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第02章 イセカイ笑顔百景

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 私は自分の部屋に屋敷の召使のゴーレム達を呼びつけた。

「私、をやろうと思うの。だって一人で喋って他人を楽しませるって落語か漫談ぐらいでしょ。落語だったら私、子供の頃からおばあちゃんにずっと聞かせてもらってたから好きだったの」

 ゴーレム達に話かけても返事はない。
 しかし、私はお構いなしにゴーレム達に次々と指示を与えた。

「私ってカタチから入る女なのよね」

 金屏風と高座を作らせ、部屋の中央に置かせた。
 ゴーレム達は土人形のような見かけに反して、かなり手先が器用だった。
 私はイルマ様に布をもらって、着物と座布団と手拭いをゴーレム達に縫わせた。
 こういった品物を作る生活魔法がきっとあると思うが、今更勉強する時間はなかった。

「一体お前さんはゴーレム達に何をさせておるのじゃ?」

 忙しそうに作業をしているゴーレム達を見て、私の様子を見に来たイルマ様が興味深げに尋ねてきた。

「高座を作っています。高座とは落語が行なわれる舞台の名前です」
「ラクゴとはなんぞ?」
「最後に滑稽なオチのつく面白い『はなし』です。落語家は一人で何役も演じて身振り手振りだけでお噺を語ります」
「ほほう!ラクゴか!これは明日が楽しみじゃな!」
「明日は、私がどうしてこの世界に来ることになったのかお話しましょう」


 翌朝、バチを持ったゴーレムが太鼓を叩き始めた。

 ゴーレムは私の指示通り、「ドンドンドンと来い」と聞こえるように太鼓を叩いていた。
 食堂で朝食を取ってたイルマ様は太鼓の音を聞くと慌てて食事を終え、居間のモニターの前に陣取った。
 やがてモニターには金屏風を背にした高座が映し出された。
 高座の脇には演者の名前の書かれた紙製の大きな札「めくり」が置かれている。
「めくり」には私の芸名が寄席文字と呼ばれる独特の太い書体で書かれていた。

「異世界亭てんせい」
 
 これが私が昨日考えたばかりの私の芸名だった。

 ゴーレム達が三味線と太鼓で落語家が高座に上がる際にかかる出囃子でばやしを演奏した。
(残念ながらゴーレムは呼吸をしないので笛は吹けなかった)

「さあ、私の生命を懸けた渾身の創作落語をはじめましょう!」

 市松模様の着物を着こんだ私は緊張した面持ちで高座に向かった。
 座布団に座ると前に手拭いと扇子を置いて深々とお辞儀をした。



「えぇ~、『異世界亭てんせい』と申します」

『それがお前の名前なのか?』

 私の頭の中にイルマ様の声が響いてきた。

「違います!これは単なる芸名ですよ。芸名!そう言えば私の本名、まだ言ってませんよね」
『別にお前さんの名前なんかどうでもいいわい』
「どうせそうでしょうね!」

 まったく何千年も生きているエルフってのは、淡泊で素っ気ない。

「えぇ~、毎度ばかばかしい異世界話をおひとつ」
『毎度じゃないぞ。初めて聞く話じゃぞ』
「今のは落語の決まり文句なんですよ。黙って聞いていてください!」
『フン!面白くなかったら覚悟しておけ!』
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