチパチと手を叩いた。
「この二人は廃校を阻止し学園を守りたいという使命感のためにこの動画を作ってくれました。私たちも同じ学園の一員として立ち上がりましょう!みんなでこのチャンネルを宣伝して森山さんたちの手助けをしましょう!」
 再びクラスメートたちは気だるそうに拍手をした。
 すると吉村の取り巻きの一人がまた手を挙げた。
「でも芽森めもり、学園紹介ならもうホームページがあるじゃん」
「そうよ。公式の紹介動画もアップされているわよ」
 クラスの女生徒達が騒ぎ出し一輝は狼狽した。
「えっ!?そんなのがあったのか!?」
「ええーっ!転校生が知らないのはしょうがないけど、加賀宮まで知らないなんて…」
 一輝は慌てて自分のスマホを取り出すと森山学園の公式ホームページを探した。

 荘厳なBGMが流れる中、制服姿の女生徒達が次々と現れる。
 やがて女生徒達は人文字で巨大な「森山」の文字を作る。
 その様子をドローンが空撮し、森山学園の全景が映し出される。
 場面は一転し陽光が溢れる講堂に一人佇む髪の長い女生徒の後ろ姿。
 その女生徒は後ろ姿のまま校舎の廊下を歩く。
 すれ違う生徒たちはみんな楽しそうに微笑んでいる。
 そして次々と校内の様子が映し出される。
 視聴覚室でパソコンに向かう生徒、トラックを走る生徒、生け花をしている生徒、弓を射る生徒、外国人教師と談笑している生徒、桜の木の下でランチをしている生徒…。
 いかにもプロに頼んで金をかけたんだろうなという良く見る映像が続いた。
 そして、校舎の屋上に立つ一人の髪の長い女生徒が正面を振り向いた。
 その女生徒こそ吉村芽森めもりだった。
 吉村は爽やかな笑顔を浮かべなら呟く。
「未来に向かって…森山学園」

 一輝の顔は青ざめ動揺を隠せなかった。
「こんな公式動画があったのか…」
「まあ、しょうがないわよ。学校紹介の動画なんか見てくれる暇人はそうそういないものね」
 それは先ほど学食で一輝が吉村芽森めもりに言ったセリフだった。
(うわーっ!こいつ、顔はニコニコしているが絶対に怒ってるぞ!)
 と、カリンが吉村の方を向いて尋ねた。
「この動画はいつ作ったの?」
「去年の秋のオープンキャンパスに合わせて学園主導で作ったのよ。オーディションに応募して私も出演させてもらったわ」
「そうか…。学園もただ手をこまねいていたわけではなかったのね。しかし結局は新入生は定員割れしたわ」
「ごめんね!力不足で!」
 さすがに吉村がムカついた顔で嫌味を言った。
「いえ、ご苦労様でした、委員長!」
 そしてカリンがクラスメートに向かって深々と頭を下げながら言った。
「クラスの皆様、私達の動画の宣伝、どうぞよろしくお願いいたします」
 それを見て一輝も慌ててペコリと頭を下げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

鳥に追われる

白木
ライト文芸
突然、町中を埋め尽くし始めた鳥の群れ。 海の上で燃える人たち。不気味な心臓回収人。死人の乗る船。僕たち三人は助かるの?僕には生きる価値があるの?旅の最後に選ばれるのは...【第一章】同じ会社に務める気弱な青年オオミと正義感あふれる先輩のアオチ、掴みどころのない年長のオゼは帰省のため、一緒に船に乗り込む。故郷が同じこと意外共通点がないと思っていた三人には、過去に意外なつながりがあった。疑心暗鬼を乗せたまま、もう、陸地には戻れない。【第二章】突然ぶつかってきた船。その船上は凄惨な殺人が起きた直後のようだった。二つ目の船の心臓回収人と乗客も巻き込んで船が進む先、その目的が明かされる。【第三章】生き残れる乗客は一人。そんなルールを突きつけられた三人。全員で生き残る道を探し、ルールを作った張本人からの罠に立ち向かう。【第四章】減っていく仲間、新しく加わる仲間、ついに次の世界に行く者が決まる。どうして選別は必要だったのか?次の世界で待ち受けるものは?全てが明かされる。

お昼ごはんはすべての始まり

山いい奈
ライト文芸
大阪あびこに住まう紗奈は、新卒で天王寺のデザイン会社に就職する。 その職場には「お料理部」なるものがあり、交代でお昼ごはんを作っている。 そこに誘われる紗奈。だがお料理がほとんどできない紗奈は断る。だが先輩が教えてくれると言ってくれたので、甘えることにした。 このお話は、紗奈がお料理やお仕事、恋人の雪哉さんと関わり合うことで成長していく物語です。

世界で一番ママが好き! パパは二番目!

京衛武百十
ライト文芸
ママは、私が小学校に上がる前に亡くなった。ガンだった。 当時の私はまだそれがよく分かってなかったと思う。ひどく泣いたり寂しがった覚えはない。 だけど、それ以降、治らないものがある。 一つはおねしょ。 もう一つは、夜、一人でいられないこと。お風呂も一人で入れない。 でも、今はおおむね幸せかな。 だって、お父さんがいてくれるから!。

黄泉ブックタワー

どっぐす
ライト文芸
無気力系OLと元気いっぱいな悪魔のお話です。 【あらすじ】 8月の、ある日。 社会人一年生・アカリは、いつも見かけている秋葉原のタワー型本屋が黒く禍々しい塔に置き換わっていることに気づいた。 あまりに非現実的な光景に呆然としてしまうアカリ。 そんな彼女の前に、その塔からやってきたという青年・ミナトが現れる。 自分は悪魔の一種である“本魔”。 彼はそのように自己紹介し、「願いを一つだけ叶えてやる」と怪しい話を持ちかけてくるのだが……。 ※イメージイラストは秋野ひろこ先生より頂きました。 秋野ひろこ先生のPixivページ https://www.pixiv.net/users/1403943

【完結】悪兎うさび君!

カントリー
ライト文芸
……ある日、メチル森には… 一匹のうさぎがいました。 そのうさぎは運動も勉強も出来て 皆から愛されていました。 が…当然それを見て憎んでいる 人もいました。狐です。 いつもみんなに愛される うさぎを見て狐は苛立ちを覚えていました。 そして、ついに狐はうさぎに呪いを、 かけてしまいました。 狐にかけられた呪いは… 自分の性格と姿を逆転する 呪い… 運のいい事。 新月と三日月と満月の日に元の姿に戻れる けれど…その日以外は醜い姿のまま 呪いを解く方法も 醜い姿を好きになってくれる 異性が現れない限り… 一生呪いを解くことはできない。 そんなうさぎと… 私が出会うなんて 思いもしなかった。 あなたと出会ったおかげで つまらなかった毎日を 楽しい毎日に変えてくれたんだ。 これは、ふざけた兎と毎回ふざけた兎によって巻き込まれる主人公M iと森の動物たちのお話。 呪われた兎は果たして、呪いを解く事はできるのか? 2023年2月6日に『完結』しました。 ありがとうございます!

思い出を売った女

志波 連
ライト文芸
結婚して三年、あれほど愛していると言っていた夫の浮気を知った裕子。 それでもいつかは戻って来ることを信じて耐えることを決意するも、浮気相手からの執拗な嫌がらせに心が折れてしまい、離婚届を置いて姿を消した。 浮気を後悔した孝志は裕子を探すが、痕跡さえ見つけられない。 浮気相手が妊娠し、子供のために再婚したが上手くいくはずもなかった。 全てに疲弊した孝志は故郷に戻る。 ある日、子供を連れて出掛けた海辺の公園でかつての妻に再会する。 あの頃のように明るい笑顔を浮かべる裕子に、孝志は二度目の一目惚れをした。 R15は保険です 他サイトでも公開しています 表紙は写真ACより引用しました

嘘を吐く貴方にさよならを

桜桃-サクランボ-
ライト文芸
花鳥街に住む人達は皆、手から”個性の花”を出す事が出来る 花はその人自身を表すものとなるため、様々な種類が存在する。まったく同じ花を出す人も存在した。 だが、一つだけ。この世に一つだけの花が存在した。 それは、薔薇。 赤、白、黒。三色の薔薇だけは、この世に三人しかいない。そして、その薔薇には言い伝えがあった。 赤い薔薇を持つ蝶赤一華は、校舎の裏側にある花壇の整備をしていると、学校で一匹狼と呼ばれ、敬遠されている三年生、黒華優輝に告白される。 最初は断っていた一華だったが、優輝の素直な言葉や行動に徐々に惹かれていく。 共に学校生活を送っていると、白薔薇王子と呼ばれ、高根の花扱いされている一年生、白野曄途と出会った。 曄途の悩みを聞き、一華の友人である糸桐真理を含めた四人で解決しようとする。だが、途中で優輝が何の前触れもなく三人の前から姿を消してしまい――……… 個性の花によって人生を狂わされた”彼”を助けるべく、優しい嘘をつき続ける”彼”とはさよならするため。 花鳥街全体を敵に回そうとも、自分の気持ちに従い、一華は薔薇の言い伝えで聞いたある場所へと走った。 ※ノベマ・エブリスタでも公開中!

スラッガー

小森 輝
ライト文芸
 これは野球をほとんどしない野球小説。  中学時代、選抜選手にも選ばれ、周りからはスラッガーと呼ばれた球児、重心太郎は高校生になっていた。テスト期間に入り、親友である岡本塁と一緒に勉強をする毎日。そんな日々は重にとって退屈なものだった。そんな日々の中で、重は過去の傷を思いだし、そして向き合うことになる。  毎日、6時12時18時に投稿、頑張っていきます!もちろん、遅れたりすることもありますので……。  ちなみに、野球小説と言っても、野球はほとんどしません。なので、野球の知識は投げて打つ程度で十分です。  ライト文芸賞にも応募しています。期間中は投票お待ちしています。もちろん、お気に入り登録や感想もお待ちしています。してくれると、やる気が出るので、モチベーションのためにもどうかよろしくお願いします。 3/21追記 現在、心がポッキリといっております。出来れば今月中、もしくは来月上旬には完結させたいと思います。頑張ります。その後にライト文芸でもう一作品書きたいので……がんばります…… 3/31追記 一旦、休載します。4月後半に再開すると思います。その間、次の小説を書かせていただきます。

処理中です...