五里霧中

クロム

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兆し

晴れ且つ曇り

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 目が覚めた。起き上がって時計を見る。5時を指していた。7時に家を出れば学校には余裕で着く、もう一眠りしよう。

「トシちゃーん!!朝よ-!!起きなさい!」
「はーい。ってちゃん付けすんな・・・」

 今何時だ?6時50分?危ないところだった。僕は急いで着替えると机の上を見た。そこには、昨日投げ出した英語の宿題が行儀正しく座っていた。すっかり存在を忘れていた。まあ電車の中でやれば終わるだろうと思い、バックに詰め込んだ後、リビングへ駆け込んだ。

「トシ、朝ごはんはゆっくり噛んで食べないと。」
「はいはい、噛んでるよ。」
 と言いながら僕はパンを口に詰め込み牛乳を飲み込んだ。

「行ってきまーす!」
「いってらっしゃーい。車には気をつけるのよー。」

 どんよりした空の朝だった。小走りに駅に向かっていると昨日のカミさんのことを思い出した。胸が熱くなる。家の前で掃除するおばさんがやけにのんきそうに見えた。
 今日カミさんに会ったら、なんと言えばいいのだろう。僕もカミさんのことが好きでしたーなんて言えるはずがない。駅に着くと電車に駆け込む。だが電車のドアが閉まったのはしばらく後だったので少し恥ずかしかった。

 英語の宿題を足の上に広げる。えーと未来形の疑問文の応用問題か。ふむふむ、分からん。どうやらこれはテキストを見ながらやる問題のようだ。あいにくテキストは学校に置いてきた。 
 三河駅についた。ここはカミさんの最寄駅だ。ドアが開くとカミさんが入ってきた。寝癖一つない髪がすごくきれいだった。仄かに香水の匂いがするが、これはカミさんから出ているものだろうか。

「山田くん!おはよう!」
「おはよ。あれ、お前いっつもこの一本前の電車じゃなかったけ?」
「うーん、まあそうなんだけど。」
「昨日の件か?」
「うん、返事を聞いてないなーなんちゃって。」
「答えはイエスだ。山田俊男は上野沢が好きだ。付き合おう。」
「何よそれ、馬鹿にしてんの?」
「してないよ。ただ条件がある。」
「何よ。」
 このことが広まったらグンマがかわいそうだ。
「グンマの前では僕らが付き合っている事を秘密にするって事。」
「何よ、それ。恋人同士なんだから照れる事ないでしょ。もしかしてそういうの気にしちゃうタイプ?」
「いや、これは僕ら五人の問題なんだ。カミさんと僕二人だけの問題じゃない。グンマは本当に君の事が好きなんだ。それはもう、容器から溢れんばかりに・・・・この事を知ればグンマはもう僕らとは一緒にいてくれないかもしれない。それはダメなんだ。僕らは絶対五人じゃなきゃいけないんだ。一人として欠けてはダメなんだよ。」
「私達より五人の方が大事、って事?」
「そうだ。君は違うのか。」
「私には分からない。分からないわ。でも、トッシーがそういうならそうするわ。」
「ありがとう、カミさん。」

 学校までの道はまだ早いため、すいていて知り合いもいなかった。カミさんと二人で朝登校している事に多少の幸福感を感じながら僕は歩き続けた。普段ヒーヒー登っている坂も楽に感じた。
 教室の前で僕らは別れ僕はA組にカミさんはC組に向かった。

「おう!おはよう!トッシー!!!」
「おはよ。」

 朝から怒鳴られた。こんなバカでかい声の持ち主は、案の定、沙耶高だった。髪は短く刈り上げている。また顔が小さい割に目は大きく、小動物みたいだ。

 「朝からそう時化た顔すんなよな!こっちも暗くなる。俺たち友達だろ?!」

 誰が友達になると言ったか。全く図々しい奴だ。しかし、こういうあっけらかんとした態度も嫌いではない。その時から嫌悪感は徐々に減っていった。

「今日の昼休みは俺と将棋で勝負しろ!ぶっ潰してやる。」
「ほう、棒銀の山田と言われた俺に勝てるとでも?いいだろう。受けてたとう。」
「その言葉忘れるんじゃないぞ?」

 空を濁らせていた霧は消え教室に光が差してきた。教室には人がだんだん増え、最後にアキが来た。相変わらず、汗で制服をビショビショにしている。

 先生がやってきた。ゲームをしていた奴は急いで隠して、みんな自分の席に着く。短いホームルームが終わり、また今から長い長い授業が始まる。
 僕は昼休みが待ち遠しくてたまらなかった。早く沙耶高と対戦したい。

「よし、じゃあ英語の授業始めるぞ。起立。礼。まず、宿題の答え合わせからやるぞ。」

 どうやら僕もまた変わってないようだ。
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